(1)病態
距骨(きょこつ)は、踵骨の上方にあり、脛骨、腓骨と連結して足関節を形成しています。
距骨表面の80%は関節軟骨で覆われ、筋肉が付着していないこともあって、血流が乏しく、骨折では、血行障害となり、壊死・偽関節・関節症変化による機能障害を残すことが多く見られます。
交通事故では、自転車やバイクVS自動車の衝突で、転倒時に、背屈を強制され、脛骨や腓骨に挟まって骨折することがほとんどですが、自動車を運転中に、センターラインオーバーの相手車を発見、急ブレーキをするも間に合わず正面衝突を受けた例でも、距骨骨折を経験しています。
(2)症状
足首の激痛、腫れ、歩行はできません。
(3)治療


上図の①②であれば、壊死も考えにくく底屈位で整復後、10週間のギプス固定で改善に向かいます。
しかし、③④は距骨下関節の脱臼を伴っており、重傷です。
③は壊死の可能性が考えられ、④になると、壊死は決定的です。
いずれも、整復固定術により強力に内固定を行い、術後、ギプス固定⇒PTB装具となります。
受傷後6週間を経過すればMRIや骨シンチグラフィー検査で壊死の診断が可能です。
ホーキンス兆候=軟骨下骨萎縮が認められれば、血液循環が保たれていると考えられます。
徐々に部分荷重を開始し、骨萎縮像が消失したら全荷重とします。
骨萎縮像を認めないときは、PTB装具で厳重な免荷と自動運動を実施、骨萎縮像の出現を待ちます。過去には、全荷重までに2~3年を要したこともありました。
平均的には、次の経過をたどります。
①2、3カ月でHawkins兆候の陽性=距骨滑車下の骨萎縮、
②4、5カ月で距骨の硬化像、ボチボチとPWB=部分荷重によるリハビリが開始されます。
③6カ月以降、骨梁の修復、様子を見てFWB=全荷重によるリハビリが開始されます。
※NWBは免荷、PWBは部分荷重、FWBは全荷重
下腿骨の骨折などで使用される装具であるPTB装具により、膝蓋骨で体重を支持しますので、足はNWB、宙に浮いている状態です。
両方が同じ高さでないと歩行ができないので、健足にも補高が付けられます。


ナカシマメディカル
最近では、上記の人工距骨も臨床で使われ始めているとのことです。
壊死が多く荷重時期が遅くなるのであれば、人工関節も十分選択の範囲内と思われます。
(4)後遺障害のポイント
1)症状固定時期の決断?
距骨の骨折では、足関節の可動域制限が後遺障害の対象です。
ところが、術後、理想的な経過をたどっても、FWBまでに6カ月ですから、その後のリハビリを含めると症状固定までに、8カ月~1年以上が予想されるのです。
損保は、足関節周辺の骨折と思っていますから、4カ月を過ぎれば、毎月のように、電話でせっつかれ、休業損害や治療の打ち切りが仄めかされたりします。
社会復帰の遅れは、被害者にとっても焦りであり、感情的な対立も珍しくありません。
大人の対応を続けていても、鬱陶しい限りなのです。
そこで、被害者には、受傷後早期に、弁護士に委任することを提案しています。
弁護士は、損保に対して、距骨の骨折は治療が長期化することを、前もって伝えておきます。
治療の経過と見通しは、毎月の休業損害の支払確認の際に、ありのままを報告しておきます。
こうなると、被害者に電話が入ることはなく、静かな環境で治療に専念することができます。
被害者が事務職であれば、PWB=部分荷重で就労復帰を指導していますが、現業職で、当面の配置転換が不可能なときは、就労復帰まで休業損害を請求することになります。
この環境で、FWB=全荷重まで待ち、この間、足関節の可動域を計測し続けます。
私の経験では、大多数が2分の1以下の制限で10級11号が認定されているのですが、10級11号の認定を目指して、可動域をチェック、症状固定の時期を探っています。
2)人工距骨に置換したときは、10級11号が認定されると予想しています。
3)無腐性壊死となり、足関節固定術が実施されたときは、8級7号が認定されます。