(1)コーレス骨折
1)病態
橈骨の遠位、つまり心臓より遠い部分ですから、印象としては、手首の骨折となります。
倒れたとき、手をついた際、橈骨遠位端骨折が生じますが、手のつき方で骨折の名前が違います。
転倒したときに、手の平をついて倒れたときは、コーレス骨折、手の甲をついて倒れたときは、スミス骨折というのです。
2)症状
手首に強い痛みがあり、短時間のうちに腫れてきます。
手のひらをついての骨折では、食器のフォークを伏せて置いたような変形が見られます。
健側の手で支えないと、骨折側の手はブラブラ状態で力が入りません。
骨折や腫れで神経が圧迫され、親指~環指母指側1/2までの指が痺れることもあります。
3)治療
正中神経麻痺を好発する部位です。
XPで確認でき、骨折部は、フォーク背様に変形がみられます。
従来は、麻酔下で徒手整復を行い、前腕の変形を起こさせないため、上腕からギブス固定を行うのが主流でしたが、現在では、ロッキングプレートによる固定が一般的です。
プレート固定により、早期にリハビリを開始し、手関節の機能障害を防いでいます。
小学校低学年の子どもでは、関節周囲の骨折以外は自家矯正力が期待できるので、徒手整復による保存療法が行われています。血管損傷や神経損傷がないことを検証したのち、ギプス固定とします。
成長期は骨が癒合しやすいので、1、2カ月の経過で骨癒合が得られ、安定します。
整復後に変形が残ったり骨折部が離開していても、軽度なものであれば、癒合が得られます。
それでも、不安定な関節周囲の骨折やズレの大きい骨折のときは、入院下で持続牽引を実施し、X線で透視しつつ、鋼線を刺入して骨折部を固定する経皮的にピンニング手術が行われています。
4)後遺障害のポイント
スミス骨折のところで、まとめて解説しています。
(2)スミス骨折
1)病態
転倒の際に、手の甲を地面について骨折すると、骨折部は手のひらの方向にズレます。
自転車のハンドルを持ったまま転倒しての骨折では、形状からスミス骨折と呼ばれています。
XPでは、骨折片は、コーレス骨折とは逆の手掌側に転位、ズレています。
それ以外では、合併症、症状等はコーレス骨折と同じです。
2)症状
コーレス骨折と同様に、骨折部のズレ、痛み、腫れ、発赤などを発症します。
手はブラブラの状態で、手関節の運動はできません。
手首を走行する正中神経が損傷すると、親指の運動障害や、親指から薬指にかけての感覚低下としびれを発症します。骨折の影響で、長母指伸筋腱が、なん日も経過して断裂することもあります。
3)検査と治療
XP検査で、骨折と骨折後の偏位を確認することができます。
手関節におよぶ粉砕骨折では、CT、MRI検査が実施されています。
ロッキングプレートによる固定で、早期にリハビリを開始し、手関節の機能障害を防いでいます。
4)コーレス骨折・スミス骨折における後遺障害のポイント
①ロッキングプレートなど、これだけ医療技術が進歩していても、ローカルでは、今なお、徒手整復後のギプス固定が治療の主流となっています。
保存療法では、6カ月で症状固定とすれば、高い確率で12級6号が認定されています。
②前腕骨は橈骨と尺骨で構成されており、手首のところで、2つの骨が橈尺関節を形成しています。
骨折による橈骨の背側の傾きが20°以上、橈骨が5mm以上の短縮変形をきたすと、この関節の機能に障害をもたらし、手関節の疼痛、握力の低下、前腕の回内・回外制限などを残すのです。
ロッキングプレートによる固定であっても、ここはチェックしなければなりません。
骨折部の骨癒合の形状、角度、短縮変形を立証できれば、先の症状は、後遺障害として認定されるのです。自覚症状だけでは、それが事実であっても、後遺障害として審査されることはありません。
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③手関節の疼痛の軽減と可動域制限の改善を目的として橈骨矯正骨切り、尺骨短縮手術などが行われたときは、偽関節としてではなく、12級8号が認定されています。
等級 | 上腕と前腕の遠位端の偽関節 | 自賠責 | 喪失率 |
12 | 8:上腕骨の遠位端、骨端部の偽関節は、12級8号として評価し、肘関節の機能障害と比較し、いずれか上位の等級を認定する。 | 224 | 14 |
8:橈骨および尺骨の遠位端、骨端部の偽関節は、12級8号と評価し、手関節の機能障害と比較し、いずれか上位の等級を認定する。 |
※カパンジー法
前腕の回内・回外運動の改善と手関節の安定化を図る目的の手術で、尺骨の一部を切り離す手術をカパンジー法と言います。
カパンジー法が実施されたときは、尺骨は偽関節となりますが、前腕の保持機能には、ほとんど影響を与えることがなく、硬性補装具を必要とすることも考えられないところから、長管骨に奇形を残すものとして12級8号が認定されています。
※ダラー法
前腕の回内・回外を改善させる目的で尺骨の遠位端を欠損させる手術をダラー法と言います。
遠位端の切除ですから、偽関節には該当しません。
これにより、なんらかの障害を残したときは、その障害に応じて、別途判断することとされています。
④骨折の整復が不十分なとき、長期間の固定が続き、手関節が拘縮、萎縮したときは、複合性局所疼痛症候群、カウザルギーを発症することが予想されます。
複合性局所疼痛症候群 CRPSは、第1章 神経系統の機能と精神の障害⇒3末梢神経系⇒(11)複合性局所疼痛症候群 CRPSで解説しています。