(21)線維筋痛症

1)病態

CRPSに続く難治性の疼痛疾患に線維筋痛症があります。
恒常的、慢性的、持続的な全身の激しい疼痛とこわばりが主たる症状で、全身の重度の疲労や種々の症状を伴う難治性の深刻な疾患ですが、関節リウマチに見られる関節の炎症はありません。

さらに、血液、尿検査で炎症反応が得られず、脳波、心電図検査を行っても異常所見はなく、XP、CT、MRIの撮影でも、明らかな器質的損傷を確認することができません。
現在でも、医師が押さえると痛みを感じる、圧痛点が複数の箇所に確認できることで、この傷病名が確定診断されています。

線維筋痛症では、外傷後に発症する比率は、50%以下と報告されているのですが、50%以下であっても、線維筋痛症の発症のきっかけとして外傷や手術などが指摘されており、外傷後に生じた線維筋痛症の内、約60%は交通事故が原因であるという報告もなされています。
具体的には、下肢の骨折から線維筋痛症の発症率は1.7%であるのに対して、頚部捻挫から線維筋痛症の発症率は21.6%とのデータが明らかにされています。

線維筋痛症の原因については、ウイルス感染説、不眠説、食物アレルギー説、化学物質過敏説、内分泌異常説、自律神経異常説、下行性疼痛抑制系の機能不全説など多くの説がありますが、いずれも、科学的、医学的に明らかにされておらず、原因不明の状態が続いています。
日本では、およそ200万人の患者数と推計されており、男女比では、中年女性が圧倒的です。
2012-6-22、リリカが、線維筋痛症の薬として保険適応の承認を得ています。

2)2010年の米国リウマチ学会 線維筋痛症の診断基準

WPI=過去1週間の19カ所の疼痛範囲の数(1項目1点)
□右肩 □左肩 □右上腕 □左上腕 □右前腕 □左前腕 □右臀部 □左臀部 □右大腿
□左大腿 □右下肢 □左下肢 □右顎 □左顎
□胸部 □腹部 □首 □上背 □下背

SS症候=痛みの部位を評価する広範囲疼痛指標
疲労、起床時不快感、認知症状、3つの症状について、過去1週間の重症度レベルを0~3の中から1つ、つけます。
□疲労 0 1 2 3
□起床時の不快感 0 1 2 3
□認知症状 0 1 2 3

SS=一般的な身体症候
□筋肉痛 □過敏性腸症候群 □疲れ/疲労感 □思考または記憶障害 □筋力低下 □頭痛
□腹痛/腹部痙攣 □しびれ/刺痛 □めまい □睡眠障害 □うつ □便秘 □上腹部痛 □吐気
□神経質 □胸痛 □視力障害 □発熱 □下痢 □ドライマウス □かゆみ □喘鳴
□レイノー症状 □蕁麻疹 □耳鳴り □嘔吐 □胸やけ □口腔内潰瘍 □味覚障害 □痙攣
□ドライアイ □息切れ □食欲不振 □発疹 □光線過敏 □難聴 □あざができやすい □抜け毛
□頻尿 □膀胱痙攣 □排尿痛

線維筋痛症

0 問題なし、
1 軽い、もしくはほとんどない、または症状があったりなかったりする、
2 中くらい、日常に支障がある、ほとんど常に感じる、
3 強い、持続的、日常生活にかなり支障になる、

3カ月以上、身体全体の痛みが続き、他疾患とは考えにくいこと、
WPIが7以上+SS症候が5以上、または、WPIが3~6+SS症候が9以上のものを、線維筋痛症と認定すると定義されています。

2)厚生労働省研究班による線維筋痛症の重症度

Stage 1 11カ所以上の圧痛点で痛みがあるが、日常生活で重大な影響はない
Stage 2 手足の指などに痛みが拡がり、不眠、うつ状態が続き、日常生活が困難になる、
Stage 3 爪や髪への刺激、温度・湿度変化でも激しい痛みがあり、自力での生活が困難、
Stage 4 ほとんど寝たきり、自分の体重による痛みで、長時間、同一姿勢がとれない
Stage 5 全身に激しい痛み、直腸障害や口の渇き、目の乾燥などで日常生活が不可能

