CTで、上下の関節突起の中央部が断裂しています。
1)病態
分離症は、椎弓の一部である上下の関節突起の中央部が断裂しており、連続性が絶たれて、椎弓と椎体、つまり、背骨の後方部分と前方部分が離れ離れになった状態です。
腰椎分離症は、30年も昔は、先天性と決めつけられていたのですが、現在では、体幹が柔らかい成長途上、つまり、小学校高学年から中学生頃に、スポーツでジャンプや腰椎を反らす運動や腰の回旋をハードに繰り返し行うことで腰椎の後方部分に、疲労性の亀裂が入って起こるとされています。
一般人では5%ですが、スポーツ選手では30、40%に分離症が認められると報告されています。
大多数の分離症は、腰椎、L4/5に認められています。
そして、大多数は、事故前に分離症があっても、痛みもなく、通常の日常生活を続けています。
ところが、ここに、交通事故です。
交通事故受傷の衝撃が腰部に加わり、椎体が前方向にすべり、分離すべり症となるのです。
分離は、事故前から存在したもので、それを原因としてすべり症となったのです。
2)治療
治療は、腰椎コルセットを装用、安静加療が指示されます。
安定期に入ると、腹筋・背筋を強化するリハビリで腰痛の発生を抑えます。
分離症から進行したすべり症では、激しい腰痛や神経根の圧迫による臀部・下肢の痛み、痺れで日常生活や仕事に支障が予想されます。
腰痛や神経根圧迫による臀部、下肢の疼痛、間欠性跛行で歩行できる距離が100m以内、膀胱・直腸障害が出現しているときは、神経の圧迫を除去する椎弓切除術、脊椎固定術が実施されます。
最近では、TLIF片側進入両側除圧固定術が主流となりつつあります。
3)後遺障害のポイント
①従来、Giroj調査事務所は、腰椎分離症・すべり症であっても、腰椎の固定術が実施されたものでは、脊柱に奇形変形を残すものとして11級7号を認定していました。
被害者としては、当然、11級7号に基づく損害賠償を求めるのですが、損保は、腰椎分離症・すべり症が本件事故によるものではないとして、50%以上の素因減額を求めますから、素因減額を巡ってガチンコの争いが繰り広げられたのです。
ところが、自賠責保険が民営化されたH14-4-1以降は、自賠責保険が、等級の認定審査において、本件事故との因果関係に踏み込んで来るようになり、腰椎分離症・すべり症では、腰椎の固定術が実施されていても14級9号の認定が常態化となっています。
つまり、裁判では、被害者は、等級が11級7号であることを立証しなければならなくなったのです。
ところが、裁判所は、後遺障害等級の知見に乏しいことから、等級認定を嫌がる傾向です。
詰まるところ、これが立証できる弁護士でないと、この裁判で勝利することは困難となったのです。
②現実の等級は、L4/5における左右いずれかの神経根に対する圧迫所見で決まります。
MRIの画像所見、これが得られていなくても神経根ブロック療法で一定の治療効果が得られているときは、14級9号が認定されています。
事故当初から腰部神経学的所見が認められ、MRI画像においても神経根の通り道が判然としないほどの圧迫所見であっても、やはり、分離症との因果関係が認められない影響なのか、12級13号が認定されることはなく、14級9号止まりなのです。
腰椎の固定術の有無は、等級の認定に影響を与えていません。
③この結果に対して納得できないとして、果敢にも、訴訟を提起する被害者がおられます。
腰椎の固定術が実施されたときは、11級7号をベースに2000万円以上の損害賠償額を請求し、最終的には20、30%程度の素因減額で矛を収める作戦を考えるのです。11級7号をベースに戦いを挑んでも、立証に失敗すれば、14級9号で議論されることになります。
④Groj調査事務所は、分離症である腰椎に衝撃が加わることで腰椎に不安定性が生じ、それに伴う神経症状を評価して、14級9号を認定しているのです。
固定術に至らない腰椎分離症では、弁護士に依頼し、素因減額を論じることなく、14級9号、地裁基準で300万円前後の損害賠償の実現を目指すべきと考えています。
果敢に訴訟提起としても、勝訴の見込みが低いからです。
⑤人身傷害保険では、既往症によって損害が拡大したときは、既往症がなかったときの金額を支払うと約款に規定しています。搭乗者傷害特約も、人身傷害と同じ扱いです。
素因減額分を人身傷害保険に請求しても、約款の規定により、相手にされません。
過失割合と素因減額は、似て非なるものであることを理解してください。
