(47)手根骨 手根不安定症(しゅこんふあんていしょう)

手根不安定症

(1)病態

手根不安定症は、交通事故などの外傷性手根靭帯断裂を原因として、高い頻度で発症しています。
外傷後の手根不安定症には、
①靱帯だけが断裂して発生するもの、
②骨折を伴う靱帯断裂に起因するもの、これらの2つがあります。

手根靱帯は、以下の9つの靱帯で手根骨を結びつけています。
①内側手根側副靱帯:有鉤骨・豆状骨・尺骨を結ぶ
②外側手根側副靱帯:大菱形骨と橈骨を結ぶ
③背側橈骨手根靱帯:橈骨・舟状骨、橈骨・月状骨、橈骨・三角骨の3つを結ぶ、
④背側手根間靱帯:有鉤骨・有頭骨・舟状骨を結ぶ、
⑤骨間手根管靱帯:有鉤骨・有頭骨、有頭骨・小菱形骨、小菱形骨・大菱形骨をそれぞれ結ぶ
⑥三角鉤状靱帯:三角骨・有鉤骨を結ぶ
①②③は、主要な靱帯といわれています。

(2)症状

手関節の可動域制限、運動時痛、握力の低下、有痛性のクリック音などを発症します。

(3)治療

手根靭帯の断裂でも、部分断裂であれば、捻挫として保存的に治療をすれば完治します。
しかし、靭帯の完全断裂後に発生する手根不安定症では、保存治療を続けても症状が完治することはなく、手術が必要となります。
外傷後の手根不安定症で、最も多いのは、舟状・月状骨の靭帯断裂による舟状・月状骨解離です。

前後2方向のXP撮影のみでは、見落とされることがあり、手を強く握り締めさせて動的なストレスXPの前後像を見る必要があるとされています。
さらに、MRIの撮影、造影剤を橈骨手根関節に注入して関節造影を行うことで、すべての手根間靱帯の断裂などを確認することができます。

近年、手根不安定症の原因である靱帯断裂の部位や程度を診断する技術は大きく進歩していますが、治療においては、舟状・月状骨靭帯の断裂を修復しても再断裂が起こること、強固な靭帯再建を行うと舟状・月状骨関節の可動性が失われることなどが指摘されています。
現在では、靭帯再建術だけでなく、部分関節固定術や靭帯焼灼固定術なども適用されています。
しかし、これらの手術だけで、正常な手関節運動を復元させるのは極めて困難な状況にあります。

(4)後遺障害のポイント

1)手関節の捻挫と診断されても、多くは、手根間靱帯の部分断裂であり、4週間前後の安静、固定で治癒しており、後遺障害を残しません。

2)しかし、外傷性手根間靱帯の断裂が見落とされたときは、手根不安定症が進行していきます。
この状態で、6カ月以上が経過したものは、専門医を受診しても、お手上げの状態です。
陳旧性、古傷化した手根不安定症では、靭帯の断裂部が瘢痕化しており、正常な靭帯組織と瘢痕組織との識別ができず、靱帯修復術は困難を極めます。
加えて、その後のリハビリを含めると1年以上の期間を要することになります。

①靱帯の断裂は、橈骨手根関節の造影検査とMRI撮影で立証します。
②陳旧性の器質的損傷について、専門医・放射線科医に画像鑑定を依頼します。
③傷病名は手関節捻挫ですから、治療先のカルテを添付して、事故直後から、手関節の痛み、可動域制限、握力の低下、有痛性のクリック音などを訴えていたことを強調します。
④手関節の可動域制限による日常・仕事上の支障は、別紙、陳述書に丁寧にまとめます。
これで、Giroj調査事務所が、本件事故との因果関係を認めてくれたときは、10級10号となります。

手関節の可動域が健側と比較して2分の1以下だから、10級は決まり?
そんな甘いことでは、非該当で門前払いとされます。

3)手がジクジク痛み、握力が低下、手首を動かすと有痛性のクリック音があり、手関節に可動域制限が発生しているときは、受傷から2カ月以内に、専門医を受診しなければなりません。

専門医が手根靱帯の断裂と診断したときは、靱帯再建術、部分関節固定術や靭帯焼灼固定術を受けることになり、術後4カ月を経過した段階で、リハビリ治療を打ち切り、症状固定とします。
これでも、高い確率で手関節の機能障害、12級6号を残します。
しかし、漫然治療を続け、7、8カ月目で症状固定を決断したときは、機能障害は、5°程度上回り非該当、痛みの神経症状が評価されたときは、14級9号となります。

4)手根不安定症を見くびってはなりません。
「時計屋は、ちゃんと修理してお金を取るが、医師は、修理できなくてもお金を取る?」
マーフィの法則ですが、交通事故では、大きな衝撃が働き、不可逆的な損傷をきたすことがあります。
となれば、完治できないのは不可抗力であって、時計屋さんと同一視はできません。
医師の治療に文句をたれる暇があったら、良い医師を積極的に探せばいいだけのことです。