(13)大腿骨々幹部骨折(だいたいこつこつかんぶこっせつ)

大腿骨々幹部骨折

(1)病態

大腿骨の中央部で関節を有していない部位を大腿骨々幹部といいます。
交通事故では、この部位の骨折が多発しています。
バイクを運転中、大腿部に車の衝突を受けたときは、意外と簡単にポッキリと骨折します。
衝突の衝撃で空中に投げ出され、膝を地面に打ちつけて転倒したときは、捻れるように骨折します。
衝突の衝撃が相当に大きいときは、粉々に骨折します。
しかしながら、大腿骨々幹部は、比較的血行が保たれており、骨折後の骨癒合は良好です。

(2)症状

症状は、骨折した部位の腫れ、疼痛と変形により患肢が短縮し、歩行はまったくできません。

(3)治療

単純XP撮影で骨折の確認ができます。
大腿骨々幹部骨折を最初に説明した2000年頃は、直達牽引+ギプス固定の保存療法が主体でした。

直達牽引

現在、ほとんどの整形外科医は、直達牽引後のギプス固定は、入院期間が長くなること、長期の固定による精神的・肉体的ストレス、筋萎縮、関節拘縮などの合併症を無視できないことから、入院期間を短縮し、合併症を最小限にする固定術を積極的に採用しています。
小児の骨折であっても、同様にオペが選択されており、歓迎できる傾向です。

プレート固定

(4)後遺障害のポイント

1)転位の少ない横骨折、斜骨折では、常識的には、後遺障害を残しません。

2)問題となるのは、開放性粉砕骨折を代表とする高エネルギー外傷です。
開放性粉砕骨折では、神経や血管障害、脂肪塞栓の合併損傷を伴うことが多く、受傷直後や急性期には、全身状態の管理が絶対に必要となります。

経験則では、肺脂肪梗塞で3級3号の高次脳機能障害の認定が1例あります。
大腿骨々幹部骨折後の肺脂肪塞栓では、被害者の死亡例も2例、経験しています。

開放性粉砕骨折では、骨片が多数、骨欠損があるもの、整復した骨片の位置が正常な位置関係にないものがほとんどであり、偽関節、骨変形、不整癒合、MRSAの院内感染などが後遺障害の対象として予想されます。

3)骨癒合は、比較的良好な骨折ですが、稀に、偽関節を起こすこともあります。

等級 下肢の偽関節 自賠責 喪失率
7 10:①大腿骨に異常可動性を有する偽関節を残し、硬性補装具を常に必要とするもの 1051 56
10:②脛骨に異常可動性を有する偽関節を残し、硬性補装具を常に必要とするもの
8 9:①脛骨と腓骨に偽関節を残し、立位や歩行に、ときどき、硬性補装具を必要とするもの 819 45
9:②脛骨に偽関節を残し、立位や歩行に、ときどき、硬性補装具を必要とするもの
12 8:腓骨に偽関節を残すもの 224 14

4)真っ直ぐではなく、大腿骨が変形して癒合することがあるのですが、この変形が、15°以上の不正彎曲であれば、12級8号が認められます。

大腿骨・腓骨・脛骨

5)骨折部が外反や内反で、つまり外向きや内向きで不正癒合したときは、骨は屈曲変形しておらず、

足の向きが曲がっているのですが、その角度が外旋で45°以上、内旋で30°以上であれば、12級8号が認められます。

6)現在では、非常に稀ですが、旧来の保存療法、長期間のギプス固定で、大腿の筋肉が萎縮し、膝関節が拘縮することがあります。医原性の後遺障害ですが、左右差で4分の3以下であれば、12級7号が、2分の1以下であれば、10級11号が認定されます。
治療先の見極めも、大切です。