(1)病態
膝は太ももとすねの骨をつなぐ関節で、膝には内側側副靭帯、外側側副靭帯、前十字靭帯、後十字靭帯の4つの靭帯が存在します。
内・外側側副靭帯は上下の骨が、横方向、左右にズレすのを、前・後十字靭帯は前後にズレるのを防止しています。
前十字靭帯は、大腿骨の外側と脛骨の内側を結び、脛骨が前にズレないように引きつけています。
その目的から、前十字靭帯は、膝関節の安定性を保つ上では1番重要な靭帯となります。
膝を伸ばしているとき、この靭帯は、張っている状態です。
交通事故では、膝を伸ばして踏ん張っているときに、膝を捻ると前十字靭帯損傷が起きています。
(2)症状
バイクを運転中の事故に多く発生、ほとんどは、断裂で、なにかが切れたような、ブチッという音を感じたと、多くの被害者から聞いています。
関節内は大量に出血し、パンパンに腫れ上がります。
(3)診断と治療
前十字靭帯損傷は、lachmanテストで診断を行います。
靭帯が断裂していれば、当然、膝がぐらつくのですが、そのぐらつきの有無や、特性を、このテストで確認します。膝を15~20°屈曲させ、前方に引き出します。
前十字靭帯断裂のときは、脛骨が異常に前方に引き出されます。
lachmanテストで大まかな診断がつきますが、損傷の程度を知るために単純XP撮影、CTスキャン、関節造影、MRIなどが実施され、MRIがとても有効です。
動揺関節の立証には、ストレスXP撮影が必要です。
𦙾骨を前方に引き出し、ストレスをかけてXP撮影を行います。
断裂があるときは、脛骨が前方に引き出されて写ります。
後遺障害診断書には、○mmの前方引き出しを認めると記載をお願いしなければなりません。
受傷直後は、膝を固定し患部を氷水でアイシングします。
アイシングは膝全体に3~4日間続けます。
一度断裂した前十字靭帯は自然につながることはありません。
軽症例に対しては、大腿四頭筋やハムストリング筋などを強化する、保存的治療が行われます。
前方引き出しテストで、すねが太腿より前に異常に引き出される状態では、膝崩れを頻発し、やがて半月板損傷を引き起こします。したがって、靭帯の再建術が行われています。
靭帯の再腱術は、受傷後1カ月程度の安静と可動域訓練の後に半腱様筋腱、薄筋腱、膝蓋腱の中央3分の1を採取して前十字靭帯を繋ぎ再建します。
再腱後は8~12カ月のリハビリが必要となります。
その他では、痛みや腫れが引いた受傷4~6週間後に、関節鏡下において被害者本人の靭帯で靭帯再建術が行われています。
ストレスXP撮影で10㎜以上の動揺性が認められるときは、手術の対象となりますが、極めて高度な技術を必要とします。靱帯再建術となったときは、膝関節外来が設置されており、膝の専門医のいる医大系の総合病院を選択することになります。
(4)後遺障害のポイント
1)経験則では、医師にオペの自信がなく、保存療法に終始した被害者の例が大半です。
つまり、膝関節に動揺性が認められ、日常や仕事上に大きな支障が認められる状況です。
通常歩行に、常時、装具の必要性のある場合は、1関節の用廃で8級7号が認定されます。
等級 | 下肢の動揺関節 | 自賠責 | 喪失率 |
8 | 7:1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 819 | 45 |
動揺関節で労働に支障があり、常時固定装具の装着を絶対に必要とする程度のもの | |||
10 | 11:1下肢の3大関節中の1関節の機能に、著しい障害を残すもの | 461 | 27 |
11:労働に多少の支障はあっても、固定装具の装着を常時必要としない程度のもの | |||
12 | 7:1下肢の3大関節中の1関節に機能の障害を残すもの | 224 | 14 |
11:通常の労働には固定装具の装着の必要性がなく、重激な労働などに際してのみ必要のある程度のもので、習慣性脱臼や弾撥膝がこれに該当します。 |
2)受傷から時間が経過し、陳旧性損傷となっているときは、手術で改善できる保証がありません。
半腱様筋腱、薄筋腱、膝蓋腱の中央3分の1を採取して編み込んで移植する再建術では、さらに、8カ月以上の休業が必要となり、仕事のことを考えると、現実的な選択肢となりません。
もちろん、損保が古傷化した再建術の治療費を負担することも考えられません。
本件では、症状固定として後遺障害の申請を行います。
再建術は、仕事の都合と勤務先の了解を得て、示談解決後に選択することになります。
NPOジコイチが、先に、後遺障害を確定させると主張すると、不正な企みの香りが漂いますが、決してそうではなく、これしか選択肢がないのです。正しい理解をお願いします。
3)常時、固定装具を装着する必要性のないものは、10級11号が、重激な労働に限って、固定装具の必要性のあるものは、12級7号が認定されます。
4)後遺障害の立証には、必ず、ストレスXP撮影が必要となります。
ストレス撮影で、5~8mmの動揺性が認められれば、12級7号、8~10mmで10級11号、12mm以上で8級7号、経験則による目安です。
ストレス撮影で動揺が立証されない限り、12級以上の認定はなされないと、承知しておくことです。