(8)SLAP損傷=上方肩関節唇損傷(じょうほうかんせつしんそんしょう)

(1)病態

SLAP損傷=上方肩関節唇損傷は、肩関節を構成する肩甲骨に付着する軟骨の関節唇が、交通事故外傷で断裂した状態のことです。

正常な関節唇
断裂した関節唇

肩関節を構成する肩甲骨に付着する軟骨を関節唇と呼んでいます。
上腕骨と肩甲骨の間に存在し、肩関節の安定、関節の可動性、滑り止めの機能を有しています。

(2)症状

肩関節の運動時に激痛が走り、肩が抜けたような感じ、引っかかり感を訴えます。

無料相談会に参加された被害者、32歳男性は、2014年3月、バイクを運転中に自動車と接触、転倒して、左肩を路面に打ちつけました。
傷病名は、左肩腱板損傷、SLAP損傷と記載されています。
6カ月を経過した時点の症状は、左肩痛、左肩関節の可動域制限でした。
持参されたMRIのCDで、左棘上筋の部分断裂と左上方肩関節唇の断裂が確認できました。
肩関節の可動域は、屈曲が150°外転が130°内転0°でした。
左肩の痛みは、一時よりは軽減しているとのことであったので、症状固定とし後遺障害診断を受けて、被害者請求とすることをアドバイス、チーム110が治療先をサポートすることになりました。

相談会から3カ月後に12級6号が認定され、その後は弁護士が交渉して訴訟基準を実現しました。

(3)治療

保存療法としては、肩を休め、1~2週間の安静が指示され、その後に肩甲骨周囲の筋力や腱板訓練がリハビリとして行われています。痛みに対しては、鎮痛消炎剤を注射で注入されています。
保存療法で症状が改善が得られないときは、内視鏡術で剥がれた関節唇を縫合しています。

(4)後遺障害のポイント

1)MRIで断裂し、剥がれかかっている関節唇=軟骨が、保存療法で治癒することはありません。
時間の経過で、痛みも少なくなり、可動域も一定程度は改善しますが、元通りはありません。
被害者の治療先は、どこにでもある整形外科で、内視鏡下関節唇修復術の技術はありません。
そこで、症状固定を優先、先に等級を確定させてから、治療を検討することになったのです。

2)示談解決後、被害者は、チーム110が紹介の治療先で、内視鏡下関節唇修復術を受けました。
断裂して剥がれかかった関節唇は、内視鏡下で縫合され、オペに要した時間は2時間未満です。
入院4日で退院、職場に復帰し、リハビリ通院は、20回で完了、元の可動域まで戻りました。

元の治療先が、内視鏡下関節唇修復術の技術を有しているのであれば、もっと早い段階で、このオペが実施されています。であれば、後遺障害は棘上筋損傷の痛みで、14級9号にとどまると予想します。
しかし、内視鏡下関節唇修復術は、専門医の領域で、どちらの整形外科でもは、ありません。

3)すでに6カ月を経過しており、今から専門医のところでオペを受ける?
内視鏡下関節唇修復術を熟知していない損保は、露骨に嫌がる筈です。
したがって、先に後遺障害の確定、損害賠償の実現をしてオペを受ける合理性を選択したのです。

ところが、医師、弁護士、被害者に、この発想はないのです。
医師と被害者は、できることなら治そうと考えます。
弁護士も、治療を終えてから、後遺障害の申請を想定していますから、先に後遺障害、その後に治療で治すなど、そんなイレギュラーな発想は、持ち合わせていません。
被害者の皆様には、この合理性の理解をお願いしたいところです。