(13)上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)

骨折の区分

(1)病態

腕とは、肩関節からぶら下がる二の腕のことで、上腕骨近位端とは、肩関節近くの部位です。
上腕骨近位端骨折は、骨折の部位と骨片の数で、重傷度や予後、治療法が決まります。
上記のイラストは、骨折の部位と骨片の数による分類を示しています。
臨床上、この骨折は、骨頭、大結節、小結節、骨幹部の4つに区分されています。

交通事故では、肩を地面に打ちつけることで発症しています。
高齢者では転倒などの軽い外力により、手をついただけで骨折に至ることが多く、上腕骨近位端骨折は、股関節部の大腿骨近位端骨折、手関節部の橈骨遠位端骨折、脊椎圧迫骨折と並び、高齢者に多い骨折の一つで、その背景には、骨粗しょう症の存在があります。

(2)症状

受傷直後から、骨折部に激痛を訴え、見る見るうちに腫れてきます。
数日を経過すると、骨折部に出血後の痣が認められます。

上腕骨
※右から前面右・後面右・外側

上腕骨の大結節、小結節は、上腕骨骨頭部で肩関節を構成している部分ですが、前面右のイラストで解説すると、上部左側の小さな盛り上がりが小結節、左上部の大きな盛り上がりが大結節です。

上腕骨近位端骨折

左は上腕骨が肩甲骨の関節窩に衝突、大結節が骨折したもの、右は、大結節が肩峰に衝突、骨折したもの、

上腕骨近位端骨折

棘上筋の牽引により大結節が剥離骨折したもの、

(3)治療

骨頭でズレのないときは、保存療法で3週間の三角巾あるいはバストバンド固定が行われます。
転位・ズレが認められるときは、X線透視下に徒手整復を実施、4週間のギプス固定となります。
脱臼を整復すれば骨折も整復されることが多いのです。

大結節の骨折では、転位が軽度でも肩関節の炎症を起こしやすく、経皮的にKワイヤーやラッシュピンで固定術とするのが主流の治療法です。小結節、骨幹部の骨折では、いずれも観血的整復固定術が適用され、髄内釘やプレート固定がなされています。
症状固定時期は、常識的には、高齢者であっても受傷から6カ月で決断すべきです。
後遺障害は肩関節の機能障害で、12級6号、10級10号の選択となります。

小結節、骨幹部で転位の大きいものは、骨頭壊死を発症する可能性が高く、上腕骨頭が壊死すれば、人工骨頭置換術が行われます。
骨粗しょう症の進んだ高齢者では、高頻度に壊死が懸念されるのです。2018年5月、同部位を粉砕骨折した高齢者女性に、人工骨頭置換術を経験、10級10号が認定されています。

(4)後遺障害のポイント

1)上腕骨近位端骨折では、肩関節の可動域制限と骨折部の疼痛が後遺障害の対象となります。
認定される等級は、機能障害においては、8・10・12級から、痛みの神経症状では、12・14級からの選択です。

伸展・屈曲
外転
等級 主要運動 参考運動
屈曲 外転 内転 合計 伸展 外旋 内旋
正常値 180 180 0 360 50 60 80
8級6号 20 20 0 40
10級10号 90 90 0 180 25 30 40
12級6号 135 135 0 270 40 45 60

2)高齢者は、10級10号が認定されるのか?

それはありません。
上腕骨頭頚部骨折であっても、グレードの高い骨粗しょう症でない限り、骨癒合は良好に得られます。
固定後の、リハビリ治療が決め手であり、これを真面目に行えば、2分の1以下の可動域制限を残すことは、ほとんどありません。しかし、正常値の180°まで改善することもありません。
症状固定時期の選択で12級6号を狙うのが現実的な選択です。
高齢者がそうだとは申し上げませんが、ダラダラと漫然治療を繰り返すことは禁物です。

3)若年者ではどうか?

①転位=ズレの認められない骨折では、治癒しますので後遺障害を残すことはありません。

②大結節骨折で、Kワイヤーやラッシュピン、小結節の骨折で、経皮的に髄内釘やプレート固定が実施されたものは、3DCTで変形骨癒合が立証できていて、なお、症状固定時期を誤らなければ、12級6号、あるいは神経症状で14級9号が認定される可能性があります。
普通、10級10号はあり得ないことです。

4)角度だけで等級が決まるのか?

ネットでは、2分の1以下なら問題なく10級10号が認定されると解説しているホームページもありますが、審査をしているGiroj調査事務所は、
①どの部位に、どのような骨折をしたのか?②どのような治療が行われたのか?
③骨折部の骨癒合は得られているのか?
これらの3つを冷静にチェックしているのです。
角度だけの10級10号は、「そのような高度な可動域制限が発生するとは考えられない。」
として、12級6号もしくは非該当としています。
骨癒合で変形が認められないものに、10級10号の認定はありません。

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