(23)低髄液圧症候群=脳脊髄液減少症= CSFH 脳脊髄液漏出症

低髄液圧症候群

CSFH は、 Cerebro Spinal Fluid Hypovolemia の略語です。

1)CSFH の診断基準

日本神経外傷学会に参加する脳神経外科医が中心となって、頭部外傷に伴う低髄液圧症候群の診断基準をまとめています。
この作業部会委員には、以下の医師が参加されています。

有賀徹 委員長=日本救急医学会理事 昭和大学病院副院長
阿部俊昭=慈恵医科大学病院 脳神経外科教授
小川武希=慈恵医科大学病院 救急部診療部長
小沼武英=仙台市立病院副院長、脳神経外科部長
片山容一=日本大学付属板橋病院 脳神経外科部長
榊寿右=奈良県立医科大学教授
島克司=防衛医科大学教授
平川公義=東京医科歯科大学教授

1)診断基準のうち、前提となる基準は、
①起立性頭痛
国際頭痛分類の特発性低髄液性頭痛を手本として、起立性頭痛とは、頭部全体に及ぶ鈍い頭痛で、坐位または立位をとると 15 分以内に増悪する頭痛と説明されています。

②体位による症状の変化
国際頭痛分類の頭痛以外の症状としては、項部硬直、耳鳴り、聴力の低下、光過敏、悪心、これらの5つの症状です。

次に大基準として、
①MRIアンギオで、びまん性の硬膜肥厚が増強すること
この診断基準は、荏原病院放射線科の井田正博医師が、「低髄液圧の MRI 診断の標準化小委員会」 ここで提示されている基準に従います。

②腰椎穿刺で低髄液圧が 60mmH2O 以下であることが証明されること
③髄液漏出を示す画像所見が得られていること

低髄液圧症候群

この画像所見とは、脊髄MRI、CT脊髄造影、RI脳槽造影のいずれかにより、髄液漏出部位が特定されたものをいいます。
前提となる基準 1 項目+大基準 1 項目で、低髄液圧症候群= CSFH と診断されます。

CSFH は、大きなくしゃみや尻餅をついても発症すると言われており、これが外傷性であると診断するための基準としては、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的とされています。

上記をまとめると、
①起立性頭痛または、体位によって症状の変化があり、
②MRIアンギオで、びまん性硬膜肥厚が増強するか、腰椎穿刺で低髄液圧60mmH2O以下であることもしくは髄液漏出を示す画像所見が得られていること、
③そして、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的なもの、
上記の3条件を満たしたものに限り、外傷性CSFHと診断されることになりました。

2)裁判所の判決動向

H18-9-25、横浜地裁~H19-11-27、東京地裁、この間に 9 件の訴訟が提起されていますが、いずれも、CSFH は否定されています。先の診断基準が公表されたのは、H19-2-20ですが、それ以降の4件は、この診断基準をベースにして認定が退けられています。
特筆すべきは、
RI 脳槽造影による漏出は、脊椎腔穿刺の際にできた針穴から漏出している可能性が高い?
RI 脳槽シンチの所見は個人差が大きく、診断基準とするに批判的な見解が多い?
つまり、RI 脳槽造影に批判的な判決が目立っています。

私のこれまでの経験則でも、脳槽シンチ後に症状が悪化した被害者が30名以上おられます。
そして、100 例を超える経験則で、上記の診断基準を満たすものは、1例もありません。

脳脊髄液減少症=CSFH、東京高裁判決H20-7-31
先に横浜地裁が、H20-1-10にCSFHを認める判決を下していますが、H20-7-31、東京高裁は、控訴棄却を決定、1 審判決を支持しています。

H16-2-22、布団販売業の42 歳男子が乗用車を運転、交差点を直進中、対向右折車の衝突を受けたもので、事故受傷から14カ月後にCSFHの確定診断がなされています。
①本件事故により、頭部挫傷の診断を受けていること、
②初診の治療先でも頭痛を訴え、カルテには、眼の奥が痛いとの記載があること、
③経過の治療先のカルテにも、右眼の裏が痛いとの記載があること、
④頭痛に程度の差は認められるが、右眼の奥ないし裏が痛むという点で一貫性を有している、
⑤頭痛についても、身体を横にして休んでいると和らぐというもので、起立性頭痛の症状と符合、
⑥何より、EBPの治療で完治していること、

上記の理由により、 CSFH が本件事故による衝撃ないし外傷に起因するものであると推認することができると判断、本件事故との因果関係を認めました。
さて、この判決、CSFH と交通事故受傷の因果関係を認めた画期的なものなのか?
私は、相手損保の主張があまりに短絡で、結果として、転けたに過ぎないと評価しています。

頭部外傷に伴う CSFH の診断基準では、
①起立性頭痛または体位によって症状の変化があり、
②造影 MRI でびまん性硬膜肥厚が増強するか、腰椎穿刺で低髄液圧60mmH2O 以下であること、もしくは髄液漏出を示す画像所見が得られていること、
③そして、外傷後30日以内に発症しており、外傷以外の原因が否定的なもの、
上記3つの条件を満たしたものに限り、外傷性CSFH と診断されており、本件も、この 3 条件を満たしています。
本件は、当初、相手損保側から債務不存在確認請求訴訟が提起されています。
被害者側の反訴により、損害賠償反訴請求事件となったものです。
さらに、相手損保の下手打ちですが、当初、CSFHと本件事故の因果関係を認めているのです。
後に、錯誤によるものとして撤回していますが、横浜地裁は、時機に遅れた主張で、禁反言の原則からも許されないと、厳しく指摘しています。
ともあれ、CSFHは先の3つの診断基準を満たせば、事故との因果関係が認められる傾向です。
しかし、現実の相談では、3つの条件を満たすケースは、極めて少数例です。

