(17)テニス肘 上腕骨外側上顆炎、上腕骨内側上顆炎(ないがいそくじょうかえん)

(1)病態

無料相談会に参加された被害者、53歳女性の診断書に、左テニス肘と記載されていました。
しかし、テニスの経験はなく、ラケットなど握ったこともないとのお話しです。

(2)症状

受傷から3カ月の経過ですが、受傷直後から一貫して左肘外側部に疼痛があり、今も、雑巾を絞る、ドアノブを回す、ペットボトルのキャップを回すことが、疼痛の増強でできないとの訴えがなされました。
持参されたMRIで、上腕骨外顆部に骨挫傷が認められました。
県庁職員で、パソコン操作が中心の仕事です。

私は、上腕骨外顆部に、骨折の一歩手前、骨挫傷となる強い衝撃、打撃を受けており、日常的かつ長時間のパソコン操作で、手指を酷使しており、事故受傷をきっかけに、左上腕骨外側部に付着している筋肉に微小な断裂や損傷をきたしたものではないか? そんな仮説を立てました。
であれば傷病名は、左上腕骨外側部骨挫傷、左上腕外側上顆炎となります。

(3)治療

当面の課題として、①パソコンを使い過ぎないこと、②適度な休養と仕事の合間に手関節を曲げるストレッチ、③治療先でエルボーバンドを手に入れ、装着されてはと提案しました。

エルボーバンド

それらの治療を3カ月続け、左肘部の疼痛は改善し、日常生活に支障を感じることはなくなりました。
7カ月目に症状固定、外傷性頚部症候群による神経根症状で14級9号を獲得しました。

やはり、顔の見える交通事故無料相談会が全てです。
私としても、多くの被害者と面談し、多くの症状、傷病名を経験することで、力量を上げています。

(4)後遺障害のポイント

1)打撲による骨挫傷で、後遺障害が認められるのかについて検証します。
本件では、保存療法で改善が得られており、上腕骨外側上顆炎で後遺障害を残していません。
骨挫傷は、MRIで確認できる打撲部の点状出血痕です。
骨折一歩手前の強い打撲と評価されていますが、打撲は、どこまでいっても打撲です。
打撲で後遺障害を残すことが想像できません。
症状を残していても、門前払いとされると、思われます。

2)歩行中に、自動車のドアミラーがぶつかって、左肘の外側部を打撲したときです。
MRIで骨挫傷が発見されるも、主治医が取り上げることなく、肉離れ、気のせいじゃないのと放置したときは、6カ月を経過しても、手首を曲げる、回内・外の動作で、肘部に疼痛があり、そして、雑巾を絞る、ドアノブを回す、ペットボトルのキャップを回すことに支障を残すことは、あっても、不思議ではありません。となれば、後遺障害を申請することになります。
骨挫傷は、MRIで立証されていますが、治療先には、追加的に、エコー検査を依頼します。
エコーで炎症所見が確認できれば、補強となるからです。
6カ月を経過しており陳旧性=古傷所見であっても、邪魔にはなりません。
骨挫傷や炎症所見の大きさに影響されますが、肘の骨挫傷後の神経症状として、ひょっとして14級9号が認定されるかもしれません。

3)本件では、主治医がテニス肘と診断しています。
テニス肘であれば、日常的かつ長時間のパソコン操作で、手指を酷使している素因があり、事故受傷をきっかけに、左上腕骨外側部に付着している筋肉に微小な断裂や損傷をきたしたと推定され、神経症状として14級9号が認定されても、損害賠償では、素因減額が持ち上がってきます。

4)肘関節の機能障害で12級6号が認定されないの?
個別に検討することになりますが、立証された器質的損傷が骨挫傷にとどまるものであれば、将来、確実に改善が得られると判断しますから、機能障害としては認定することはあり得ないと考えます。
これは、先回りの予想です。

※肉離れ
正しくは、筋挫傷もしくは、筋肉の部分断裂が正しい傷病名です。

※本来のテニス肘

本来のテニス肘

(1)病態

本来のテニス肘には、バックハンドストロークで肘の外側を傷める外側上顆炎と、フォアハンドストロークで肘の内側を傷める内側上顆炎の2種類があります。

いずれも、ボールがラケットに当たる衝撃が、手首を動かす筋肉の肘付着部に繰り返し加わることによって、微小断裂や損傷をきたし、炎症を発生するものです。

前者では手首を背屈する筋肉がついている上腕骨外側上顆、肘の外側のでっぱりに、後者では手首を掌屈する筋肉の付着部、上腕骨内側上顆に発生するため、傷病名は、それぞれ上腕骨外側上顆炎、上腕骨内側上顆炎とも診断されています。

テニス以外でも、包丁を握る調理師や手首を酷使する仕事で発症しています。
タイピストは死語となりましたが、長時間のPC操作の繰り返しによっても、テニス肘は発症しています。
手首と肘の力を、繰り返し酷使することで、筋や腱の変性や骨膜の炎症が引き起こされるのです。
当然ながら、変性は、加齢によっても起こります。

(2)症状

症状は、手首を曲げる、回内・外の動作で、肘に痛みが走ります。
そして、雑巾を絞る、ドアノブを回す、ペットボトルのキャップを回すことが痛みで、できなくなります。

(3)検査と治療

①抵抗を加えた状態で手首を背屈させるトムセンテスト、
②肘と手指を伸ばし、中指を押さえる中指伸展テスト、③肘を伸ばし、椅子を持ち上げるチェアーテスト
これらの検査で、上腕骨外側・内側上顆部に痛みが誘発されます。
炎症所見は、MRI、エコー検査で確認することができます。
受傷機転が骨折ではなく、打撲ですから、治療は保存療法となります。
局所を安静下におき、消炎鎮痛薬の内服や外用、その後は、前腕や手関節を曲げるストレッチ、温熱、低周波、レーザー光線などのリハビリ、エルボーバンドの装着などが行われています。

日常生活では、手のひらを下にしてモノを持ち、肘で動かすことは、肘に負担がかかるのでNGです。
手のひらを上に向けて持つのはかまいません。

手のひらを後ろに向けるような持ち方も、肘に負担がかかるのでNGです。
テニス肘で、後遺障害を残すことは、常識的には考えられません。

(4)後遺障害のポイント

交通事故では、肘に直接の打撲があれば、予想できる傷病名です。
受傷直後から正しい保存療法が選択されれば、6カ月以内に改善が得られると考えます。