(1)病態
脛骨と膝関節を構成している大腿骨の遠位端部の骨折です。
大腿骨遠位端骨折、大腿骨顆上骨折の傷病名も同義語で、分かりやすくは、膝近くの、太ももが骨折したということです。
交通事故では、車のバンパーやダッシュボードに大腿骨遠位部を打ちつけることで発症しています。
大腿骨顆部骨折は、骨折時に骨折片が膝の後方に押しやられ、膝の後方を走行している膝窩動脈損傷を合併することが多いので、注意を要します。
膝関節に近い部分の骨折であり、膝の可動域制限や歩行に支障をきたすなど、後遺障害を残すことが多く、治療の困難な骨折です。
(2)症状
症状は、膝周辺の激痛と腫れ、膝関節の異常可動が認められ、歩行はできません。
(3)治療
単純XP撮影で大腿骨顆部の骨折が認められます。
CPM
従来、転位のないものは、徒手整復後、大腿から足先までのギプス固定でしたが、膝関節の拘縮をきたすことが多く、最近は上のイラストに見られる内固定術が採用されています。
術後、早期からCPMを用いて膝部の屈伸運動訓練が開始されます。
大腿骨顆部骨折は、膝窩動脈損傷を伴うことが多く、損傷より末梢に血液が供給できなくなり、壊死に発展、膝上切断となります。
交通事故では、大腿骨だけの骨折にとどまることなく、同一下肢の大腿骨と脛骨を同時に骨折する、膝関節内骨折、プラトー骨折となることが多いのです。
※左から①・②・③・④(詳細は下記解説参照)
4例の図を示しましたが①は関節面の骨折を伴っておらず、早期に内固定を実施すれば、良好な回復が期待できます。②③④は関節面の骨折を伴っているケースです。
中でも④は、腓骨神経の断裂、膝窩動脈損傷を合併することが多く、治療が極めて困難で、切断も視野に入れた検討がなされています。
(4)後遺障害のポイント
1)骨折により、重症度が違います。
GradeⅠ 骨折が関節面に達していないもの、
GradeⅡ 骨折が関節面に達しているが、関節面の1部は骨端と連続しているもの、
GradeⅢ 関節内骨折が、骨端部から分離しているもの、
※GradeⅢは、骨端部と関節面の単純骨折と骨端部と関節面の粉砕骨折の2つに分類されています。
2)現在では、大腿骨顆部骨折を保存的に治療することは、極めて異例なことであり、全件で、手術が選択され、プレート、スクリューなどによる内固定がなされています。
もし、保存的治療が選択されたときは、長期の入院、膝関節の拘縮、そして遠位部骨片の伸展変形や関節面の不整の後遺障害が予想され、とりわけ高齢者では、長期の臥床により、寝たきりとなる危険性があるので、直ちに、治療先から転院しなければなりません。
関節面の骨折を伴わない顆上骨折、GradeⅠであれば、プレートやスクリュー固定とCPMの使用で改善が得られ、後遺障害を残すことなく完治しています。
関節に近い部位に、プレート固定がなされると、関節包、靱帯など、関節周囲の組織が影響を受けて、関節が硬くなる、拘縮の発症が予想されるのですが、これを防止するのがCPMの役目です。
2)問題は、GradeⅢで開放性粉砕骨折をしているもの、後十字靱帯の剥離骨折、半月板損傷を合併している重篤例です。専門医による手術であれば、症状固定までに1年間近くを要します。
経験則では、不可逆的な損傷では、10級11号もありますが、大半は12級7号どまりで、かなりな改善が得られています。
3)専門医でないときは、重度の後遺障害を残す可能性があります。
①MRIで軟骨損傷、半月板損傷や前・後十字靱帯損傷を立証すること、
②膝関節の不整を3DCTで、明らかにすること、
③動揺関節を、膝関節のストレスXP撮影で左右差を証明すること、
後遺障害の立証では、上記の3つを欠かすことはできません。
これらの立証がなく、被害者の自覚症状を中心とした後遺障害診断書の作成されたときは、非該当、良くて14級9号も少なからず経験しています。
とは言え、被害者も、後遺障害に記載されている内容を理解しないまま、相手損保に渡しています。
その結果、杖なしでは、歩行もままならないのに、14級9号が認定された?
この仕打ちに、愕然とし、無料相談会に来られる被害者が、後を絶たないのです。
4)ここから立証作業に着手しても、2カ月はかかります。
立証を完了し、異議申立を行っても、認定結果が通知されるのは、平均6カ月以上を要します。
その後の損害賠償を考慮すれば、らくに1年以上です。
ですから、受傷から2カ月以内に、相談会に参加してくださいと申し上げているのです。
被害者が入院中であれば、家族が参加すれば、いいのです。