⑥他に、相手損保が素因減額を大合唱する傷病名としては、椎間板ヘルニア、頸椎症性脊髄症、変形性腰椎症、後縦靱帯骨化症、脊柱管狭窄症、胸郭出口症候群、頸肩腕症候群などが予想されます。
4)判例の検証
腰椎分離症、すべり症による素因減額の判例 保険毎日新聞社H26-8-28
神戸地裁H13-1-19判決
素因減額率は治療費の3分の2、後遺障害認定なし、腰椎分離症
東京地裁H17-1-27判決
素因減額率は50%、腰椎分離・すべり症
京都地裁H21-12-16判決
素因減額率は20%、腰椎分離症
名古屋地裁H22-10-22判決
素因減額率は0%、腰椎前方すべり症
大阪地裁H23-12-12判決
素因減額率は70% 腰椎分離症ないし分離すべり症
上記の判例から、以下の3つについて検証しました。
①東京地裁H17-1-27判決 素因減額50%
前車への追突と後車からの追突を受けたタクシー乗客、52歳、無職
本件事故以前に、腰椎すべり症の治療歴があり、既往症として12級12号が想定される。
本件事故後、腰椎後方除圧固定術を受けている。
自賠責保険は、11級7号を認定、裁判所は、8級2号、9級10号を認めて、併合7級を認定、
ここまでに、問題はないが、休業損害や逸失利益については、詐欺的な請求であり、裁判官の心証を著しく低下させたと思われます。
働いて収入を得ていたものとは認められない?
会社役員として、年収600万円で休業損害を請求している?
逸失利益も年収600万円で15年間、4919万9000円を請求しているが、社会保険未加入であり、源泉徴収で控除された所得税が納税されているか不明、福祉による治療を受けるために病院には無職と告げている?
休業損害は全否定され、逸失利益の基礎収入は、600万円の70%に減額された上、素因減額で50%がカットされている、治療歴があったこと、休業損害や逸失利益の詐欺的請求が加味されて素因減額が50%とされたもので、そもそも、裁判に馴染む事案ではないと思われます。
②京都地裁H21-12-16判決 素因減額20%
25歳、男性 調理師の運転する自動二輪車に自動車が追突したもので事故前に治療歴なし、無症状、治療期間は、平成15年1/11~平成16年12/31の1年11カ月
受傷から6カ月を経過してL5腰椎固定術が実施、後遺障害は、12級13号、腸骨からの採骨12級5号、併合11級、若年者であり、基礎収入は高卒年齢別の賃金センサス375万0500円を採用、喪失率は、12級ベースで14%、喪失期間は15年、
紹介している3つの判例中、最もスタンダードなものです。
事故前は無症状で、治療歴もありません。 自賠責保険も併合11級を認定しており、休業損害などで詐欺的な請求もなく、誇大な自覚症状の訴えもありません。
③大阪地裁判決H23-12-11 訴因減額70%
37歳 男性 ゴミ収集会社社員が自動車を運転中、前車のスペアタイヤが落下、これに衝突して乗り上げた事故、腰椎分離症、自賠責保険は、14級9号を認定、異議申立は却下、
裁判所は12級13号を認定、固定術は行われていない、
車間距離保持義務違反で過失割合は、20:80を認定、H17-2/14~H18-3/22通院、症状固定
南部医院→済生会吹田病院→関目病院→滝井病院→協和病院→和田病院→御所東クリニック
①本件事故後の悪化前の症状は、訴えに乏しいものであった、
②仕事=ゴミ収集による負荷が予想されること、
③いずれの病院でも、手術適応とされていないこと、
④本件訴訟の尋問期日に自ら出頭、一般通常人と同様に証言席に座って応対できたことから、
歩行や立位の維持が困難、座り続けることも困難、長時間の立ち仕事や自動車の運転は到底できない、デスクワークすら満足に行えないなどの愁訴は誇大である。労災保険では、神経症状として12級12号、右足関節の機能障害で12級7号、右第1足趾の機能障害で12級11号、併合11級を認定しているが、右足関節と右足趾には傷病名がなく、等級に該当しない、
固定術も受けていないのに、誇大な愁訴を繰り返し、詐欺的な手法で労災等級を獲得したことが裏目に出た結果、素因減額70%、過失割合20%で請求が棄却されたもので、そもそも、裁判に馴染む事案ではないと思われます。事故前に無症状で、通院治療歴がないこと、腰椎に不安定性が生じ、固定術が実施されていること、誇大な訴え、詐欺的な休業損害と逸失利益などの請求がなければ、裁判では、20%程度の素因減額で、損害賠償請求が認められています。