3)専門医の検索

①名称 地方独立行政法人桑名市総合医療センター 桑名東医療センター 膠原病リウマチ内科
所在地 〒511-0061 三重県桑名市寿町3-11
TEL 0594-22-1211
医師 松本 美富士(まつもと よしふじ) 医師

月・水・木の午前、 完全予約制につき紹介状が必要

②名称 福山リハビリテーション病院
所在地 〒721-0961  広島県福山市明神町2-15-41
TEL 084-916-5500
医師 戸田 克広 先生

火・木の8:30~12:30 事前予約が必要

日本線維筋痛症学会 診療ネットワーク
http://jcfi.jp/network/network_map/index.html

③名称 日本大学医学部付属板橋病院 心療内科
所在地 〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1
TEL 03-3972-8111
医師 村上 正人先生
予約制 水曜日

4)後遺障害のポイント

①専門医の受診を急ぐこと、

現状では、線維筋痛症の原因は医学的にも不明であって、どのような検査を行っても、器質的損傷を立証することはできません。厚生労働省は、線維筋痛症を疾患として認知していますが、交通事故との因果関係となると、結論を出していません。したがって、線維筋痛症で後遺障害を申請しても、自賠責保険、労災保険は非該当とせざるを得ないのです。
被害者が後遺障害を含めた損害賠償を実現するには、裁判に訴えるしかありません。

訴訟となれば、損保は、顧問医の意見書で、線維筋痛症と本件事故との因果関係を完全否定します。

H27-1-21東京高裁判決では、因果関係の立証と判定について、以下を判示しています。
「訴訟における因果関係の立証は、経験則に照らして全ての証拠を総合検討し、特定の事実が、特定の結果発生を招いた関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することである。
その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」

受任した弁護士は、専門医の診断書および意見書で上記を立証しなければなりません。
こんなとき、線維筋痛症の経験則が少なく、理解に乏しい主治医であれば、お手上げです。
専門医の意見書で対抗するにしても、受傷から日時が経過していれば、つまり、初期から診察していなければ、症状の経過を明確にすることができず、裁判官の心証は損保の主張に傾くのです。

したがって、被害者は、急いで専門医を受診、その治療先で治療を続けなければなりません。
専門医の受診で、線維筋痛症が確定診断されたのであれば、セロトニン系の抗うつ薬、抗痙攣薬のリリカなどの内服で、一層の改善、治癒を目指すことになります。

線維筋痛症を代表する3名の専門医を紹介していますが、
日本線維筋痛症学会 診療ネットワーク http://jcfi.jp/network/network_map/index.html
上記から、全国の専門医を検索することができます。

②線維筋痛症の症状固定と後遺障害等級

線維筋痛症でも、CRPSと同じく、重症化しないこと、専門医の治療で改善を得ることを優先させるのですが、専門医の治療を1年間続け、一定の改善が得られたときは、まだ症状を残していたとしても、健康保険に切り替えて治療は継続しますが、症状固定を決断し、後遺障害の申請を行って、本件事故の決着をつけるように促しています。

深刻な症状を訴えても、損保が1年以上、治療費や休業損害を払い続けることは考えられません。
さらに、後遺障害の申請を行っても、現状では、非該当であり、なんの期待も持てない状況です。

線維筋痛症では、後遺障害等級の定めがありません。
被害者の症状から、CRPSの等級認定基準を準用して訴えを起こすことになります。
介護が必要となる状況では、7級以上の上位等級で請求することになります。

等級 障害の内容
7 4:軽易な労務以外の労働に、常に差し支える程度の疼痛があるもの
9 10:通常労務に服することはできるが、疼痛により、ときには労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
12 13:通常労務に服することはできるが、ときには労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの

