(30)尺骨茎状突起骨折(しゃっこつけいじょうとっきこっせつ)

(1)病態

尺骨の尖端にある突起の骨折です。
尺骨は、前腕内側、小指側にある長管骨で、平均的には、男約24cm、女21~22cmです。
尺骨は、橈骨とは逆に、上端部が大きく下端部が細くなっており、上端の滑車切痕で上腕骨滑車と肘関節を形成しています。手関節の小指側で、少し飛び出た部分を尺骨茎状突起といいます。

尺骨茎状突起骨折

交通事故では、自転車で交差点を横断中に自動車の衝突を受け転倒したなどで、発症しています。

尺骨茎状突起が骨折し、偽関節化している
尺骨茎状突起が骨折し、偽関節化しています。

(2)症状

尺骨茎状突起骨折により骨片が剥がれ偽関節となると、尺骨茎状突起部にTFCCが付着することから、遠位橈尺関節に不安定性を生じ、これに伴って、手関節尺側に疼痛を生じます。
TFCC損傷の合併では、疼痛が生じ、手関節の可動域制限と橈尺関節に不安定性が起こります。

(3)検査と治療

XPで尺骨茎状突起骨折・偽関節は診断できますが、TFCC損傷の診断となれば、MRIもしくは関節造影検査が必要となります。
治療は、遠位橈尺関節に不安定性が認められるときは、尺骨茎状突起骨片の固定で対応、TFCC損傷を合併しているときは、関節鏡により縫合が行われています。
骨折・偽関節で痛みが激しいときは、骨片の摘出術が実施されています。

鋼線締結
鋼線締結

橈骨の遠位端骨折に尺骨茎状突起骨折が合併したときは、橈骨骨折部のロッキングプレートによる固定が優先され、尺骨茎状突起骨折は治療されないことが多いのですが、橈骨の骨幹部または骨幹端部骨折により橈骨が短縮し、尺骨頭が遠位背側に脱臼するガレアッチ骨折では、骨間膜損傷が合併するため、尺骨茎状突起骨折およびTFCCは治療の対象となります。
治療は遠位橈尺関節不安定性を生じているときは、尺骨茎状突起骨片の固定術とTFCCの直視下縫合が行われています。

※前腕骨間膜
前腕の橈骨と尺骨の隙間を互いに結合させている線維状の膜のことです。

(4)後遺障害のポイント

1)手関節の可動域制限は、茎状突起骨折やTFCCの器質的損傷をMRIで立証すれば、認められますが、手関節の機能障害では、常識的には、健側の4分の3以下で、12級6号です。
痛みの神経症状は、機能障害に含まれての評価ですから、併合の対象ではありません。

2)尺骨茎状突起骨折と偽関節が認められたものの、症状固定のタイミングが遅れ、手関節の機能障害で12級6号が認定されないときでも、偽関節を立証すれば、尺骨の変形障害として12級8号が認定されます。12級8号は、手関節の機能障害と比較し、いずれか上位の等級を認定することになっており、併合はなされません。