1)病態
脊柱は合計25の椎骨で構成されていますが、5つの腰椎は、それぞれ左右に関節包につつまれた椎間関節があり、椎間板や靱帯や筋肉で連結されています。
追突などの交通事故受傷により、腰椎が過伸展状態となり、これらの関節包、椎間板、靱帯、筋肉などの一部が引き伸ばされ、あるいは断裂することで、腰部捻挫を発症します。
頚部捻挫と腰部捻挫は、診断書に併記されていることが多いのですが、後遺障害の対象として注目されるのは、圧倒的に頚部捻挫、ムチウチです。
経験則では、腰部捻挫は椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症の基礎疾患がある被害者に多発する傾向で、このケースでは重症化し、しばしば固定術に発展しています。
2)Giroj調査事務所が公表する、腰部捻挫14級9号の後遺障害認定要件
「外傷性腰部症候群に起因する症状が、神経学的検査所見や画像所見から証明することはできないが、①受傷時の状態や②治療の経過などから③連続性、一貫性が認められ、説明可能な症状であり、④単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるもの。」
頚椎捻挫とまったく同じ要件が開示されています。
①受傷時の状態とは?
受傷時の状態とは、事故発生状況のことであり、「それなりの衝撃がないと後遺障害は認められません。」 つまり、受傷時の衝撃の度合いに注目しているのです。
私は、車対車の衝突では、物損で30万円以上を想定しているのですが、いずれにしても、バンパーの交換程度では、後遺障害が認定されることはありません。
無料相談会では、物損の修理費用について、毎回、確認しています。
②治療の経過とは?
治療の経過とは、事故直後から、腰部痛以外に、左右いずれかの下腿~足趾にかけて脱力感、重さ感、軽度なしびれ感の神経根症状が認められなければなりません。
ただし、14級9号であれば、ハッキリと認識できる痺れはありません。
「事故直後から、腰部痛、左右いずれかの下腿~足趾にかけて脱力感、だるさ感、重さ感、軽度なしびれ感の神経根症状がありましたか?」
無料相談会では、症状の範囲を拡大して質問を繰り返しており、ここが、奥の深いところです。
単なる腰部痛とそれに伴う胸腰椎の可動域制限は、後遺障害の対象ではありません。
また、事故から数カ月を経過して発症したものは、事故との因果関係が否定され、相手にされません。
③連続性、一貫性とは?
連続性、一貫性とは、真面目にリハビリ通院を続けているかがチェックされているのです。
私は、整形外科・開業医で1カ月に10回以上のリハビリ通院を想定しています。
どんな症状を訴えても、6カ月間で30回程度の整形外科通院では、大した症状ではなかったと判断され、後遺障害の認定はありません。
6カ月以上が経過し、この間、整骨院で施術を受けたものは、後遺障害の認定はありません。
整骨院は医療類似行為であり、治療ではなく、施術と捉えられています。
施術は、治療実績として評価されないのです。
街中やネットでは、交通事故専門と大書きした整骨院が目立ちます。
「当院は、むち打ち治療協会から認定を受けた○○県初の治療院です?」
「交通事故の治療は、安心のブランド、○○整骨院にお任せください?」
「交通事故治療、無料体験実施中?」
「治療費は自賠責保険が適用されるので自己負担はありません?」
中には、通院するだけで2万5000円の見舞金を支払う整骨院もあるとのことです。
これらは、自由診療を期待して、交通事故被害者を呼び込んでいるのです。
いずれも、施術ではなく、治療を連呼しているのが特徴です。治療が行えるのは、診断権を有する医師のみであり、施術を治療と表現すれば、本当は、医師法違反となるのです。
後遺障害の正当な評価を受けるべくお考えであれば、整骨院・接骨院には通院しないことです。
④単なる故意の誇張ではない?
