病態
交通事故で手足が切断となっても、被害者が出血多量で亡くなった? ほとんどありません。
事故外傷が発生すると、交感神経の緊張、反射が高まり、神経伝達物質、アドレナリンを放出、アドレナリンには血管を収縮させる作用があり、これにより出血を止めているのです。
さらに、四肢の血管は収縮し、腫脹を防止します。
医学の常識では、外傷が治癒に向かうと、交感神経の反射は消失、正常な働きに戻ります。
では、交感神経反射が消失せずに続いたときはどうなるのでしょうか?
アドレナリンが放出され続けることにより、血流障害を起こします。
血液は全身の細胞に酸素と栄養を送り、老廃物や不要なものを回収しているのですが、血流障害により、細胞に必要な栄養は届かず、老廃物はたまる一方となります。
交感神経が緊張しているときは、副交感神経の働きは抑えられます。
副交感神経は、臓器や器官の排泄や分泌を担当しています。
便や尿の老廃物の排泄、ブドウ糖を利用するときに必要なインスリン、つまりホルモンや消化酵素やタンパク質の供給が著しく低下し、身体は循環不全を起こすのです。
白血球は、顆粒球とリンパ球、単球で構成されているのですが、交感神経優位のときは顆粒球が活躍しています。顆粒球は血液の流れに乗り全身をパトロールしており、体内に侵入した細菌や細胞の死骸を食べて分解し身体を守っているのです。
食事や休憩をしているときは、副交感神経優位となりリンパ球が活躍しています。
交感神経の緊張状態が続くと、顆粒球が増え続けます。
顆粒球は活性酸素を放出し、その強力な酸化力で細胞を殺傷することになります。
交感神経の暴走により、
①血流障害
②排泄・分泌機能の低下
③活性酸素による組織破壊
これらの状況が長期間続いたことによって、灼熱痛を生じるものが、RSDと呼ばれていました。
ところが、交感神経ブロック療法を行っても、全く無効の症例が報告されており、交感神経の関与しない痛みが存在することが明らかになってきました。
そこで、 1994 年に世界疼痛学会、IASPでこれらの類似した症状を呈する疾患をCRPS、複合性局所疼痛症候群と呼ぶことになりました。
1)CRPS、2つの分類
①CRPSタイプⅠ
RSD、反射性交感神経性ジストロフィーと診断されるもの、
捻挫、打撲の軽微な外傷で、神経損傷が不明確であるにもかかわらず、難治性疼痛を訴えるもの、
②CRPSタイプⅡ、カウザルギーと診断されるもの、
創傷、脱臼や骨折の神経損傷が明らかな外傷であって、外傷後に難治性疼痛を訴えるもの、
2)診断基準
A 国際疼痛学会CRPS診断基準
TypeⅠとは?
①CRPSの誘因となる侵害的な出来事、あるいは固定を必要とするような原因があったこと、
②持続する疼痛があるか、アロデニア、あるいはピンプリックの状態があり、その疼痛が始まりとなった出来事に不釣り合いであること、
③経過中、疼痛部位に、浮腫、皮膚血流の変化、あるいは発汗異常のいずれかがあること、
④疼痛や機能不全の程度を説明可能な他の病態があるときは、この診断は当てはまらない。
注意 診断基準②~④を必ず満たすこと、
TypeⅡとは?
①神経損傷があって、その後に持続する疼痛、アロデニアあるいはピンプリックのいずれかの状態があり、その疼痛が必ずしも損傷された神経の支配領域に限られないこと、
②経過中、疼痛部位に、浮腫、皮膚血流の変化、発汗異常のいずれかがあること、
③疼痛や機能不全の程度を説明可能な他の病気があるときは、この診断は当てはまらない。
注意 診断基準①~③を必ず満たすこと、
※アロデニア
通常では痛みを感じない刺激によって生じる痛みのこと、
※ピンプリック
安静時に悪化する痛覚過敏のこと、
B 厚生労働省CRPS判定基準
1)病期のいずれかの時期に、以下の自覚症状のうち3項目以上該当すること、
ただし、それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい。
①皮膚・爪・毛のうち、いずれかに萎縮性変化
②関節可動域制限
③持続性ないし不釣り合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み、知覚過敏
④発汗の亢進ないしは低下
⑤浮腫
2)診察時において、以下の他覚的所見の項目を3項目以上、該当すること、
①皮膚・爪・毛のうち、いずれかに萎縮性変化
②関節可動域制限
③アロデニアないしはピンプリック
④発汗の亢進ないしは低下
⑤浮腫
3)検査による立証
項目 | 検査法・補助的診断法 |
①疼痛の程度 | VAS ( visual analog scale )、 pain scale |
②知覚測定 | Neurometer (末梢神経検査装置) |
③腫脹・浮腫の程度 | 周囲径の測定、圧痕の有無、指尖容積脈波(プレチスモグラフィー) |
④発汗の程度 | 櫻井式測定紙 |
⑤皮膚の血流状態 | サーモグラフィー、レーザードップラー検査 |
⑥骨萎縮の程度 | XP、三相性骨シンチ検査で骨破壊や骨形成のある部位を特定する |
