(1)膝蓋骨骨折
1)病態
膝蓋骨は、膝関節の前方に位置し、膝のお皿と呼ばれる丸い骨のことです。
膝蓋骨は、裏側の軟骨部で大腿骨と関節を有し、膝の曲げ伸ばし運動を滑らかに行い、膝関節の動きの中心としてサポートする役目を果たしています。
私は、自動車で言えばバンパー、つまり、膝関節への直撃を和らげる衝撃吸収装置の役目も果たしていると考えているのですが、どの医学書にも、そのような記載はありません。
交通事故では、自転車、バイクと自動車の衝突で、車のバンパーで直撃を受ける、はね飛ばされて膝から転落する、ダッシュボードに膝部を打ちつけることで発症しており、膝部の外傷では、もっとも多発している骨折です。
2)症状
症状は、強い痛みと膝関節の腫れが出現、膝を自動で伸ばすことができなくなります。
骨折のパターンは、横骨折、縦骨折、粉砕骨折の3つです。
3)治療
骨片の離開のないときは、保存的に4~6週間程度のギプス固定がなされます。
膝を伸ばす大腿四頭筋が急激に強く緊張する、つまり、介達外力により骨片が上下に離開した横骨折では、オペにより、キルシュナー鋼線とワイヤーで8の字固定が行われています、
術後のギプス固定はなく、早期に、膝の可動域の改善を目的としたリハビリテーションが始まります。
膝蓋骨に対する直撃で、開放性骨折となったときは、手術による固定と感染対策が必要となります。
治療成績は、単純な骨折では比較的良好です。
しかし、開放性骨折や骨片が3つ以上に粉砕された骨折、大腿骨果部や𦙾骨プラトー部の骨折に合併したときは、難治性で、確実に後遺障害を残します。
4)後遺障害のポイント
(3)のところで、まとめて解説しています。
(2)膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)
※左から、正常・亜脱臼・脱臼
1)病態
膝蓋骨脱臼とは、膝のお皿が、膝の正面の本来の位置から外れることで、膝の構造・形態的特徴から、ほとんどは、大腿骨に対して外側に脱臼しています。
膝蓋骨は膝の輪切り図では、大腿骨正面の溝にはまるような位置にあります。
膝蓋骨が溝を乗り越えて外れることを脱臼、乗り越えてはいないが、ずれることを亜脱臼と呼びます。
膝蓋骨は、太ももの側では大腿四頭筋という強い筋肉に、すねの側では膝蓋腱という線維につながり脛骨に連結しています。膝蓋骨は、曲がった膝を伸ばすときに、滑車のような役目で大腿四頭筋の筋力を脛骨側に伝えるサポートをしています。
膝蓋骨脱臼は10代の若い女性に多く発症し、スポーツ活動中などに起こります。
膝蓋骨脱臼は、ジャンプの着地などで筋肉が強く収縮したときや、膝が伸びた状態で急に脛骨を捻るような力が加わったとき、膝蓋骨を打撲したときに発症していますが、元々膝蓋骨が脱臼しやすい身体的条件、膝蓋骨に向き合う大腿骨の溝が浅い、膝蓋骨の形成不全、膝蓋腱の付着部が外側に偏位しているなど、遺伝的要因のある人に起こりやすいといわれています。
2)症状
脱臼したときは、膝に強い痛みや腫れを生じます。
脱臼を発症しても、多数例で膝蓋骨は病院に搬送される前に、元の位置に戻ります。
3)治療
脱臼に伴い、50%の被害者に、軟骨や骨の損傷が起こるといわれますが、その程度によっては早期に手術が必要になることもあります。
手術が必要ないと判断されたときは、まず膝を装具、サポーターなどで固定することになります。
痛みや関節の腫れが改善した段階では、徐々に体重をかけて歩き、膝を動かすようにします。
ダイナミックパテラブレース
膝蓋骨脱臼の20~50%に再脱臼が起こると報告されています。
