(19)膝離断性骨軟骨炎(しつりだんせいこつなんこつえん)

半月板の構造
骨の間に欠片が挟まると、痛み、運動制限を生じます。

(1)病態

膝関節の中に大腿骨の軟骨が剥がれ落ちてしまう障害のことです。
血流障害により、軟骨下の骨が壊死すると、骨軟骨片が分離し、進行すると関節内に遊離します。

(2)症状

初期では、運動後の不快感や鈍痛の他は、特異的な症状の出現はありません。
関節軟骨の表面に亀裂や変性が生じると疼痛も強くなり、日常の歩行でも支障を来します。
さらに、骨軟骨片が関節の中に遊離すると、膝の曲げ伸ばしで、引っかかり感、ズレ感を生じ、関節に挟まると、激痛を発症、膝がロックして動かなくなってしまいます。

一般的には、スポーツで、走行、跳躍、肘の回転などを繰り返し行うことで、関節に負担が蓄積して発症すると考えられています。

関節遊離体は、1~2cmの大きさです。
関節遊離体は、1~2cmの大きさです。
関節液の栄養を吸収して大きくなることがあります。
自然に消える、小さくなることはありません。

(3)治療

ロッキング症状、激痛があるときは、関節鏡視下で、生体吸収性ピンを用いて遊離、剥離した骨軟骨片を、欠損部に元通りに修復するオペが実施されています。
遊離した骨軟骨片の損傷や変性が著しいときは、自家培養軟骨の移植術が行われています。

自家培養軟骨
軟骨は、膝などの関節の表面を薄く覆っていて、関節の動きを滑らかにする役目を果たしています。
関節部の軟骨は、硬くて弾力性に富み、滑らかな硝子軟骨で組成されています。
その滑らかさはアイススケートで氷上を滑る際の10倍とも言われています。

軟骨の耐久性はきわめて高く、関節を動かしても軟骨組織が磨り減ることはほとんどありません。
しかし、交通事故や変形性関節症で軟骨が失われると、歩行も困難なほどの痛みを発症します。
軟骨組織は、損傷を受けると自然には治りません。

どうして、軟骨は治らないのか?
実は、軟骨組織には、血管が走行していないのです。
足の擦過傷や骨折では、出血します。
血液の中には、傷を治すのに必要な細胞が、細胞を増やすための栄養が含まれているのです。
これらの成分が傷を治す働きをしています。
しかし、軟骨組織にはもともと血管がありません。
軟骨組織が損傷されても、治すための細胞、細胞を増やすための栄養も供給されないので、軟骨が自然治癒することはないのです。
自然に治ることが難しい軟骨ですが、軟骨細胞には増殖する能力があります。
被害者の軟骨組織の一部を取り出し、軟骨細胞が増殖できるような環境を整えて作られたのが、自家培養軟骨です。軟骨欠損に自家培養軟骨を移植することで修復が期待されます。

軟骨組織の一部を採取、約4週間、培養
赤○から軟骨組織の一部を採取、約4週間、培養します。
培養軟骨を移植し、𦙾骨から採取した骨膜で蓋をする
培養軟骨を移植し、𦙾骨から採取した骨膜で蓋をします。

整形外科の専門医によって、侵襲の少ない関節鏡手術で膝の軟骨が少量採取されます。
この軟骨を、ゲル状のアテロコラーゲンと混合して立体的な形に成型した後、培養します。
約4週間の培養期間中に軟骨細胞は増殖し、軟骨基質を産生して本来の軟骨の性質に近づいてゆき、これを移植するのです。
自家培養軟骨の価格は、200万円以上で、高額療養費制度を利用すれば、患者負担は10万円ほどになる見込みです。

(4)後遺障害のポイント

1)2014年の無料相談会で、この傷病名が記載された診断書を発見しました。
私は、膝離断性骨軟骨炎は、スポーツによるストレスの繰り返しで発症するものであり、交通事故とは関係のない傷病名と理解していました。
初診の救急病院の診断書には、左鎖骨骨折、右膝捻挫と記載されています。
右膝離断性骨軟骨炎は、最後に診察を受けた医大系膝関節外来の専門医が診断したものです。
これで、ピンときました。
初診の整形外科医は、XPで右膝をチェック、骨折がなかったので、右膝捻挫と診断したのです。
「静かにしていれば、その内、治る?」 これでスルーされたのです。

「なにか、スポーツをやっておられる?」
被害者は、趣味でジョギングをしていたのですが、事故後1カ月でウォーキングを開始した頃から、右膝に痛みを感じるようになり、3カ月を経過してジョギングに復帰すると、突然の激痛で膝が曲がらなくなったとのことです。ネット検索で医大系病院の膝関節外来を受診、右膝関節離断性骨軟骨炎と診断され、関節鏡視下で修復術を受けたとのことです。

受傷6カ月で、症状固定、膝関節に機能障害はなく、圧痛と動作痛が認められました。
左鎖骨骨折で、12級5号、右膝関節は、神経症状で14級9号が認定されました。

2)治療に積極的であれ! ここで、学習すべきことです。
主治医を盲目的に頼るのではなく、医大系膝関節外来の専門医の診察を受けたことが、早期社会復帰につながりました。
しかし、大多数の被害者は、グズグズと漫然治療を続け、この積極性がありません。
「右膝が痛く、歩行にも支障があるのに、主治医が診てくれない?」
交通事故では、加害者に対する呪いからか、こんな不満がタラタラ述べられることが多いのです。

怪我をしたことは、加害者側の責任であっても、怪我をした以上、治すのは被害者の責任です。
もし放置していれば、徐々に変形性膝関節症の方向に進行していきます。
遊離した骨軟骨片の損傷や変性が著しくなると、自家培養軟骨の移植術が選択肢として提案されるのですが、受傷から6カ月以上を経過していれば、損保は、治療費等の負担を拒否します。
では、健保で手術となるのですが、入院3カ月、リハビリ通院4カ月が、許されるでしょうか?

リハビリからの職場復帰

こんなことを強行すれば、職場におけるあなたの位置は、アザーサイドとなります。
交通事故では、4カ月以内に職場復帰を果たさないと、その後の人生を失うのです。

3)本来、交通事故で、膝離断性骨軟骨炎は想定されていません。
膝関節捻挫と診断しても、その後の経過で、膝離断性骨軟骨炎を発見すれば、関節鏡視下で修復術が行われ、普通は、後遺障害を残しません。

問題となるのは、膝関節捻挫と診断され、放置されたときです。
後遺障害の対象は、膝関節の可動域制限と膝関節部の痛みです。
器質的損傷は、MRI、CTで立証します。
予想される等級は、膝関節の機能障害で12級7号、神経症状で14級9号、12級13号です。

限りなく、医原性ですが、そんなことは口にしてはいけません。
しかし、漫然治療に終始したことについては、反省しなければなりません。