(14)肋骨多発骨折の重症例 外傷性血胸

(1)病態

胸腔内の内圧は外気圧より低くなっており、外傷により、外から空気が入り込む、あるいは血液が貯留すると肺は虚脱、縮小し、強い呼吸障害を起こします。
空気が入り込むのが気胸、血液が貯留すると血胸、2つが合併していれば血気胸と呼ばれます。

交通事故では、骨折した肋骨が胸膜を突き破り、血気胸を発症することが一般的です。

(2)症状

胸部痛、呼吸困難、チアノーゼ、顔面蒼白、頻脈、四肢冷汗などの症状で大騒ぎになりますが、

(3)治療

胸腔穿刺で空気を排除、腹腔ドレナージで血液を排出、胸壁創を縫合閉鎖すれば治療は完了します。

(4)後遺障害のポイント

1)多発肋骨骨折による肋骨の変形が、裸体で確認できるかが、ポイントです。
確認できたときは、体幹骨・肋骨の変形で12級5号が認定されます。

2)変形が確認できないときでも、骨折部に痛みを残していれば、骨折部の変形を3DCTで立証することにより、痛みの神経症状で、14級9号、12級13号を目指します。

3)血気胸の治療後に肺が萎縮し、呼吸障害を残したときは、後遺障害の対象となります。
立証方法は、以下の通りですが、外傷性血胸で呼吸障害を残すことは、ほとんどありません。

①動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果

動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による障害等級
動脈血酸素分圧 動脈血炭酸ガス分圧
限界値範囲内(37Torr~43Torr) 限界値範囲外(左記以外のもの)
50Torr以下 1、2または3級
50Torr~60Torr 5級 1、2または3級
60Torr~70Torr 9級 7級
70Torr以上 11級

動脈血に含まれる酸素の圧力を動脈血酸素分圧、動脈血に含まれる炭酸ガスの圧力を動脈血炭酸ガス分圧と言い、呼吸機能の低下により、上記のレベルを示し、常時介護の必要なものは1級、随時介護が必要なものは2級、それ以外のものは3級が認定されます。

②スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度

スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度による後遺障害等級
スパイロメトリーの結果 呼吸困難の程度
高度 中等度 軽度
%1秒量≦35又は%肺活量≦40 1、2または3級 7級 11級
35<%1秒量≦55又は40<%肺活量≦60
55<%1秒量≦70又は60<%肺活量≦80

※スパイロメトリー検査
スパイロメーターを用いて呼吸気量を計測する検査のこで、呼吸の呼気量と吸気量を測定し、呼吸の能力を判定しています。
%肺活量
実測肺活量÷予測肺活量×100=%肺活量
上記の計算式で算出されるもので、肺の弾力性の減弱などにより、換気量の減少を示す指標であり、
正常値は80%以上です。
※1秒率
肺活量を測定するときに、最初の1秒間に全体の何%を呼出するかの値です。
肺の弾力性や気道の閉塞の程度を示し、弾力性がよく、閉塞がないと値は大きくなります。

スパイロメトリー検査 おおよその目安
%肺活量 1秒率 レベル・障害の状態
80以上 70以上 正常
79以下 70以上 拘束性 肺の弾力性低下、胸部拡張障害、呼吸運動の障害
80以上 69以下 閉塞性 気道閉塞、肺気腫
79以下 69以下 上記の2つが混合したもの

③運動負荷試験の結果
運動負荷試験には、トレッドミル、エアロバイクによる漸増運動負荷試験、6分・10分間歩行試験、
シャトルウォーキングテストなどの時間内歩行試験、50m歩行試験などがあります。

自賠責保険は、運動負荷試験の結果について、以下の5つの事項について主治医に文書照会を実施した上で、呼吸器科を専門とする顧問医から意見を求めて、呼吸障害の等級について、高度⇒中程度⇒軽度の3つに分類し、等級を認定しています。

トレッドミル
トレッドミル
エアロバイク

エアロバイク

※呼吸障害
高度⇒呼吸困難のため、連続しておおむね100m以上歩けないもの
中程度⇒呼吸困難のため、平地でさえ健常者と同様には歩けないが、自分のペースでなら、1km程度の歩行が可能であるもの
軽度⇒呼吸困難のため、健常者と同様には階段の昇降ができないもの

文書照会の内容?
①実施した運動負荷試験の内容
②運動負荷試験の結果
③呼吸機能障害があると考える根拠
④運動負荷試験が適正に行われたことを示す根拠
⑤その他参考となる事項

①と②の結果を比較して②の数値が高いときは、②の結果で障害等級を認定しています。
①②の数値では後遺障害の基準に該当しないときでも、③の基準を満たせば、認定されています。