(15)動眼神経麻痺(どうがんしんけいまひ)

複視・眼球の運動障害・眼瞼下垂・瞳孔散大

(1)病態

動眼神経麻痺は、眼本体の外傷ではなく、頭部外傷、脳幹部損傷や脳圧の亢進により、第3脳神経が圧迫を受け、これが引き伸ばされたときに発症するものです。

動眼神経麻痺

(2)症状

動眼神経が麻痺すると、真っ直ぐ正面を見ているときでも、麻痺が生じた眼は外側を向いており、モノが二重に重なって見える=複視を発症します。

麻痺側の眼は、内側を見ようとしても、眼球が中央までしか動かず、上下方向には全く、動きません。
さらに、まぶたが下垂し、自力で持ち上げることができません。
動眼神経は、瞳孔のコントロールもしているのですが、麻痺により、瞳孔は散大し、光に対する反応で収縮しなくなります。

動眼神経麻痺の症状

目を動かす神経は、滑車、外転、動眼神経の3つで、滑車神経と外転神経は、単に、眼球を動かすだけの運動神経ですが、動眼神経は、眼球を動かす運動神経であって、自律神経を構成する副交感神経という側面をもっています。

動眼神経麻痺の症状

①眼球運動障害
眼球を動かす筋肉、外眼筋は、合計6種類があるのですが、それらの6種類の筋肉は、滑車、外転、動眼の3つの神経に支配されています。
動眼神経は、内直筋、上直筋、下直筋、下斜筋、4つの外眼筋を支配、滑車神経は上斜筋、外転神経は外直筋、1つの外眼筋を支配しているのです。
これらの神経に異常や麻痺があれば、支配筋肉を動かすことができなくなります。
動眼神経麻痺では、障害された眼は、正中視で外側=耳側に偏位します。
また、動眼神経は、外眼筋の支配以外に、眼瞼、まぶたを挙上するための上眼瞼挙筋を支配しており、動眼神経が障害されると眼瞼下垂が生じます。

②自律神経の障害
すでに説明した通り、動眼神経には自律神経としての働きもあり、その作用は縮瞳作用になります。
したがって、動眼神経が障害されると瞳孔が散大します。
動眼神経障害では、障害のある眼球が、正中視で外側に偏位し、眼瞼下垂、瞳孔散大が出現するのです。

(3)治療

本件は、頭部外傷を原因とする外傷性の動眼神経麻痺ですから、頭部外傷の治療が優先されます。
この間は、ビタミンB12などの内服で、回復を待つことになります。
6カ月を経過して、動眼神経が完全に麻痺しているときは、複視の改善を目的に、眼位をずらす手術が行われています。この手術は、外眼筋が眼球に付着している部分の位置をずらすことで、眼の動きを改善します。しかし、この手術を受けても、眼の動きを完全に元に戻すことは、できません。
複視の治療の目標は、普段よく使う正面視と、やや下方視で、複視をなくすことにあります。
そのため、上方や左右の周辺視では、複視を残すことが多いのです。
周辺部の複視に対しては、眼だけでなく、顔を向けてモノを見ることで対応していくことになります。

なお、複視の手術は、6カ月の経過後に着手することとされています。
NPOジコイチでは、症状固定で10級2号を確定させ、その後、手術を受けるように指導しています。

手術が成功すれば、複視は、13級2号のレベルに改善します。
10級2号は確定していますから、改善が得られても、賠償金が減額されることはありません。

(3)後遺障害のポイント

1)眼球の運動障害

眼球の運動は、上下・内外・上下斜めの3対の外眼筋の一定の緊張で維持されています。
動眼神経麻痺により、外眼筋の一部が麻痺すると、緊張状態が壊れ、反対の方向に偏位します。
ゴールドマン視野計で注視野を測定し、注視野の広さが2分の1以下に制限されていれば、著しい運動障害として、単眼で12級1号、両眼で11級1号が認定されています。

ゴールドマン視野
ゴールドマン視野計

※注視野
頭部を固定した状態で、眼球の運動のみで見える範囲のことで、単眼視では各方向50°両眼視では45°となります。

単眼、両眼の注視野の範囲は、以下の通りです。

①単眼 上50 上外50 外50 外下50 下50 下内50 内50 内上50 計400
②両眼 上45 上外45 外45 外下45 下45 下内45 内45 内上45 計360

※眼球の運動障害

等級 内容 自賠責 喪失率
11 1:両眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの 331 20
ヘスコオルジメーターで、注視野の広さが2分の1以下となったもの
12 1:1眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの 224 14

2)複視

眼球運動障害として後遺障害等級に該当しないものであっても、複視が認められるときは、その程度に応じて等級が認定されています。
複視には正面視での複視、左右上下の複視の2種類があります。

ヘスコオルジメーター

検査には、ヘスコオルジメーターを使用し、複像表のパターンで判断します。

正面視の複視は、両眼で見ると高度の頭痛や眩暈が生じるので、日常生活や業務に著しい支障を来すものとして10級2号、左右上下の複視は、正面視の複視ほどの大きな支障はないものの、軽度の頭痛や眼精疲労を生じるので13級2号が認定されています。

※複視

等級 複視の内容 自賠責 喪失率
10 2:正面視で複視の症状を残すもの 461 27
13 2:正面視以外で複視の症状を残すもの 139 9

10級2号に該当する複視は、症状固定とし、等級が確定した後に受けることになります。
このことを忘れてはなりません。

3)まぶたの運動障害

まぶたの運動障害は、顔面や側頭部の強打で、視神経や外眼筋が損傷されたときに発症します。
ホルネル症候群、動眼神経麻痺、眼瞼外傷、外転神経麻痺が代表的な傷病名です。

まぶたには、以下の3つの運動があります。
①まぶたを閉じる=眼瞼閉鎖、
②まぶたを開ける=眼瞼挙上、
③またたき=瞬目運動
後遺障害の、まぶたに著しい運動障害を残すものとは、まぶたを閉じたときに、角膜を完全に覆えないもので、兎眼、まぶたを開いたときに、瞳孔を覆うもので、これは、眼瞼下垂と呼ばれています。

いずれも、単眼で12級2号、両眼で11級2号が認定されています。
実務上は、顔面の醜状障害として上位等級の9級16号を目指すことが大半です。

※まぶたの運動障害

等級 内容 自賠責 喪失率
11 2:両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 331 20
まぶたを閉じたときに、角膜を完全に覆えないもの=兎眼
まぶたを開いたときに、瞳孔を覆うもの=眼瞼下垂
12 2:単眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 224 14

4)瞳孔

瞳孔は通常は光に反応して収縮します。
自律神経が支配していますが、目に入る光量が低下すると最大6㎜の大きさに散大します。
外傷によって瞳孔が開いたままとなり、光に対する反応が消失、または減弱したものを外傷性散瞳と呼んでおり、これらは、眼科医のハロゲン・ペンライトによる対光反射検査で立証します。

瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴え労働に支障を来すものは、単眼で12級、両眼で11級相当が認定されます。
瞳孔の対光反射は認められるが不十分であり、羞名を訴え労働に支障を来すものは、単眼で14級、両眼で12級相当が認定されています。

※瞳孔散大

等級 障害の内容 自賠責 喪失率
11 両眼の瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴えるもの 331 20
12 単眼の瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴えるもの 224 14
12 両眼の瞳孔の対光反射が障害され、羞明を訴えるもの 224 14
14 単眼の瞳孔の対光反射が障害され、羞明を訴えるもの 75 5