(3)気管・気管支断裂(きかん・きかんしだんれつ)

気管・気管支断裂

(1)病態

気管は空気を口から肺へ送り込む導管です。
気管の外傷は、少数例ですが、呼吸に関わることであり、重症例では死に至る深刻なものです。

交通事故では、バイクの運転者に多く、頚部に直接外力が加わる、転倒時に、頚部を強く打撲する、急激に頚部が引き伸ばされたときや、自動車であっても、高速で走行中の衝突事故で、体に大きな外力が作用し、体内で引き千切られるように断裂すると考えられています。

(2)症状

症状は、血痰や呼吸困難ですが、頚部皮下気腫や縦隔気腫を伴うことが最大の特徴です。
受傷直後から、これらの症状が現れ、進行していくので、救急搬送を急がなければなりません。

(3)治療

血痰、呼吸困難、頚部皮下気腫が認められると、気管断裂が強く疑われます。
胸部CT、気管支鏡検査により確定診断がなされています。

損傷が軽度であれば、自然に回復することもありますが、中程度以上の単独損傷では、緊急手術により、気管断裂部の修復術が実施されます。

多臓器損傷が合併しているときは、気管内挿管や気管切開を行って、損傷部を越えて気管内チューブを健常部にまで挿入し、換気を確保します。
全身状態が落ち着いてから修復術が実施されます。
外傷後の瘢痕を剥がすように、気管断裂部にアプローチするのですが、頚部には、動静脈や神経、食道が走行しており、当然、専門医の領域です。

頚部気管の完全断裂症例は、救命が非常に困難な外傷であり、進行性の呼吸困難で窒息の危険があるときは、事故現場で気管切開が実施されることもあります。

(4)後遺障害のポイント

1)滅多に遭遇しませんが、呼吸器内科の医師は、後遺障害の知識と経験則に乏しく、協力を得るのに、毎回、大変な苦労をしています。
医師に任せておけば、後遺障害が認定される? そんな錯覚はしないことです。

2)経験則です。
52歳男性、原付バイクを運転中に、2トントラックに追突された交通事故です。
被害者は、左前方にはね飛ばされ、街路樹に激突しました。
傷病名は、多発肋骨骨折、フレイルチェスト、肺挫傷、気管断裂、頚部皮下気腫、左肩鎖関節脱臼骨折グレードⅢであり、40日の入院を伴う重傷でした。
症状固定段階では、息苦しさ、運動時の息切れ、かすれ声、左肩鎖関節部の変形と左肩関節の運動障害を確認しています。
スパイロメトリー検査では、%肺活量が60%、1秒率は70%であり、肺が空気を取り入れる容量が少なくなっていること、弾力性を失っていることで、息苦しさ、息切れを立証しました。

かすれ声=嗄声(させい)については、気管挿管もしくは抜去時に、声帯に損傷を受けたものと推定されるとのことで、そのことについて、後遺障害診断書に記載をお願いしました。

左肩鎖関節の脱臼骨折は、MRIでグレードⅢが確認できました。
被害者は、体重80kgの小太りで、左肩鎖関節部の鎖骨の出っ張りがあまり目立たないのです。
2カ月間で15kgのダイエットを指示し、裸体で明らかに変形が確認できるようにしました。
左肩関節の他動値は、外転が120°内転0°で右に比較して4分の3以下を達成しています。

弁護士による被害者請求の結果、呼吸器の障害は11級10号、かすれ声は12級相当、左鎖骨の変形で12級5号、左肩関節の運動障害で12級6号、併合10級が認定されました。

かすれ声、嗄声は、喉頭ストロボスコープで立証します。

喉頭ストロボスコープ
喉頭ストロボスコープ

これは、高速ストロボを利用して声帯振動をスローモーションで観察する装置です。
スローモーションで見ることで、声帯の一部が硬化している、左右の声帯に重さや張りの違いが生じておこる不規則振動を捉え、検査データにより、嗄声を立証しています。
嗄声を立証すれば、12級相当が認定されます。

※スパイロメトリー検査
呼吸の呼気量と吸気量を測定し、呼吸の能力を判定しています。

※肺活量
空気をいっぱい吸入して、いっぱい吐いたときの量です。
通常、年齢と身長によって計算した予測正常値と比較し、%肺活量として表します。

※1秒率
肺活量を測定するときに、最初の1秒間に全体の何%を呼出するかの値です。
肺の弾力性や気道の閉塞の程度を示します。
弾力性がよく、閉塞がないと値は大きくなります。

スパイロメトリー検査 おおよその目安
%肺活量 1秒率 レベル 障害の状態
80以上 70以上 正常
79以下 70以上 拘束性 肺の弾力性低下、胸部拡張障害、呼吸運動の障害
80以上 69以下 閉鎖性 気道閉塞、肺気腫
79以下 69以下 混合性 上記の2つが混合したもの