単なる故意の誇張ではないとは、被害者の常識性と信憑性です。
賠償志向が強く、発言が過激で症状の訴えが大袈裟、通院にタクシーを利用、長期間の休業と休業損害の請求など、損保が非常識と判断したときは、後遺障害を申請しても、排除されています。
このパターンでは、損保が早期に弁護士対応としています。
3)腰部捻挫の神経症状
頚椎はC、胸椎はT、腰椎はL、その下の仙椎はSと表示するのですが、腰椎は5つの椎骨が椎間板を挟んで連なっており、椎骨の空洞部分には、脊髄が走行しています。
脊髄は、L1で終わり、それ以下は馬尾神経が走行しています。
腰部捻挫で注目すべきは、L3/4、4/5、5/S1の神経根に限られています。
素因は多数で椎間板ヘルニアであり、腰部捻挫では、それ以外の部位は無視することになります。
脊髄から枝分かれのL3/4/5/S1の左右6本の神経根は、それぞれの下肢を支配しているからです。
①L3/4のヘルニアでは、L4神経根が障害され大腿前面、下腿内側面に知覚障害が出現、膝蓋腱反射は減弱、つまり大腿四頭筋・前脛骨筋が萎縮し、大腿神経伸展テスト=FNSが陽性となります。
②L4/5のヘルニアでは、L5神経根が障害され、下腿前外側、足背に知覚障害が出現、長母趾伸展筋の筋力低下、大臀筋の萎縮が見られ、ラセーグテストは陽性となります。
ラセーグテスト
③L5/S1のヘルニアでは、下腿外側、足背、足底外縁に知覚障害が出現、アキレス腱反射は低下・消失し、腓腹筋および腓骨筋力が低下して、つま先立ちが不可能となります。
ラセーグテストでは、陽性所見を示します。
※腰部捻挫の後遺障害等級
等級 | 内容 | 自賠責 | 喪失率 |
12 | 13:局部に頑固な神経症状を残すもの | 224 | 14 |
他覚的検査により神経系統の障害が証明されるもの | |||
14 | 9:局部に神経症状を残すもの | 75 | 5 |
神経系統の障害が医学的に推定されるもの |
2)後遺障害のポイント
①医師に因果関係を求めない
「L4/5にヘルニアが認められますが、事故によるものではありませんね?」
被害者と治療先に同行したときの主治医の所見ですが、大部分の被害者は、ムッとした表情です。
「事故直後から腰痛が出現し、右足も痺れているのに、事故によるものではない、どういうこと?」
実は、ノープロブレム、それでいいのです。
脊椎骨の年齢による変性は18歳頃から始まるといわれています。
したがって、30歳を超えていれば、ほぼ全員の被害者に、大なり小なりの年齢変性が認められます。
年齢変性の代表は、腰椎椎間板ヘルニアで、多くは末梢神経である腰部神経根を圧迫しています。
末梢神経である神経根は、裸ではなく、神経鞘と呼ばれるさやに包まれた状態で存在しており、18歳頃からゆっくりと進行する年齢変性は、大部分はさやで受け止められていて、年齢相応の椎間板ヘルニアが存在していても、ほぼ全員が無症状です。ところが、その状態で交通事故の衝撃が加わると、さやで吸収できなくなり、末梢神経を傷つけることが予想されるのです。
結果、支配神経の領域に、痛み、痺れなどの神経根症状が出現することになり、そして、この神経症状が、後遺障害の対象とされているのです。
14級9号レベルであれば、傷ついた末梢神経の修復がなされると、無症状に戻ります。
時間はかかりますが、生涯、痛みや痺れで苦しむことは絶対にありません。
したがって、訴訟であっても、喪失期間は、最大でも5年しか認められていません。
さらに、年齢相応の変性所見は、素因減額の対象にしないことが、東京・名古屋・大阪の3地裁の合議で決められています。被害者は、因果関係などに巻き込まれないこと、知らん顔でいいのです。
②早期のMRI撮影
腰部捻挫では、早期のMRI撮影で、神経根に外傷性の浮腫が確認できることがあります。
XP、CTは骨を見るためのもので、末梢神経の状態が確認できるのは、MRIだけです。
自覚症状とMRIの年齢変性が一致したときは、後遺障害の獲得に相当、近づいたことになるのです。
なんとしてでも、受傷2カ月以内に、MRIの撮影を受けておかなければなりません。
③6カ月間で、4つの要件を粛々と整えること?
a 30万円以上の物損が発生していて、
b 事故直後から末梢神経障害の症状が出現しているときは、
c 早期のMRI撮影で、自覚症状と年齢変性所見が一致していることを確認し、
d 6カ月間の真面目な整形外科におけるリハビリ通院を継続します。
e 6カ月に到達したら、四の五の言わずに症状固定とし、後遺障害診断を受けて申請するのです。
f 紳士的、常識的で信憑性が感じられる療養態度とは、通院にタクシーを利用しないこと、休業しても1カ月以内に就労復帰すること、6カ月でアッサリと治療を切り上げること、もちろん、整骨院では施術を受けないことです。
頚腰部捻挫では、捻挫の傷病名が示す通り、外傷性の画像所見は得られません。
他覚的所見として重視されている画像所見が得られないのに後遺障害を認めるのですから、賠償志向が強く、発言が過激で症状の訴えが大袈裟と損保が判断したときは、簡単に排除されます。
頚腰部捻挫の後遺障害は、生真面目な被害者だけに与えられるお土産と考えておくことです。
専業主婦でも、弁護士が交渉すれば、14級で320万円、12級なら735万円が期待できます。
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