(36)脛骨神経麻痺(けいこつしんけいまひ)

脛骨神経麻痺

(1)病態

脛骨神経は、大腿後面の中央より遠位で坐骨神経の内側部分として分岐し、中央を下行、足関節の底屈と足趾の屈曲を行う筋群と、足関節外果より足背外側、足底の知覚を支配しています。
脛骨神経は深部を走行しており、外傷の際に損傷を受けることはほとんどありません。
稀に、膝窩部で損傷を受けることもありますが、腓骨神経麻痺に比較すれば少数例です。
脛骨神経麻痺の代表は、神経の完全断裂ではなく、絞扼性神経障害の足根管症候群です。

(2)症状

足根管症候群では、つま先立ちができない、足趾の屈曲が困難、足底の夜間痛、痺れなどの症状が出現します。大半は、保存療法もしくはオペで改善が得られるものであり、であれば、過剰反応することもありません。

脛骨神経が完全麻痺すると、腓腹筋、ヒラメ筋の麻痺により足関節の底屈、内反、足趾の屈曲が困難となり外反鉤足を示します。

※外反鉤足
踵足は、足のつま先が宙に浮き、踵だけで接地する足の変形です。

中足骨の骨間筋は、神経麻痺のため、足趾に鉤爪変形が生じ、また、足底の感覚障害も起きます。

(3)診断と治療

治療としては、足根管症候群であれば、保存的に、ステロイド剤の局注、鎮痛消炎剤の内服、足底板の装用、安静で改善を見ることもありますが、効果が得られなければ、屈筋支帯を切離し、神経剥離術を実施します。

(4)後遺障害のポイント

1)大腿骨顆部や𦙾骨プラトーの開放性で挫滅的な粉砕骨折、足関節の開放性の3果骨折、距骨、踵骨のグレードⅢ以上の骨折では、具体的な症状を確認し、神経質な対応をしています。
脛骨神経が完全麻痺すると、腓腹筋、ヒラメ筋の麻痺により足関節の底屈、内反、足趾の屈曲が困難となり外反鉤足となり、中足骨の骨間筋は、神経麻痺のため、足趾に鉤爪変形が生じ、また、足底の感覚障害も起きます。

2)脛骨神経の完全麻痺では、足関節の底屈が、自動で不能となり、8級7号が認定されます。
足趾すべての自動屈曲運動が障害されていれば、9級15号、併合で7級が認定されるのです。
外反鉤足についても、日常生活で装具の装用が必要なのか、足趾に鉤爪変形、足底の感覚障害も後遺障害の対象として検証しなければなりません。
備えあれば憂いなしですが、なんでもないと見落とせば、被害者救済の実現はありません。

(5)NPOジコイチの経験則

2017年4月、京都で脛骨神経部分麻痺の被害者に初めて遭遇しました。
直進の自動二輪車と対向右折の2トンとラックの出合い頭衝突です。
傷病名は、右下腿挫創ですが、弁慶のスネ部分を深く切っており、ケロイド創瘢痕を残していました。
右足関節の背屈が自動運動で不能で、下垂足でしたが、足趾の用廃は認められません。
脛骨神経の部分麻痺は、神経伝達速度検査で立証し、12級7号が認定されました。