(20)尺骨鉤状突起骨折(しゃくこつこうじょうとっきこっせつ)

尺骨鉤状突起骨折

(1)病態

上腕骨遠位端部を尺骨が受け入れる形状で、肘関節は構築されています。
交通事故では、転倒、手を突いての骨折で、尺骨の鉤状突起骨折を発症することがあります。

尺骨鉤状突起骨折は、主として肘の脱臼に合併、若しくは肘関節を脱臼するほどの外力を受けた際に上腕骨の関節面=上腕骨滑車と尺骨の鉤状突起が衝突して骨折しています。

(2)症状

肘の脱臼を合併することがほとんどで、激烈な痛み、肘の腫れ、肘関節も変形しており、肘の曲げ伸ばしは、まったくできません。

※GradeⅠ 鉤状突起先端部の剥離骨折
※GradeⅡ 25%以上50%以下、骨片に関節包と上腕筋の一部が剥がれたもの、
※GradeⅢ 50%以上、上腕筋と内側側副靱帯が剥がれたもの、

(3)治療

グレードⅠで、小骨片で転位のほとんど認められない骨折では、2~3週の安静固定を行い、軽い運動療法を加えながら着脱可能な固定をさらに2、3週続けます。

鉤状突起には、前方関節包、上腕筋、内側側副靱帯の軟部組織が付着しており、肘関節の安定に寄与しているのですが、GradeⅡ25%以上の骨折から、肘関節は不安定を示すので、Kワイヤーを使用し整復固定する手術が選択されています。

(4)後遺障害のポイント

1)いずれの傷病名であっても、単独損傷で、転位の小さいものは、保存的な治療で改善が得られており、後遺障害を残すことなく治癒しています。

2)転位の少ない鈎状突起骨折では、保存治療が選択されるのですが、最初の2週間は、肘関節90度でギプスシーネ固定がなされます。同時に、受傷後1週の段階で、両側支柱付きの肘関節装具の採型を行い、さらに、装具には伸展制限のストッパーをオプションで追加しておきます。

両側支柱付き肘関節装具
両側支柱付き肘関節装具

2週間が経過、ギプスシーネの除去後は、この装具を3カ月間、装用します。
当初は鈎状突起の転位を防ぐために、最初は屈曲45~60°までの伸展制限をつけ、段階的に伸展制限を軽減し、最終的には受傷後6週で伸展制限を解除します。
このリハビリは、内固定術が行われたときも、同じ手順で実施されています。

肘関節を長期間固定すると、鈎状突起は良好に骨癒合するのですが、肘関節に高度の拘縮、可動域制限を残すことから、肘関節前方および内側の不安定性の治療をしつつ、可動域を維持するには、早期から支柱・伸展制限付き装具装着下で積極的な可動域訓練を行う必要性があるのです。

3)複合損傷であれば、上記の理想的な治療が実施されても、ほぼ確実に後遺障害を残します。
本件の後遺障害は、①肘関節の機能障害、②神経麻痺、③動揺関節、④痛みの神経症状です。
①機能障害では、骨癒合が決め手となるので、必ず、3DCTで360°回転させて検証します。
肘関節の拘縮では、ギプス固定期間を診断書からピックアップし、申述書にまとめます。
②神経麻痺では、神経伝達速度検査、針筋電図検査で立証します。
さらに、神経麻痺では、自分で動かすことができないが、他動値は正常であることを理解しておかなければなりません。③動揺関節は装具を発注し、動揺性は、ストレスXP撮影で立証します。

(5)NPOジコイチの経験則

妻の兄は、東映の京都撮影所で照明技師をしているのですが、2013年の年末、9尺の脚立から落下して、開放性右肘関節後方脱臼骨折、右鉤状突起骨折GradeⅢ、右橈骨頭挫滅骨折となりました。
業務中の事故受傷であり、労災保険・業務災害の適用です。

翌日、入院中の治療先で、院長先生から骨折の状況と明日の手術の内容の説明を受けました。
右肘は、尺骨が関節から外れ、後方に大きく脱臼、右尺骨鉤状突起はGradeⅢの破壊、右肘関節に寄り添う右橈骨々頭部が上腕骨からの衝撃で圧挫滅しています。
右肘関節部は、後方で皮膚が裂けており、妙に白い上腕骨が見えていました。
XP・CTでは確認できませんが、肘関節の内外側側副靱帯は、完全断裂していると思われます。
NPOジコイチの経験則でも、肘関節では、かなりの重傷事案で、後遺障害の遺残は必須です。

翌日の手術は全身麻酔で行われました。
開放性骨折ですが、長袖のシャツ、トレーナーを着用しており、開放創が直接、地面に触れたのではなく、感染症の可能性が低いことが、なによりの幸いでした。
手術では、橈骨頭の挫滅部を少し引き上げて、ピンで固定、前腕の両側を開き、断裂した内外側側副靱帯をアンカーボルトに巻き付けて固定、創部を縫合してギブス固定としました。

肘関節の構造

術後4日目の12/30、肘関節内で橈骨を固定していたピンを抜釘、ギプスは半割のシャーレ-です。
1/4には抜糸、MRSA感染の疑いが晴れれば、おそらく、1/10頃から、鬼のリハビリが始まります。

仕事の都合で、やや遅れて、8/末に症状固定として後遺障害診断を受けました。
労働基準監督署は、右肘の可動域制限で10級10号を認定しました。