再脱臼をしなくても、50%以上に、痛みや膝の不安定感などの症状が残ります。
再脱臼を予防するための治療として、リハビリや運動用の装具による治療を行います。
リハビリでは、膝蓋骨が外側にずれるのを防ぐように膝蓋骨の内側につく筋肉を強化、膝蓋骨を外側に引き寄せる筋肉や靭帯をストレッチで柔軟性を高める、脱臼を誘発するような姿勢や動作を回避するような運動を繰り返して練習します。
運動用の装具は、膝蓋骨が外側にずれるのを防ぐ構造物のついたものを使用します。
装具は脱臼後の早い時期に日常生活で使用、その後の一定期間はスポーツなどで使用します。
4)後遺障害のポイント
(3)のところで、まとめて解説しています。
(3)膝蓋骨々軟骨々折・スリーブ骨折 (しつがいこつこつなんこつこっせつ)
1)病態
膝蓋骨の裏の軟骨面は、大腿骨の前面の軟骨と関節を形成しています。
これを、膝蓋大腿関節と呼びます。
膝蓋骨々軟骨々折は、若年の女性に多く、膝蓋骨脱臼に伴うもので、膝蓋骨の内側に小さな軟骨片が残置しています。膝蓋骨が脱臼するとき、元の位置に戻るときに、大腿骨の外側の突起と膝蓋骨が衝突し、こすれあって、膝蓋骨軟骨々折が起こるのです。
交通事故では、膝蓋骨脱臼後に軟骨々折を発症しています。
2)症状
膝の曲げ伸ばしで、痛みが生じます。
3)治療
手術により、骨片を元の位置に戻すか、除去して固定します。
スリーブ骨折は、10歳前後のサッカー、野球少年に多い膝蓋骨下端の剥離骨折で、骨片が小さく見逃されることが多いので要注意です。
治療としては、保存的にギプスによる外固定を3~5週間行われています。
4)膝蓋骨骨折、膝蓋骨脱臼、膝蓋骨々軟骨々折における後遺障害のポイント
1)一般的には、膝蓋骨骨折で後遺障害を残すことはほとんどありません。
2)ところが、交通事故無料相談会では、受傷から4カ月以上を経過しているのに、痛みで膝が曲がらない、腫れが引かないと訴える被害者を見かけます。
この原因を、検証します。
膝蓋骨の上端には大腿四頭筋腱が付着し、その先に膝蓋腱膜と呼ばれる膜が膝蓋骨を覆い、膝蓋骨の下端には、膝蓋靭帯が付着しています。
大腿四頭筋腱、膝蓋骨、膝蓋靭帯からなる仕組みを膝伸展機構と呼び、膝を伸ばす際に膝蓋骨が支点となって十分に膝の伸展筋力が発揮されるようになっているのです。
ところが、支点となる膝蓋骨が骨折により機能しなくなると、膝の曲げ伸ばしに非常に大きな影響をおよぼすことになります。
さらに、膝蓋骨裏の軟骨面は大腿骨の前面の軟骨と関節を形成しており、膝蓋大腿関節と呼びます。
膝蓋骨骨折によって、膝蓋骨の裏の軟骨部分に骨折線が入り、膝蓋大腿関節部の滑らかさが損なわれると、関節内で炎症を起こしてしまうことがあります。
膝蓋骨の骨折部分は癒合し、骨折線が無くなったとしても、関節面の滑らかさを失っており、痛みで可動域が狭くなり、腫れが引かないことになるのです。
つまり、膝蓋骨骨折後の骨癒合状況および軟骨損傷を立証すれば、機能障害として12級7号、もしくは神経症状として12級13号、14級9号が認定される可能性が出てくるのです。
3)変形骨癒合は、3DCT、軟骨損傷はMRIで立証します。
交通事故では、膝蓋骨に対する直撃、直達外力で骨折や脱臼を発症しています。
膝蓋骨が骨折するほどの衝撃を受けていれば、その裏側の軟骨が損傷していても、なんの不思議もありません。しかし、専門医でもなければ、これは日常的に見逃されているのです。
これらを発見、立証して、後遺障害を目指すのが、NPOジコイチの凄いところなのです。