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(1)病態
衝撃の大きい追突や、衝突によるバイク・自転車からの転落で、腰椎横突起骨折は発生しています。
2014年のワールドカップでは、ブラジルのネイマールがL3左の横突起骨折で戦列を離れました。
横突起は、腰椎には、L1~L5の椎体の左右に5つ存在しています。
好発部位は、L3の横突起で、2椎以上の多発骨折も、頻繁に見かけます。
背筋の中に埋もれており、筋肉の力を腰椎に伝える役目を果たしているのですが、交通事故、スノボなどで、腰部を強打したとき、腰椎の横突起骨折は頻発しています。
また、脊椎の横突起周辺には体幹を支え、姿勢を保持する重要な筋肉、大腰筋、腰方形筋が付着しており、強力な外力で、無理な方向に筋肉が捻られたときに、横突起部での骨折が発生しています。
(2)症状
あのネイマールが、泣き叫ぶほどの激痛で、担架に乗せられて退場しました。
大腰筋は脊椎の横突起から股関節を超えて、大腿骨に付着しており、椅子に座った姿勢から、膝を上にあげる動作や、足が固定された状態で、体を起こすようなときに働きます。
また、脊椎を支え、姿勢を保持する作用があります。
腰方形筋は、下部肋骨と脊椎の横突起から骨盤にまたがる筋肉で、体を横に傾けるときに働きます。
L2の横突起骨折
(3)診断と治療
レントゲン検査で発見できますが、CTであれば、より確実です。
症状は腰痛、圧痛、動作痛ですが、末梢神経を傷めることはなく、足のしびれや麻痺等の神経症状を伴うことは、通常、ありません。
主体的な治療は、保存的治療で、腰の安静、コルセットや腰部固定帯で、骨折部位を固定します。
痛みには、非ステロイド系抗炎症剤、湿布剤を処方し、低周波治療やコルセットで腰部を固定します。
通常、痛みは、3週間程度で改善しますが、骨癒合には、2、3カ月を要します。
骨癒合が得られなくとも、日常生活には、あまり問題を残しません。
腰痛を認める症例もありますが、腰部のストレッチングや筋力強化訓練により改善が得られます。
(4)後遺障害のポイント
1)頚椎や腰椎の横突起骨折と診断されると、なんといっても骨折ですから、被害者は青くなります。
しかし、横突起骨折そのものが後遺障害の対象になることは例外的です。
したがって、過剰に心配することではありません。
ただし、横突起部分が骨折するほどの衝撃を受けたことは事実であり、その周辺の末梢神経、神経根の通り道をMRIで詳細に検証して、後遺障害の遺残を探っています。
2)腰部の痺れや歩行障害が認められないときでも、慢性的な腰痛を残すことがあります。
骨折部が離開していなければ、骨癒合も期待できるのですが、筋肉に引っぱられて大きく離開しているときは、骨癒合の期待はできません。骨癒合が得られなくても、機能的な支障はありませんが、骨癒合不良が慢性腰痛の原因になることは十分予想されます。
そのときは、骨癒合状況をCTで立証して、痛みの神経症状で、14級9号、12級13号を目指します。
3)横突起骨折以外では、関節突起骨折、棘突起骨折、関節突起間部骨折などが発生していますが、いずれも、保存的治療で、改善が得られている軽症例の骨折です。
4)椎体骨の骨折では、上記以外にも、頚椎前方・後方脱臼骨折、胸腰椎の脱臼骨折がありますが、いずれも、ほとんどで脊髄損傷を合併しますので、ここでの解説は割愛しています。