(3)頚椎捻挫 ケベックレポート

損保が治療打ち切りの根拠にしているケベック・レポートについて解説しておきます。
これは、1995年、カナダのケベック州自動車保険機構の交通事故データ、頚椎捻挫3014例に基づいて、ケベック 頚椎捻挫関連障害特別調査団が作成した報告書で、WADを分類し、時間経過を軸にした症状の重症度による診療ガイドラインです。

ケベック・レポート WADの臨床分類
グレード 臨床所見
0 頚部の愁訴なし、他覚的所見なし
頚部の疼痛、強直、または圧痛の愁訴はあるが、他覚的所見のないもの、
他覚的所見=可動域制限、圧痛点がある頚部愁訴、
神経学的所見=深部腱反射の低下、筋力低下、知覚障害などを伴う頚部愁訴
骨折または脱臼を伴う頚部愁訴、

※難聴、めまい、耳鳴、頭痛、記憶喪失、嚥下障害、顎関節痛はいずれのグレードでもみられる。
また6カ月以上症状を示している状態を慢性化と定義している。

日常、相談を受ける頚椎捻挫は、ⅠⅡが圧倒的ですが、ケベック・レポートでは、Ⅰは特別な治療が必要なく、Ⅱでも4日以上の安静は必要ないとされています。
そして、Ⅰでは7日目、Ⅱでは3週目に再評価が必要とされ、その時点で軽快していなければ、整形外科治療以外に心理的療法の併用を推奨しています。
訴訟で提出される、損保の意見書には、ケベック・レポートを根拠とし、実際に要した休業期間や治療期間が不当に長いとの主張をしてくることが目立ちます。

GradeⅠ、Ⅱの症例では、3週間以上の治療の継続に必要性がないと結論している意見書も目にしていますが、これらは、ケベック・レポートを損保にとって都合のいいように歪曲したものです。
なぜなら、ケベック・レポートでは、あくまでも専門家による定期的な再評価の必要性が説明されているのであって、一定期間で治療を打ち切るとは説明していません。

1)ケベック・レポートの問題点

①ケベック・レポートは、カナダの損保からの依頼で作成された論文です。
損保がスポンサーの論文ですから、裁判で必要とされる客観的な証拠とはなりません。

②ケベック・レポートにおける治療の終了ポイントは、症状の治癒ではなく、仕事などの活動再開におかれているところも納得することができません。
症状を残していて支障があるのに、なんとか仕事ができるようになれば、治療が終了となるのです。
損保にとっては、都合がいいのですが、被害者は納得できません。

③ケベック・レポートでは、めまい、耳鳴りなど多彩な症状についてはスルーされています。
分析されたのは、カナダのケベック州におけるデータであり、人種、社会、医療などの背景は、日本国内のものとは、相当、異なっています。
NPOジコイチが相談を受けているWADとは、決して同じではないのです。
以上の点から、損保が、WADでケベック・レポートを引用するのは不適切です。

②被害者の心構え?

ともあれ、あなたのムチウチが、ケベック・レポートのGradeⅠ、Ⅱ、Ⅲのいずれに該当するのか?
あなた自身で、検証しておかなければなりません。

①Grade0では、
症状なしですから、治療の必要性もなく、人身事故にもなりません。

②GradeⅠでは
他覚的所見がない頚部愁訴とされていますが、MRI撮影で症状と整合性のある年齢変性所見が得られていれば、GradeⅡに格上げとなります。
辛い症状が続くときは、MRIの撮影で検証しなければなりません。

③GradeⅡでは、
他覚的所見を伴う頚部愁訴とされていますが、頚部の可動域制限や圧痛点であれば、損保は、有効な他覚的所見とは考えていません。
GradeⅠと判断され、3カ月で打ち切られることも予想されるので、MRI撮影により、自覚症状との整合性を立証しておかなければなりません。
損保の信じる他覚的所見とは、MRIの画像所見のことです。

④GradeⅢでは、
神経学的所見を伴う頚部愁訴とされており、MRI画像で、C5/6もしくは6/7の左右のいずれかに、末梢神経を大きく圧迫する所見が確認できれば、12級13号が認定される可能性が予想されます。

頚部神経学的検査の代表的なものは、神経根を圧迫するスパーリングとジャクソンテスト、

※上のイラストがスパーリングテスト、下がジャクソンテスト

深部腱反射テスト
深部腱反射テスト

通院治療先の初診で、これらの検査が実施されないこともあります。
そんなときは、新たな整形外科を探し出し、転院しなければなりません。

⑤GradeⅣでは、
骨折または脱臼を伴う頚部愁訴であり、こうなるとムチウチ損傷の領域ではありません。

そしてケベック報告では頚部愁訴以外のめまい、耳鳴りなど多彩な症状について言及していません。そしてこの報告の中のデータは人種背景、社会背景、医療背景などが国内のものと異なっており、我々が普段、取り扱っているWADとは少し異なる可能性があるのです。

最後に一番の大きな問題は、損保からの依頼で書かれた論文であることです。
損保がスポンサーの論文ですから、裁判で必要とされる客観的な証拠とはなり得ないと考えます。