(20)膝蓋前滑液包炎(しつがいぜんかつえきほうえん)

膝関節の断面イラスト
上の赤○は膝蓋前皮下滑液包、下の赤○が脛骨粗面皮下滑液包

(1)病態

膝蓋前滑液包は、皮膚と膝蓋骨、膝のお皿の間に位置しており、膝に対する摩擦を和らげ、膝関節の可動域を最大にする役目を果たしています。
交通事故では、多くが自転車で転倒、膝を強く打ったときに発症しています。
頻繁な膝の曲げ伸ばしで発症することもあって、Housemaid’s Knee 女中膝とも呼ばれています。

(2)症状

膝蓋骨の上辺り、部分的に、直径2~3cmの腫れが出現、触れるとブヨブヨ感があります。
次第に痛みが出現、腫れもやや大きくなり、膝をスムースに動かせなくなります。
このとき、膝蓋前滑液包は炎症を起こしており、ドロドロの滑液包に水がたまっている状態です。

(3)治療

初期であれば、膝をつかない、正座をしないようにすると、腫れは引き、痛みもなくなります。
慢性期であっても、手術は、ほとんどありません。
膝蓋前滑液包にたまった水を抜き、非ステロイド性抗炎症薬の注射、膝つきと正座の禁止、リハビリによる膝関節可動域訓練で改善が得られ、後遺障害を残すこともありません。

(4)後遺障害のポイント

この傷病名だけであれば、基本、後遺障害を残すことはありません。

(5)NPOジコイチの経験則

大阪の無料相談会に50代、やや肥満気味の大阪のおばちゃんが参加されました。
横断歩道を自転車で走行中に、左折の自動車に衝突され、転倒した際に左膝を強打、6カ月が経ったが、腫れと膝小僧の痛みを引かなくて、自転車に乗れなくて困っている?
治療先の診断書には、頚部捻挫、腰部挫傷、左膝打撲の傷病名が記載されていました。

XP撮影では、膝関節に骨折などの異常はないから、ちょっと強い打撲でしょう?
膝上の腫れを訴えても、診ることも、触ることもなく、年のせいと言われ、なんの処置もされない?
仕方がないので、近所の整骨院に通っているが、腫れも痛みも改善しない?
相手損保からは、今月一杯で治療を打ち切ると宣告された?
これから、どうしたらいいのか?

別室でタイツを脱いでもらって、左膝を拝見しました。
確かに、膝蓋骨上部は腫れており、軽く触れたのですが、熱感もあります。
腫れが膝全体におよんでいる印象ではなく、膝蓋骨上部に限定されています。

左膝蓋前滑液包炎が予想されるところから、チーム110のスタッフが懇意にしている整形外科を紹介、同行して診察を受けることにしました。
MRI撮影の結果、左膝蓋前滑液包炎の診断が確定、滑液包にたまった水を抜き、非ステロイド性抗炎症薬の注射、膝つきと正座の禁止、2カ月のリハビリによる膝関節可動域訓練が指示されました。
1カ月のリハビリで、腫れは小さくなり、痛みも改善、2カ月で左膝蓋前滑液包炎は治癒しました。

受傷から8カ月で症状固定、頚椎捻挫で14級9号が認定されました。
この女性は、夫の自動車の任意保険に弁護士費用特約の加入があり、適用することになりました。
弁護士が本件の解決を受任、弁護士はチーム110に、後遺障害の立証を指示したのです。

チーム110のスタッフは、治療先を紹介、同行して左膝蓋前滑液包炎の治癒をサポートしました。
残る傷病名、頚部捻挫と腰部挫傷は、画像診断クリニックでMRIの撮影を受け、医師には、頚部のMRI所見の丁寧な記載を依頼して14級9号を実現したのです。

私は、この女性には、もう少しダイエットに励むように、遠慮がちに、お願いしておきました。