

仙骨部を裏側から見たイラストで、オレンジ色が仙骨神経です。
(1)病態
2骨盤骨折 不安定型のところで、仙腸関節脱臼を解説しましたが、バイク、自動車の崖下転落などでは、仙骨を骨折することがあります。仙骨が、仙骨部中央の脊柱管を含む領域で縦方向に骨折したときは、仙髄神経損傷により、70%以上で膀胱直腸障害や性機能障害を残すことが報告されています。
(2)症状
排尿・排便障害、性機能障害
(3)治療
骨盤輪骨折の急性期においては、骨折部を創外固定で一時的に固定すると同時に、骨盤周囲に存在する血管や膀胱、直腸、尿道などの骨盤内臓器の損傷に対しても治療が必要となり、救命救急医、放射線科医、泌尿器科医、外科医などと連携をとって治療を行っていきます。
急性期の治療が終了すると骨折自体に対しての治療が必要となります。
骨盤輪の後方部分が完全に破綻している完全不安定型骨折においては通常手術療法が必要となり、骨折の部位によって各種固定法が選択されます。
仙腸関節脱臼や股関節脱臼骨折ではプレートかスクリューで固定します。
しかし、排尿・排便や性機能の神経障害に対しては現在のところ有効な治療法はありません。
仙髄神経根、S2~S4は、排尿調節、排便調節そして性機能に関与しており、この部位の損傷では、膀胱や腸の機能消失により、排尿や排便が、自力ではできなくなり、性機能にも影響を与えます。
脳から伸びた神経は頭蓋骨を出て脊髄となり、背骨の中心にある背柱管を通ります。
頚部で枝分かれした神経、頚髄神経は、後頭部・首、腕、手指へ、
胸の部分から枝分かれした神経、胸髄神経が胴体へ、
腰から枝分かれした神経、腰髄神経は、下腹や臀部、足の前側へ伸び、
背骨の末端、仙骨まできた神経、仙髄神経は、膀胱や陰部、足の裏側に至ります。
各神経の支配領域は決まっており、発症部位から、どの神経が損傷しているかが分かります。
(4)後遺障害のポイント
1)骨盤骨折の中でも、仙骨々折では、仙髄神経損傷を合併する頻度が高いのです。
仙骨神経、S1~S4は、梨状筋の前で仙骨神経叢となり、下肢の運動機能を、S2~S4では、排尿調節、排便調節そして性機能を支配しており、さらに、自律神経系からの介入もあって、これらの機能に重要な役割を果たしています。
2)S1/2の損傷では、足関節を自動運動で背屈することができなくなります。
足背は強烈に痺れ、筋力は低下、下肢に筋萎縮が認められます。
針筋電図検査で仙髄神経麻痺を立証すれば、10級11号が認定されます。
3)S3/4/5の損傷では、排尿・排便・性機能に障害を残します。
排尿障害は、泌尿器科でウロダイナミクス検査を受けて立証します。
排便障害も、泌尿器科における直腸肛門機能検査で立証します。
性機能障害は、男女別、その内容により立証が異なります。
詳細は、「2骨盤骨折 不安定型 (2)恥骨結合離開・仙腸関節脱臼」 を参照してください。
いずれも、針筋電図検査で仙髄神経麻痺を立証することが、等級認定の前提となります。
(5)仙骨神経刺激装置
SNM、仙骨神経刺激療法という、排泄に関連した仙骨神経を継続的に電気刺激する治療法によって、過活動膀胱や便失禁の症状改善を図る治療デバイスです。
心臓ペースメーカのような小型の刺激装置をおしりのふくらみに植込みますが、この刺激装置を植込む前に、2週間ほどリードのみを全身麻酔手術で入れて体の外から、試験的に刺激を送って治療の効果が得られるかどうかを確認します。この試験刺激によって効果が確認された方のみ、刺激装置の植込み手術へと進みます。
従来、個別の排尿・排便習慣をとらえ、時間ごとに排尿・排便を促す、括約筋の収縮訓練や修復を行う、薬物によってコントロールすることが主流でしたが、近年、排尿・排便を制御する仙骨神経を電気的に刺激して症状を改善する機器、仙骨神経刺激装置が開発されました。
2014年から健康保険の適用となっています。