③立証作業では、

a現在の症状と、これまで1年間の症状経過を詳しく、具体的に文書化します。

b主治医には、初診時の自覚的症状と傷病名、治療経過について、診断書に記載を受けます。
診断書と診療録の写しは回収します。

c専門医には、後遺障害診断書の作成を依頼します。
後遺障害診断書には、線維筋痛症と診断した根拠、詳細な治療経過の説明などの記載を受け、診療録の写しとともに回収します。

dこれらの書証をまとめ、もう一人の専門医に意見書の作成を依頼します。
被害者が40代の兼業主婦では、住民票、源泉徴収票などで、本人の仕事の内容、キャリアと年収、夫の仕事の内容と年収、家族関係を明らかにし、事故前の手術やウィルス感染などの外的要因がないこと、双極性障害などの心的疾患の治療歴がないこと、離婚、死別、別居、解雇、経済的な困窮や生活変化に伴う心因性の要因も排除されることを丁寧に説明し、本件の傷病名と治療経過およびこれまでの経験則から、線維筋痛症と本件事故との因果関係について、意見書の作成を依頼します。

ここまでは、NPOジコイチのスタッフ、チーム110が被害者に同行してサポートをしています。

④最後は、連携する弁護士の出番です。

経験則の豊富な弁護士に委任し、訴訟で争うことになります。
7級4号が認定される重症例では、日常生活で他人の介護が必要なことがあります。
将来の介護料の請求では、医師の意見書が必要であり、介護事業者の選定も重要な作業です。
介護が必要な状況では、裁判で7級以上の上位等級を目指すことになります。
そうなると、交通事故、後遺障害の経験則を有する弁護士でなくてはなりません。
弁護士は、希望があれば、NPOジコイチが紹介することも可能です。

5)裁判の判例について

①H18-10-13山口地方裁判所 岩国支部判決 最高裁ウェブサイト
線維筋痛症と交通事故との因果関係を肯定した最初の判決ですが、寄与率を25%、4684万円の請求に対して528万円の支払いを命じたもので、因果関係を認めたとはいえ、腰が引けています。

②H20-8-26神戸地裁判決、自保ジャーナル1794号
頚椎捻挫から線維筋痛症を発症したという原告の主張に対し、頚部に加わった外力と線維筋痛症の直接の因果関係が不明である以上、本件事故と線維筋痛症との間に因果関係を認めることができないとして、原告の訴えを退けています。

③H22-12-2京都地裁判決、自保ジャーナル1844号
原告の線維筋痛症の発症に、本件事故によって負った骨盤骨折等の重傷による肉体的精神的ストレスが作用している蓋然性が優にあると認められるとして、後遺障害等級7級を認定、線維筋痛症と交通事故との因果関係を認めています。

④H24-2-28横浜地裁判決、自保ジャーナル1872号
36歳女性会社員が、軽度外傷性脳損傷による高次脳機能障害、低髄液圧症候群、胸郭出口症候群、線維筋痛症、反射性交感神経性ジストロフィーの疑いなどの傷病名で11年間の治療を続け、3級の後遺障害を残したとして、1億3047万8616円を請求する事案で、裁判所はすべての傷病名を否定し、頚椎捻挫、胸部、臀部挫傷で8カ月間の治療を認め、後遺障害は14級9号であるとして、損害額を436万8505円と判決しています。

⑤H27-1-21東京高裁判決、自保ジャーナル1941号
④の控訴審ですが、本件控訴は棄却されました。
本件の被害者は、俗に言う、チョープシコです。
受傷から3年6カ月を経過した時点で、損保は債務不存在確認請求訴訟を提起しており、これに対抗するため、弁護士が受任したのですが、残念な結果となりました。

線維筋痛症について、方向性が示されたとは言えませんが、説得力のある否定例が目立ちます。
繊維筋痛症では、自賠責保険は、本件事故との因果関係が不明であるとして非該当にしています。
訴訟では、医学的な論争を繰り広げることになり、極めて難しい闘いが予想されます。