(2)上位頚髄損傷(C1/2/3)と横隔膜ペーシング

1)病態

脊柱に強い外力が加えられることにより、脊椎を脱臼・骨折し、脊髄損傷を発症しています。
この内、上位頚髄損傷、C1/2/3に限局した横断型頚髄損傷を解説します。

C1/2では、先に環軸椎の脱臼・骨折・亜脱臼を解説していますが、これにとどまらず、横断型頚髄損傷を来すと、肋間筋および横隔膜の運動を支配している神経が破断し、自発呼吸ができなくなります。
あまり知られていませんが、肺呼吸は、肋間筋と横隔膜の運動により機能しているのです。

2)症状

この部位に、横断型頚髄損傷を発症すると、四肢体幹麻痺に加え、自発呼吸の麻痺が伴い、人工呼吸器=レスピレーターに頼ることになります。
気管切開により、装着中は声を出すことができず、自力で排痰することもできません。
四肢はピクリとも動かず、排尿・排便のコントロールもできず、垂れ流し状態です。
きめ細かな介護、介助を行わないと、徐々に循環不全となり、死に至ります。
これまでに、2例を経験していますが、非常にお気の毒で言葉もありません。

3)後遺障害のポイント

横断型脊髄損傷は、MRIで立証することができますが、日常生活の全面で、全介護が必要な状態であり、後遺障害は別表Ⅰの1級1号となります。

脊髄=中枢神経系は、非可逆性であり、損傷すると、修復・再生は不可能です。
今、IPS細胞を利用して脊髄神経の再生が試されており、臨床応用が待ち遠しい状況です。

※横隔膜ペーシング
東野圭吾の小説、「人魚の眠る家」 は、6歳になる少女がプールで溺れ、脳死状態となり、脳死判定と臓器提供をテーマとする問題作ですが、その少女は、最新式の横隔膜ペーシングを装着、人工呼吸器から解放され気管切開を閉じて、自宅で生活するようになります。

2014年1月9日、湘南藤沢徳洲会病院は、国内で初めてALS=筋萎縮性側索硬化症の患者さんに横隔膜ペーシングの植え込み手術を実施しています。

横隔膜ペーシングは、呼吸のタイミングに合わせ、神経や筋肉に電気による刺激を与え、人工的に横隔膜を動かす装置で、これにより、患者は、人工呼吸器を外し、気管切開を閉じて退院、自由に喋ることができて、その上、自宅での生活ができることになります。
オペは、腹腔鏡下で実施され、横隔膜に左右2本ずつ電極を植え込んだ後、リード線を腹腔外に出してペースメーカーに接続して完了です。

外部制御装置は、上記の大きさであり、カバンに入れて持ち運ぶことができる画期的なものです。
もちろん、自発呼吸のできない上位頚髄損傷の被害者にも適用できるものです。

レスピレーターに頼る被害者にとっては、福音をもたらすものですが、費用はアメリカFDAによれば、10万ドル、日本円で1100~1300万円、健保の適用はありません。
支払を負担する損保にとって、悩み深い問題です。