(15)PTSD以外の非器質性精神障害

1)病態

非器質性精神障害とは、脳の器質的損傷を伴わない精神障害のことで、精神科、心療内科では、パニック障害、外傷性神経症、抑うつ症、心気症、ヒステリー、PTSDなどと診断されています。
一時期、マスコミを騒がせたPTSDは、交通事故の後遺障害としては、ほぼ排除されています。

しかし、交通事故受傷を原因として、非器質性の精神症状が発生することは否定できません。
精神科、心療内科に通院し、パニック障害、外傷性神経症、抑うつ症、心気症、ヒステリーなどと診断され、改善が得られないときは、受傷から1年を経過した時点で後遺障害診断を受けることになります。
ここ3年間の経験則では、14級9号で5年の喪失期間が7件、12級13号で10年の喪失期間が4件の獲得です。12級、14級に限ってであれば、認定される傾向です。

2)非器質性精神障害の後遺障害等級

等級 障害の内容
9 10:日常生活がある程度、制限を受けるもの
就労可能な職種が、相当な程度に制限されるもの
通常の労務はできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
仕事に就けるが、対人業務、運転業務ができないなど大幅に職種を変えざるを得ないもの
日常生活は時々支障があるにとどまるが、意欲低下などで、仕事には行けないもの
12 13:日常生活または就労にある程度の支障があるもの
通常の労務はできるが、非器質性精神障害のために、多少の障害を残すもので、元の職種または同様の職種に就けるが、かなりの配慮が必要とされるもの
意欲の低下などにより仕事には行けないが、日常生活は概ねできるもの
14 9:日常生活または就労は概ねできるが、軽度の精神障害が認められるもの、
通常の労務はできるが、非器質性精神障害のために軽微な障害を残し、元の職種または同様の職種に就くことができるが、多少の配慮が必要なもの

労災保険では、9級の上に7級を設定していますが、経験則で判断する限り、交通事故では、7、9級はお飾りとして掲示されているだけで、認定されることは非常に困難です。

4)後遺障害のポイント

①専門医の診察と治療
事故後、非器質性精神障害で、就労の継続が困難な状態であるときは、なにをさておいても、精神科、心療内科などの専門医を受診し、治療を継続してください。

②家族の立証作業
厚生労働省の非器質性精神障害判定基準では、精神症状の状態に関する判断項目として、A~Fの6つを例示しています。
A 抑うつ状態
持続するうつ気分、(悲しい、寂しい、憂うつ、希望がない、絶望的であるなど)
なにをするにも億劫になる、それまで楽しかったことに対して、楽しい感情がなくなる、
気が進まない状態、これらの状態にあるか、日常から具体的に説明してください。
B 不安の状態
全般的不安や恐怖、心気症、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態にあるか、
C 意欲低下の状態
すべてのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、
自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない、
口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態、
D 慢性化した幻覚・妄想性の状態
自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえる等実際には存在しないものを知覚体験すること、
自分が他人から害を加えられている、食べ物に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等、内容が間違っており、確信が異常に強くて訂正不可能であり、その人個人だけに限定された意味付けなどの幻覚、妄想を持続的に示す状態、
E 記憶または知的能力の障害
非器質性の記憶障害としては、解離性健忘=心理性健忘があります。
自分が誰であり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまう生活史健忘や生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態
非器質性の知的能力の障害としては、解離性障害=心因性障害があります。
日常身辺生活は普通にしているのに改めて質問すると自分の名前を答えられない、年齢は3歳とか、 1+1=3のように的外れな回答をするような状態、カンザー症候群、仮性痴呆が認められるか?
F その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
上記のA~Fに分類出来ない症状、多動つまり落ち着きのなさ、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴が認められるか?

また能力に関する判断項目としてA~Hの8つを例示しています。
A 身辺日常生活
入浴や更衣など、清潔保持を適切にすることができるか?
規則的に十分な食事をすることができるか?
B 仕事・生活に積極性・関心を持つこと
仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活などに対する意欲や関心があるか否か?
C 通勤・勤務時間の厳守
規則的な通勤や出勤時間など、約束時間の遵守が可能かどうか?
D 普通に作業を持続すること
就業規則に則った就労が可能か?
普通の集中力・持続力を持って業務を遂行できるか?
E 他人との意思伝達
職場において上司・同僚などに対して発言を自主的にできるか?
他人とのコミュニケーションが適切にできるか?
F対人関係・協調性
職場において上司・同僚と円滑な共同作業、社会的な行動ができるか?
G 身辺の安全保持、危機の回避
職場における危険などから適切に身を守れるか?
H 困難・失敗への対応
職場において新たな業務上のストレスを受けたとき、ひどく緊張する、混乱することなく対処できるか?どの程度適切に対応ができるのか?

被害者の家族は、落ち着いて、そして時間をかけて、この判定基準の項目ごとに、具体的なエピソードを日付、時間を入れてメモしていくのです。
書いては消し、書いては修正の繰り返しで3カ月は、この作業に没頭し、1年を経過して症状固定、後遺障害診断を受けるときに、これらのメモを専門医に提出するのです。
専門医は、ICD-10、DSM-Ⅳの診断基準にしたがって非器質性精神障害を診断するのですが、後遺障害診断書の記載では、家族の作成したメモが有効な働きをしてくれます。

③ここまで努力して、やっと12級13号もしくは14級9号が認定されるのです。
努力を怠れば、間違いなく、非該当です。
画像で立証できない非器質性精神障害は、立証でも苦労が続きます。

大事なことは、
※本件事故が原因となって、
※被害者が、どのような精神的打撃を受け、
※どのような精神症状が出現し、
※結果として、具体的どのような損害が発生しているのか?

これらを立証しないと、後遺障害等級には、つながらないのです。

双極性障害と診断されたのですが?
双極性障害は、気分が高揚すること、落ち込むこと、つまり、躁状態と鬱状態を繰り返す心の病気であり、交通事故との因果関係はなく、交通事故を原因として双極性障害を発症することはありません。

双極性障害は、以下の2つに分類されます。
①双極Ⅰ型  激しい躁状態と、鬱状態を繰り返すもの、
②双極Ⅱ型  軽い躁状態とうつ状態を繰り返すもの、

躁状態では、気分が高揚し、誰かれ構わず話しかけ、まったく眠らずに動き回るなど活動的になり、ギャンブルに全財産を注ぎ込む、高額ローンを組んで買い物をする、上司と大喧嘩して辞表を叩きつけるなど、社会的信用や財産、職を失ったりする激しい状態になることもあります。
いつもよりも、妙に活動的で周囲から、
「なんだか、あの人らしくない?」
「元気過ぎる?」
と思われるような軽い状態のものは、軽躁状態と呼ばれます。

鬱状態となると、一日中憂鬱な気分で、眠れなくなる、または逆に眠り過ぎたりします。
大好きな趣味やテレビ番組にも関心がなくなり、食欲が低下し、おっくうで身体を動かすことができないといった症状もみられます。

世界的には、双極性障害はおよそ100人に1人の分布です。
日本では、500人に1人 と、もっと少ないという調査結果がありますが、まだこうした研究が少なく、ハッキリしたことは分かっていません。いずれにしても、決して珍しい病気ではありません。
また、かかりやすさに男女差はなく、20~30代前後に発症することが多いとされていますが、中学生から老年期まで、幅広い年齢で発症する病気です。

外傷性ではなく、交通事故との因果関係も認められませんが、非器質性精神障害の対応では、知っておくべき疾患です。