(43)手根骨 舟状骨々折(しゅうじょうこつこっせつ)

舟状骨々折

(1)病態

せんじょうこつではなく、しゅうじょうこつと呼びます。
舟状骨は親指のつけ根に位置しており、専門医は、親指のつけ根が痛んだら舟状骨骨折、小指のつけ根が痛むときは、TFCC損傷を疑診することになります。
後ろ向きに転倒し、手のひらを強く突くと、舟状骨が骨折することがあります。
交通事故では、自転車とバイクの運転者で、数多くを経験しています。

舟状骨は手関節にある8つの手根骨の1つで親指側にあり、手根骨の中でも重要なものの1つです。
船底のような彎曲をしているので船のような形の骨ということで舟状骨といわれています。

(2)症状

症状は、手関節を動かすと痛みが強く、手のひらの親指側を押すと痛みが出現、握力は低下します。
骨折部の腫れも見られますが、骨折後の転位が小さいときは、激痛ではなく、医師に与えるインパクトは弱いのです。 「しばらく様子を見ましょう?」 専門医でなければ、捻挫と認識するのが一般的です。
骨折は、多くは、イラストのように中央部で骨折し、放置すると偽関節化します。
偽関節では、骨の変形が進行するに伴って、手関節の痛みや機能障害を引き起こします

(3)治療

舟状骨は、親指の列にあり、他の指の列とは45°傾斜して存在しており、そのため舟状骨の骨折は、通常のXPでは、見えにくく、見逃されることが多いのです。
XPよりも、CT、MRIが骨折の診断には、有用です。

一般社団法人日本骨折治療学会のホームページを引用して、それらを解説します。

①27歳の男性、受傷後4日目に撮影されたXP画像ですが、舟状骨骨折は不明瞭です。

受傷後4日目に撮影されたXP画像

②ところが、同じ日に撮影されたMRIでは、舟状骨中央部=腰部に骨折線が明らかです。

同じ日に撮影されたMRI

③2つのネジ山を有し、締めていくことで圧迫がかかるヘッドレススクリューよる内固定術、

ヘッドレススクリューよる内固定術

治療は、局所の安定を図るためにギプス固定が行われていたのですが、現在では、1cmほどを切開し、XP透視下にスクリューで固定する非侵襲的な手術が行われるようになっています。
手術により、ギプス固定の必要がなくなり、スポーツや重労働は控えるにしても、パソコン作業、右手を使用しての食事、自動車の運転もできるようになります。
このように、日常生活の制限を最低限にとどめ、同時に、手関節の拘縮を防ぎ、長期間のリハビリ治療の必要もなくなるので、現在では、主流の治療法となっています。

(4)後遺障害のポイント

1)手根骨の骨折や脱臼では、どの部位でも、同じことがいえるのですが、4、5カ月を経過し、手の専門医を受診し、舟状骨骨折と診断されても、Giroj調査事務所は、本件事故との因果関係を深く疑います。初診時のカルテに、右手打撲などの傷病名がなく、自覚症状の記載もなければ、お手上げです。
骨折が発見されていても、因果関係が否定され、非該当になることも予想されるのです。

受傷後、手首の鈍痛が改善しないときは、急いで、手の専門医を受診しなければなりません。
日本手外科学会のホームページでは、全国の専門医が紹介されています。
http://www.jssh.or.jp/

2)受傷直後に、専門医の診察を受け、手術が実施されたものは、ほとんどで完治しています。
しかし、交通事故では、不可逆的な損傷を受けることがあり、やはり、6カ月後の残存症状で、然るべき立証を行って、後遺障害を申請することになります。
然るべき立証とは、3DCTやMRI画像で器質的損傷を明らかにすることです。
画像のあとは、残存症状が、日常・仕事上に与えている具体的な支障を文書化することです。
例えば、手関節に4分の3以下の機能障害がなくても、骨折部に痛みを残していれば、3DCTで変形骨癒合を立証し、日常・仕事上の支障を陳述書で説明すれば、14級9号が認定されます。

3)先に、ヘッドレススクリューよる内固定術を解説していますが、大都市では普及しつつある治療法であっても、ローカルとなると、まだまだ、ギプス固定で保存的に治療が行われています。
ギプス固定期間は、6~10週間と長期間となり、その後のリハビリも4カ月以上を必要としています。

リハビリは、入浴のときもできますから、受傷から6カ月が経過したら、症状固定として後遺障害診断を受けてください。症状固定時期を間違えなければ、12級6号の獲得が期待できます。
ダラダラと漫然治療を続けるのは、禁物です。

4)保存療法を続けたが、骨折部は血液供給の不良により偽関節化しつつあるときは、内固定術が治療先から提案されますが、6カ月を経過していれば、さらなる手術は、損保が拒否反応を示します。
治療費は健康保険の適用、休業損害の支払いも停止では、安心して療養を続けることはできません。
やはり、症状固定として、後遺障害を申請し、12級6号を目指してください。

地裁基準による等級別損害賠償額の比較 (単位 万円)
等級 後遺障害慰謝料 逸失利益 合計
14級9号 110(40) 185 (65) 295 (105)
12級6号 290(100) 947(518) 1237(618)

男性35歳、基礎年収480万円で積算したものです。
(   )は、損保が提示する任意保険支払基準です。

損保の基準であれば、105万円、12級6号でも618万円がやっとです。
弁護士が交渉することにより、14級9号でも295万円、12級6号であれば1237万円となります。
12級6号が予想されるときは、症状固定として、後遺障害を優先しなければなりません。

5)受傷直後は、痛みがあり、腫れも生じていたが、XPで骨折が発見されず、捻挫と診断され、一時期は痛みも改善していたのに、5、6カ月頃になって痛みがぶり返し、手関節に可動域制限が生じてきたので、手の専門医を受診したところ、舟状骨腰部の骨折で、偽関節化が進行していると診断されたときも、一旦は、症状固定として、後遺障害の申請を行います。

この状況での立証は、相当に困難ですが、諦めることはできませんから、
①刑事記録から受傷機転を検証し、舟状骨骨折があっても不思議でない事故発生状況であったこと、
②これまでの治療先のカルテ開示と翻訳、
③初診の治療先における初診と経過のXPと画像の鑑定、
④陳旧化した舟状骨骨折のCT、MRI画像の鑑定、
(③と④は、専門医と放射線科の医師に、鑑定をお願いします。)
⑤そして、現時点の器質的損傷と症状、日常・仕事上の支障の立証、
上記の立証を緻密に行って、後遺障害等級の獲得を目指します。

手術は、損害賠償が解決する頃に、健康保険適用で受けることになります。

6)偽関節となると、骨細胞は壊死しており、骨を削り、腸骨からの骨移植が必要となります。
専門医であっても、難治性の手術となるので、ここでは、手術を優先し、術後、4カ月で症状固定、後遺障害を申請することになります。