(41)手根骨 有鉤骨骨折(ゆうこうこつこっせつ)

(1)病態

鉤骨折(こうこっせつ)とも呼ばれ、右手では、環指と小指の中間、下方にある手根骨の1つで、手のひら側に、突起=鉤が存在する特異な骨です。
有鉤骨骨折

交通事故では、バイクのアクセルを握った状態での出合い頭衝突で、右手に多く発症しています。
自転車、バイクから転倒する際に、手をつくことでも発症しています。

手のひら側のCT画像
手のひら側のCT画像ですが、突起=鉤が骨折しているのが確認できます。

交通事故以外では、ラケットやバット、ゴルフのグリップを振ることで、有鈎骨骨折が発生しています。

(2)症状

小指の付け根と手首の間に痛み、腫れを生じます。骨折の発見が遅れ、骨が癒合しないと痛みが残り、そのまま放置しておくと、小指を曲げる屈筋腱が切断することがあります。
また、高い確率でギヨン菅症候群を発症します。
尺骨神経がギヨン菅で絞扼、圧迫されたときは、手首から先の小指のしびれと感覚障害を生じます。
放置しておくと、手の骨間筋が筋萎縮し、鷲手変形が生じます。

(3)治療

ズレのない骨折では、6週間前後の前腕部以下のギプス固定が、ズレ=転位の大きいときは、骨折している鉤の切除が実施されています。
切除術では、1週間の外固定で、手が使用できますが、スポーツの開始は、4週間以降となります。

ギヨン菅症候群では、手関節部のXP、CT、MRI撮影、尺骨神経の伝達速度検査が行われます。
尺骨神経管部の圧痛やチネルサイン、環指尺側と小指の掌側のしびれと感覚障害、手内在筋萎縮と筋力低下、環指と小指の鉤爪変形があり、尺骨神経伝達速度検査にて異常を認めることで、ギヨン菅症候群の確定診断がなされます。

最初は、保存的に、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)、ビタミン12の服用、スプリントの装着で安静加療が指示され、リハビリでは、低周波電気刺激療法やマッサージ、レーザー光線の照射が行われますが、効果が得られないものは神経剥離術、神経移行術がおこなわれます。

(4)後遺障害のポイント

1)上肢の傷病名と後遺障害⇒32ギヨン菅症候群でも解説していますが、有鈎骨骨折では、高い確率で、ギヨン菅症候群を合併します。

ギヨン菅症候群

ギヨン管のトンネルの中で、尺骨神経が絞扼、圧迫を受けて神経麻痺を発症しているのであり、事故後の早期に、この要因を排除してやれば、改善が得られます。
保存療法で改善が得られないときは、筋萎縮が進行しない内に、早期に手術を受けるべきです。
本件では、後遺障害は後回しと考えており、無料相談会などの出会いが早ければ、手術を受けることで回復が得られ、神経麻痺の後遺障害を残すことなく解決に至っています。

2)切断や挫滅による神経麻痺であれば、マイクロサージャリーで尺骨神経をつなぐ縫合術となります。
簡単な手術ではなく、予後は不良ですが、コラーゲン製の人工チューブ=神経再生誘導チューブを使用した新しい術式が開発されており、期待が持てます。

3)問題は、出会いが遅く保存療法で治療が続き、受傷から1年以上が経過している被害者です。
神経絞扼・圧迫であっても、骨間筋萎縮が進行し、鷲手変形をきたしているときは、陳旧性=古傷であり、この段階から専門医の手術を受けても、治癒は期待できないのです。
術後のリハビリ治療も1年以上を続けることになりますが、それでも、予後は不良です。
尺骨神経の断裂や挫滅となれば、手術による改善も絶望的です。

しかも、ほとんどで、損保は、治療費を打ち切り、休業損害は支給停止としていますから、ここから手術を受けても、治療費が負担されることはありません。
必然的に症状固定で後遺障害を申請することになります。

尺骨神経麻痺は、神経伝達速度、針筋電図検査とチネルサインやフロメン徴候で立証し、現実の支障は、申述書で明らかにすることで、等級を獲得することになります。
鷲手変形の重症例では、1手の親指以外の3本の手指の用廃で9級13号が認定されています。

4)スポーツに伴う、単独の有鈎骨骨折では、ギプス固定であっても切除術であっても、後遺障害を残すことなく治癒しています。
ところが交通事故では、衝撃力、破壊力が、スポーツとは段違いです。
骨折部の痛みが長期に続くことが予想されます。
骨折部の変形を3DCTで立証し、神経症状で、12級13号、14級9号の獲得を目指しています。
少数例ですが、手関節の可動域制限で12級6号も経験しています。

5)いずれにしても、専門医の受診が急がれます。
手を構成する細かい骨の骨折や脱臼、それに伴う神経麻痺などは、手の専門医の領域です。
専門医でなければ、見落としてしまうのが通常と考えてください。

受傷直後から、骨折部に痛みや動作痛が発生するのですが、いわゆる激痛ではありません。
訴えが乏しいことに加えて、XP撮影であっても、2方向からでは確認することができません。
4、5カ月の漫然治療が続き、症状に改善がないとして専門医を受診しても、骨折や神経麻痺はすでに陳旧性、古傷となっています。ここから積極的な治療が行われても、完治は期待できません。
さらに、後遺障害の申請では、Giroj調査事務所が、本件事故との因果関係を疑問視することで、認定に、相当の時間が掛かり、因果関係が否定され、非該当になることもあり得るのです。