(53)足根骨 距骨々軟骨損傷(きょこつこつなんこつそんしょう)

(1)病態

距骨骨折のところで、「距骨表面の80%は関節軟骨で覆われ、筋肉が付着していないこともあって、血流が乏しいのを特徴としています。」 と解説しています。
足関節を骨のパーツで見ると、距骨は、脛骨と腓骨で挟み込まれるソケット構造となっています。
そして、距骨は、距骨滑車で脛骨や腓骨と、距骨頭で舟状骨と、前・中・後距骨で踵骨と関節面を形成しており、これらの表面は、軟骨で覆われているのです。

距骨滑車

距骨々軟骨損傷は、距骨々折ほど重症例ではありませんが、足首の捻挫に合併する代表例です。

オレンジ色の線は、足首の捻挫で、伸びたり切れたりすることの多い前距腓靭帯です。
青い丸の部分は、距骨々軟骨損傷で痛みを感じるところです。

足関節を、底屈時に、内返し捻挫すると、前距腓靱帯を損傷、断裂することも珍しくありません。
このときに、距骨と𦙾骨が衝突し、衝撃で、距骨内側の軟骨を損傷するのです。

(2)症状

足関節の痛みと腫れです。
陳旧性で古傷化したものは、いよいよ歩けなくなって、病院に出向きます。

(3)治療

背屈時の内返し捻挫では、腓骨と接する距骨外側で軟骨が損傷します。
軟骨損傷は、軟化に始まり、亀裂→分離→遊離と重症化していきます。
多くの整形外科医は、前距腓靱帯損傷を伴う足関節捻挫と診断しますが、専門医であれば、距骨々軟骨損傷を見逃しません。

軟骨損傷
※①軟骨の軟化 / ②軟骨の亀裂 / ③軟骨の分離 / ④軟骨の遊離

MRIにより、確定診断がなされています。
①②では、足関節のサポーターの装用、もしくはギプス固定で経過観察となります。
③④であれば、関節鏡により軟骨の除去術が選択されます。
関節鏡によるオペであっても、10日~2週間の入院が必要となります。
損傷の大きさとステージによって異なりますが、歩行は術後3週間で可能で可能となりますが、日常生活の復帰に約3カ月、スポーツの再開となると、4、5カ月を要します。

現在では、鏡視下骨髄刺激法が最も適切な手術療法といわれています。
鏡視下で、骨軟骨片を摘出し、軟骨下骨にドリリングで孔を穿ち、骨髄からの出血を促し、欠損部を修復組織で被覆する手術療法が普及しつつあります。

(4)後遺障害のポイント

1)距骨々軟骨損傷の後遺障害は、損傷部の疼痛と、足関節の可動域制限です。
受傷直後に、専門医が軟骨損傷を診断、治療を行ったときは、後遺障害を残すことはありません。

2)しかし、交通事故外傷ですから、広い範囲に軟骨損傷が認められるときは、14級9号、12級13号の痛みや、12級7号の運動制限を残すことも予想されます。

3)問題となるのは、足関節の捻挫、前距腓靱帯損傷で放置されたときです。
放置されたまま、第4ステージまで重症化すると、遊離した軟骨により、周囲の軟骨が損傷し、軟骨損傷の範囲が大きくなり、ほぼ確実に、変形性足関節症に進化していきます。

XP、MRIで、健側と比較しながら、個別の軟骨損傷を立証していきます。
等級の予想は、画像分析が完了してからとなります。