テグネシウムを静注し、3時間後に撮影するdelayed image | |
⑦神経障害・筋肉の活動状態 | 手指のグリップ時の動作筋電図 |
肩関節外転時の筋電図等、バラエティに富んだ筋電図検査 |
4)優れた治療先
①名称 南東北グループ 総合東京病院
所在地 〒165-0022 東京都中野区江古田3-15-2
TEL .03-3387-5421
医師 麻酔科、ペイン緩和センター 小川 節郎
外来診療 毎週水曜日の午前・午後
小川 節郎 先生は、日本大学病院を定年退職され、現在は上記で診療をされています。
完全予約診療となっており、現治療先の紹介状が必要です。
②名称 大阪大学医学部附属病院 麻酔科
所在地 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-15
TEL 06-6879-5111
医師 柴田 政彦
疼痛医療センター 金曜日 完全予約制で、受診には紹介状が必要
③名称 市立豊中病院 麻酔科
所在地 〒560-8565 大阪府豊中市柴原町4丁目14-1
TEL 06-6843-0101
医師 真下 節 病院長 (元大阪大学医学部附属病院 麻酔科教授)
疼痛外来、真下病院長の診察は、火曜日の午前中のみ
以下は、2005年、厚生労働省CRPS研究班の治療先です。
札幌医科大学 麻酔科、仙台市立病院 麻酔科、東京医科大学霞ヶ浦病院 麻酔科、筑波大学 整形外科、順天堂大学 麻酔科、JR東京総合病院 麻酔科、市立川崎病院 整形外科、北里大学東病院
整形外科、山梨大学医学部附属病院 整形外科、名古屋掖済会病院 整形外科、京都府立病院 麻酔科、稲田病院 整形外科、サトウ病院 整形外科、尼崎中央病院 整形外科、広島大学 麻酔科、
福岡大学 麻酔科、久留米大学 麻酔科、佐賀大学 麻酔科、宮崎大学 麻酔科
5)CRPSの後遺障害等級
等級 | 障害の内容 |
7 | 4:軽易な労務以外の労働に、常に差し支える程度の疼痛があるもの |
9 | 10:通常労務に服することはできるが、疼痛により、ときには労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
12 | 13:通常労務に服することはできるが、ときには労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの |
CRPSタイプⅠ RSD、反射性交感神経性ジストロフィーについては、
①関節拘縮、②骨萎縮、③皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)
これらの慢性期の主要な3つのいずれの症状も健側と比較して明らかに認められるときに限って、カウザルギーと同じ基準が適用され、等級が認定されています。
CRPSについては、神経系統の機能または精神の障害の系列における評価を基本とするものの、CRPS以外にも関節機能障害の原因所見があるときなど、関節機能障害としての評価が妥当であると捉えられるときは、関節機能障害として評価することも可能であるとされています。
なお、CRPSに伴う疼痛と関節機能障害は通常派生する関係にあることから、いずれか上位の等級で認定されることになります。
CRPSタイプⅠ RSDで上記の要件を満たしていないとき、経過上、RSD特有の所見が確認でき、かつ、RSDに対するブロック療法などの治療を行った結果、症状固定時においても1つ以上のRSD特有の所見を残しているものは、12級13号が認定されます。
上記には至らないものの、疼痛の残存が医学的に説明できるものは、14級9号が認定されています。
※RSD特有の所見には、上記の要件に加えて腫脹、発汗障害等の所見が含まれています。
なお、後遺障害等級認定時において、外傷後生じた疼痛が自然的経過によって消退すると認められるものは、後遺障害等級の認定対象とはなりません。
6)後遺障害のポイント
①専門医の受診を急ぐこと、
この後解説する判例では、受傷から2カ月で地元の病院から横浜市立大学附属病院整形外科、4カ月後には、同院麻酔科、8カ月後には、CRPSで実績のある川崎市立川崎病院麻酔科を受診し、H20-1-11にはCRPSの本丸である日大病院麻酔科に転院、小川節郎教授の診察を受けています。
最短で本丸までたどり着けたこと、この間の専門医の全員が骨萎縮所見に乏しいものの、本件の傷病名をCRPSタイプⅠRSDと診断したことで、Giroj調査事務所も7級4号を認定したのです。
主たる傷病名が頚部捻挫であっても、CRPSタイプⅠ、RSDは、忍び寄ってくるのです。
事故後、灼熱痛、アロデニア、ピンプリックなどで苦しんでいる被害者は、ためらうことなく、先に紹介している専門の治療先に駆けつけて、専門医の診察を受けるべきです。
専門医が、早期に適切な治療を開始したときは、多くの被害者が一定の改善を手にしています。
言い換えれば、診断力に乏しい医師の元で漫然治療を続けることと、損保の休業損害の支払い停止、治療費の打ち切りなどのプレッシャーが加わって、重症化するものが多いのです。
