(38)橈骨神経麻痺(とうこつしんけいまひ)

(1)病態

恋人を腕枕にして眠り、夜中に腕が痺れて目が醒めます。
これが一過性の橈骨神経麻痺なのですが、覚えがおありですか?
欧米では、この麻痺のことをSaturday night palsy、土曜の夜の麻痺と呼んでいるのです。

橈骨神経麻痺

橈骨神経は頚椎から鎖骨の下を走行し、腋の下を通過して、上腕骨の外側をぐるりと回り、外側から前腕の筋肉、伸筋に通じています。橈骨神経は手関節や手指を動かす運動神経とモノを触ったときに、それを感じる知覚神経の2つの神経が束になって走行しています。
橈骨神経の障害が起こる部位は、①腋の下、②土曜の夜の麻痺の上腕骨中央部、③前腕部です。
交通事故では、上腕骨骨幹部骨折、上腕骨顆上骨折、Monteggia骨折等で発症、上腕中央部の麻痺が多いのが特徴です。

(2)症状

症状としては、手のひらは、なんでもないのに手の甲が痺れます。
特に、手の甲の親指と人差し指の間が強烈に痺れるのです。

橈骨神経麻痺

手首を反らす筋肉が正常に働かないので、手関節の背屈ができなくなり、親指と人差し指で物をうまく握れなくなり、手は、下垂手=drop hand変形をきたします。
橈骨神経の支配は、親指、人差し指、中指と薬指の手の甲側なので、この部位の感覚を失います。

(3)検査と治療

診断は、上記の症状による診断や、チネルサインなどのテストに加え、針筋電図も有効な検査です。
患部を打腱器で叩き、その先の手や足に電気が走ったような痛みを発症するかどうかの神経学的検査法をチネルサインといいます。

手指の神経支配領域

治療ですが、圧迫による神経麻痺であれば、自然に回復していくとされています。
手首や手指の関節の拘縮を防止する必要から、リハビリでストレッチ運動を行います。
カックアップやトーマス型の装具の装用や低周波刺激、ビタミンB12の投与が行われます。

カックアップ装具
カックアップ装具
トーマス型装具
トーマス型装具

少数例ですが、末梢神経が骨折部で完全に断裂していることがあります。
断裂では、知覚と運動は完全麻痺状態となり、観血術で神経を縫合することになります。
手術用の顕微鏡を使用し、細い神経索を縫合していくのですから、手の専門外来のある病院で手術を受けることになりますが、陳旧性、古傷では、予後は不良です。

(4)上腕骨骨幹部骨折、橈骨神経麻痺、後骨間神経麻痺における後遺障害のポイント

1)上腕骨々幹部粉砕骨折では、偽関節で8級8号を経験しています。
また、保存療法では、上腕骨の変形で12級8号も経験しています。
しかし、一般的な横骨折では、偽関節や肩、肘の機能障害を残すことはありません。
骨折の形状と骨癒合を検証しなければなりませんが、後遺障害を残す可能性は低い部位です。

2)橈骨神経の断裂、挫滅により、橈骨神経麻痺が認められるときは、
橈骨神経の断裂、挫滅により、橈骨神経麻痺の症状が認められるときは、手術をするか、それとも症状固定を優先するかで、大いに悩む場面です。
現実には、神経縫合術よりも、症状固定として後遺障害認定を優先する方が多いのです。
症状が陳旧性、古傷となっているときは、神経縫合術によって完全治癒が期待できないからです。

さらに、受傷から時間も経過しており、損保がさらなる治療費や休業損害の支払いを拒むことも、症状固定を優先する理由となっています。

さて、橈骨神経麻痺により、完全な下垂手となって手関節の背屈や掌屈ができなくなっているときは、後遺障害申請では、足の腓骨神経麻痺のケースと同様で、8級6号が認定されます。
手術先行で、不完全な下垂手に改善したときは、10級10号に薄められる可能性が予想されるのです。
等級が下げられても、日常生活の支障には大差なく、ただ、損害賠償金だけが減額されるのです。
したがって、橈骨神経の完全断裂となったときは、NPOジコイチは、縫合術に先んじて後遺障害を申請することをお勧めしています。

3)陳旧性=古傷の後骨間神経麻痺では、下垂指により、手指のMCP、MP関節の伸展運動が不能となり、7級7号が認定されます。
神経損傷のあるものでは、神経剥離、神経縫合、神経移植術などが選択され、神経のオペで回復の望みが期待されないときは、腱移行手術が行われていますが、陳旧例では、完全回復が得られません。
したがって、症状固定として、後遺障害の獲得を優先しています。

4)上腕骨の短縮について
これは、かねてより待ち構えている後遺障害です。
自賠法には、上肢の短縮による後遺障害は規定がなく、短縮障害が後遺障害として規定されているのは、下肢に限定されているのです。
現状では、これを申請してもスルーされます。

しかし、右上腕骨の開放性粉砕骨折で、右上腕骨が3cm短縮するとどうなるのか?
両肘を真っ直ぐに伸ばして、バイク、ロードレーサーの自転車、スポーツカーの運転はできません。
短縮は、肩関節で補正しなくてはならず、歪んだ姿勢で運転を余儀なくさせられます。
既製服は、スーツ、ワイシャツであっても、全て直しが必要となります。
これらは、いずれも日常、仕事上の支障であり、後遺障害として損害に反映されるべきです。
自賠法に左右されない裁判所であれば、骨短縮と、それによる支障を立証することで、損害賠償につながると考えています。そんな被害者が、無料相談会に参加されることを、心待ちにしているのです。