(3)内腸骨動脈損傷(ないちょうこつどうみゃくそんしょう)

内腸骨動脈損傷

(1)病態

印の腹大動脈は、左右2本の総腸骨動脈に分岐し、総腸骨動脈は、内腸骨動脈と外腸骨動脈に分かれています。内腸骨動脈は、骨盤の後方部分に分布しており、骨盤骨折による血管損傷では、大量出血につながります。さらに、豊富な側副血行路がはり巡らされており、破綻した血管からの出血は容易にとめることができません。
骨盤骨折の死因の50%は、出血であると報告されており、骨盤腔内の出血で出血性ショックを引き起こし死亡する例も、珍しくありません。

(2)症状

骨盤骨折により、骨盤内の血管や臓器が損傷されると、出血斑や血尿、血便などのほか、低血圧や意識障害などの症状が出現します。

(3)治療

輸液・輸血にもかかわらず、血圧が上昇しないときは、ただちに内腸骨動脈造影を実施し、スポンゼルコイルを使用し両側内腸骨動脈の根元から血管塞栓術が行われています。

※出血性ショック

出血量 ~15% 15~30% 30~40% 40%以上
脈拍数(回/分) 100以下 100以上 120以上 140以上
血圧(収縮期) 正常 正常 低下 低下
呼吸数(回/分) 14~20 20~30 30~40 35以上
精神神経症状 軽い不安感 中程度の不安感 強い不安感・混乱 混乱・昏睡

出血性ショックとは、大量の出血により、主要な臓器に必要な血流が維持できず、細胞機能が保てなくなるときの症候群で、一般的には血圧が低下しますが、実は血圧が低下する以前に、上記の精神神経症状が出現しています。血圧が下がり始める前に、出血性ショックの有無を判断、迅速な処置、病院への搬送を行わなければなりません。
つまり、血圧の測定以外に、出血性ショックの症状が出現する顔色、呼吸、脈拍、皮膚を観察します。初期症状としては頻脈=脈拍数の増加と、皮膚症状=皮膚が冷たく、青白く、冷や汗が出るのが代表的です。このような症状があれば、血圧が低下していないときでも、も出血性ショックの可能性があるので、急いで病院へ搬送しなければなりません。

骨盤骨折の検査と診断では、触診により骨盤の損傷が疑われる部位に圧痛や動揺性がないかを検査します。これらの所見が見られるときは、骨盤骨折が強く疑われ、骨盤部XP撮影で多くの骨折は診断できます。また、仙骨骨折、仙腸関節の離開はCTにより鮮明な骨折画像が得られ、内腸骨動脈損傷による後腹膜出血の程度の診断も可能です。

仙腸関節のCT

血尿では、尿道造影と膀胱造影を、肛門出血では、注腸造影で確定診断とします。

治療は、以下の優先順位で勧められます。
①内腸骨動脈損傷による出血性ショックのあるときは、ただちに血管撮影室において塞栓術で止血します。コイル等で出血している動脈を詰めるのが、一般的な塞栓術です。
②膀胱・大腸損傷などの合併症に対しては、緊急手術適用となります。
③不安定な骨盤骨折に対しては局所麻酔下で創外固定が実施されています。

いずれも、XPで診断されていますが、骨盤の形状は非常に複雑なところから、CTにより骨折の位置を詳しく調べることが、治療方針の決定に有用です。
さらに、血管損傷や膀胱損傷などの合併損傷を診断するには、造影CTが行われています。

(4)骨盤骨折における後遺障害のポイント

後遺障害は、男性に限って、血管塞栓術の合併症として、勃起障害が指摘されています。
勃起障害の立証は、2骨盤骨折 不安定型で解説しています。