受傷後、疼痛が改善しないときは、NPOジコイチに急いで相談してください。
専門医をご紹介して、本線軌道上で治療を続けます。
②治療の経過では、過剰に後遺障害を意識しないこと、
1994 年に世界疼痛学会でCRPSが発表されるまで、難治性疼痛は、全てRSDと診断されていたのですが、NPOジコイチでは、その頃から現在まで、偶然ではありますが、多くの症例を経験してきました。
CRPSタイプⅠ、Ⅱの2つに分類された現在でも、
a 効果的な治療方法が確立されておらず、先の見通しがまったく立たないこと、
b 繰り返す灼熱痛で、就労に復帰できる状況にないこと、
c それに見合う後遺障害等級が用意されていないこと、
これらの問題が、解決されないまま、横たわっているのです。
したがって、CRPSでは、重症化しないこと、専門医の治療で改善を得ることを優先させます。
③症状固定は、受傷から1年で決断すること、
私は、専門医の治療を1年間続けて、改善が得られないときは、症状固定を決断しています。
専門医による治療の開始が早ければ、かなりの改善が得られているからです。
1年間の治療を続け、一定の改善を得て、12級レベルで症状固定なら、大成功です。
損保が、1年間について、治療費や休業損害を払い続けることは考えられません。
受傷から早期に弁護士に委任し、その後は、弁護士による具体的な症状、治療の見通しについて説明を継続し、できる限り、治療費や休業損害の支払が受けられるようにしています。
④立証で立ち往生なら、NPOジコイチに相談してください。
CRPSの立証では、多くの経験則を有しており、どこにも負けません。
a 疼痛の程度は、治療経過のVASスケールで、
b 知覚の測定は、Neurometer (末梢神経検査装置)で、
c 腫脹・浮腫の程度は、周囲径の測定、指尖容積脈波検査で、
d 発汗の程度は、櫻井式測定紙で、
e 皮膚の血流状態は、サーモグラフィー、レーザードップラー検査で、
f 骨萎縮の程度は、XP、三相性骨シンチグラフィー検査、delayed image、DEXA検査で、
※DEXA測定法
DEXA二重エネルギーX線吸収測定法は、2種類のエネルギーのX線を測定部位に当てることにより骨成分を他の組織と区別して測定する方法です。
測定する骨は、腰椎、大腿骨頸部などで、DEXA測定法では骨量gを単位面積cm2で割った値で算出し、1cm2当たりの骨量(g/cm2)、つまり骨密度として表現されます。
誤差が少なく、測定時間が短く、放射線の被爆量も少ないという利点があります。
DEXA法は、骨量測定の標準方法として重視され、骨粗鬆症の精密検査や、骨粗鬆症の治療効果の経過観察、また骨折の危険性予測に有用なものです。
骨萎縮検査にも有用です。
g 関節拘縮は、MRI、CT、疼痛を我慢しての可動域の測定で、
h 神経障害・筋肉の活動状態は、筋電図検査で、
上記の検査で所見を明らかにし、国際疼痛学会、厚生労働省の判定基準に沿って、淡々と、しかも丁寧に立証していきます。
CRPSに伴う疼痛と関節の機能障害は、通常派生する関係にあるところから、関節機能障害が認定され、等級が併合されることはないとされてきました。
しかし、労災保険はこの考えを改め、関節機能障害と比較して、上位の等級を認定しています。
福岡のGiroj調査事務所が、関節機能障害と比較して上位の等級を認定したのを確認しています。
困難な立証を伴いますが、専門医にお願いして必死に立証作業を続けています。
⑤最後は、連携する弁護士の出番です。
7級4号が認定される重症例では、日常生活で他人の随時介護が必要となります。
将来の介護料の請求では、医師の意見書が必要であり、介護事業者の選定も重要な作業です。
自賠責保険のルールでは、最上等級が7級4号であり、これより上はありません。
関節拘縮で5級以上の等級を求めるのであれば、裁判で判決を獲得することになります。
そうなると、交通事故、後遺障害、特にCRPSの経験則を有する弁護士でなくてはなりません。
弁護士は、希望されるなら、NPOジコイチで紹介することも可能です。
⑥詐病が混じることがあります。
これまでに、5例の詐病を経験しています。
1つは、強烈なもので、労働基準監督署と顧問医、私、チーム110のスタッフ、連携の弁護士までが、完璧に騙されました。職場の業務災害で12級が認定されていたのですが、指先のカウザルギーが手関節、肘関節におよび、2関節の用廃で6級を目指し、立証を完了して訴訟を提起したのですが、裁判所で職場の弁護士が提出した隠し撮りのビデオには、灼熱痛で動くはずのない左手でドアを開けて吉野家に入り、左手で丼を持って牛丼を美味しそうに頬張る被害者が映っていました。
現に動かないはずの左手で丼を支えているのですから、万事休すです。
以来、私はCRPSについて、とても神経質に対応しています。
無料相談会後の尾行で、詐病を発見し、対応をお断りしたものが複数例あります。
被害者とて、油断できないのです。