脳脊髄液減少症および胸郭出口症候群の発症を認めた高裁裁判例
名古屋高裁 H29-6-1判決 自保ジャーナルNo1995号
第1審は、脳脊髄液減少症等を否認、約130万円程度の補償を認定したに過ぎませんが、高裁は、約2300万円の損害賠償額を認定しています。

名古屋高裁は、脳脊髄液減少症の発症につき、以下のとおり判示しています。
①画像所見は、臨床の現場で実際に診療活動を行っている専門医らにより、RIシンチグラフィーおよび頭部MRIによって脳脊髄液減少症の発症を十分に認め得るとされる画像が存在し、それが誤りであるとはいえない上、
②H医師は、H18-4-20に施行されたMRミエログラフィーにおいても、腰椎レベルでの髄液漏出の可能性を判断しており、同年8-23にD病院におけるRI検査においても3時間後に軽度のRI膀胱集積が認められていることを考慮すると、本件において、脳脊髄液減少症を示す画像所見の存在一切を否定し去ることは困難というべきであるとし、
③画像所見を個別的にみると、厚生労働省研究班画像診断基準を満たすものではないが、同基準は本件事故後に作成されたものであり、かつ、今後の変更の余地がないとはいえないところであるから、現時点において、これら個々の画像が同基準に必ずしも合致しないからといって、その画像を臨床的な価値を全て否定する方向で同基準を用いることは相当ではないとして、
④被害者には、事故当初からの起立性頭痛が認められ、脳脊髄液の漏出を裏付ける画像所見が認められ、ブラッドパッチ治療により症状の改善が認められると言えるから、前記した諸基準を総合判断すると、3病院における臨床診断は十分に信頼性があり、これらに基づき、被害者は、本件事故により脳脊髄液減少症を発症したものと認められるとして、脳脊髄液減少症を認定しました。

これまで、脳脊髄液減少症は、消極的な判断が続いていましたが、今回は、名古屋高裁により、第1審の判断を覆して脳脊髄液減少症の発症を認めたものです。
しかも、後遺障害については、当初は9級、途中で12級を認めたもので、脳脊髄液減少症に苦しんでいる被害者の方にとっては朗報ともいえる判決です。
高裁レベルで積極的に脳脊髄液減少症を認めた判決が出たという重みは否定することはできません。これからも、散発的には、肯定する裁判例がでるのではないかと予想されます。

脳脊髄液漏出症 大阪地裁H29-7-27判決 自保ジャーナルNo2007号
脳脊髄液漏出症による後遺障害として12級13号を主張する女性に対して、厚労省画像診断基準の起立性頭痛および画像所見などが認められず、否認し、14級9号が認定されています。

具体的には、脳脊髄液漏出症に該当するか否かは、厚労省における画像診断基準を参考に検討するとし、脳脊髄液漏出症の特徴的な症状の起立性頭痛については、原告は、D病院において脳脊髄液漏出症を疑われてE病院を紹介され、H23-11-16にE病院を受診したことからすれば、E病院では、同日に脳脊髄液漏出症を念頭においた診察がなされていてしかるべきなのに、同日は起立性頭痛が認められていないことから、原告は、同日には脳脊髄液漏出症を発症していなかったことが推認されるとし、画像診断につき、脳槽シンチグラフィー検査によれば、髄液圧が60水柱ミリメートル、2.5時間以内の早期膀胱内RI集積あり、24時間後のRI残存率が8.3%と認められているが、硬膜外RI集積の有無は明らかでなく、CTミエログラフィーの結果とこの検査結果を総合しても、脳関髄液漏出症を確定診断できる所見とは言えないと判断、24時間後のRI残存率8.6%という点は、脳脊髄液循環不全の所見とも言えそうであるが、脳脊髄液循環不全はそれのみでは脳脊髄液漏出症の確定所見や確実所見たりえず、RI異常集積とあいまって確実所見や強疑所見になるに過ぎないなどから、原告について、脳脊髄液漏出症の確定または確実との診断をすることは困難であると判断しています。

また、症状固定日の時期についても争われ、H23-2-18の事故につき、原告は、H26-2-9までの約3年、被告は、H23-7-31までの約5カ月と主張したのですが、裁判所は、H24-2-末の約1年間を認定しています。

3)後遺障害のポイント

①被害者からの電話やメール相談に対しては、3条件を満たしているかをチェックします。
満たしていると思われるときは、各地で実施している交通事故無料相談会で面談します。

診断書、診療報酬明細書などを検証し、検査結果などから3条件を満たしていることが確認できたときは、後遺障害の立証について、チーム110がサポートを開始します。
後遺障害診断書を回収、自賠責保険に対して被害者請求で申請します。

②)それでも、現時点では、厚生労働省が事故との因果関係を認めておらず、Giroj調査事務所は、それを理由として非該当の結果を通知してくると予想しています。
非該当では、直ちに、自賠・共済紛争処理機構に対して紛争処理の申立を行います。
つまり、被害者請求の時点で、紛争処理の申立書の作成も完成させておくのです。
自賠・共済紛争処理機構と言っても、調査事務所の屋上に屋根をかけた組織で、常識的には損保寄りの組織です。余程のことが起きない限り、非該当の結論は変わりません。
ここまでは、訴訟に至る儀式のようなものです。

③この段階で、交通事故に長けた弁護士に委任、本件の損害賠償請求訴訟を立ち上げます。
3条件を満たしている被害者は、ご相談ください。
3条件を満たしていない被害者の対応は致しておりません。