(4)コホート研究における脊柱管狭窄症

脊柱管狭窄症と素因減額について、興味深い論文を紹介しています。
脊柱管狭窄症を指摘されている被害者には、必要な情報です。

世界最大規模のコホート研究※であるThe Wakayama Spine Studyを解説しておきます。
和歌山県立医科大学の吉田 宗人主任教授は、一般地域住民を対象に全脊柱レベルでMRIを撮像し変性椎間板の分布や有病率などについて調べ、Osteoarthritis and Cartilage誌2014年1月号に掲載しています。
The Wakayama Spine Studyに参加した一般住民は、21~97歳の1009名で、男性は335名、平均年齢は67.2歳、女性は674名、平均年齢は66.6歳です。

※コホート研究
cohort studyとは、分析疫学における手法の1つで、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究です。

MRIで、中等度以上の脊柱管狭窄は地域住民全体の76.5%に認められたのですが、MRIの脊柱管狭窄と症状の2つを有する症候性脊柱管狭窄症は、地域住民全体の9.3%に過ぎません。
つまり、80%近くの地域住民は、MRIで中等度以上の脊柱管狭窄を有しているものの、そのほとんどは、無症状の脊柱管狭窄症であったのです。
症状を伴う脊柱管狭窄症は、脊柱管狭窄を有する住民の12.22%に過ぎないのです。

損保は、脊柱管狭窄症は外傷性の傷病名ではなく、年齢変性そのものであって、本件事故との因果関係を認めることはできませんと言い切り、治療費の支払いさえ拒否しているのですが、症状がなく、通院歴もない脊柱管狭窄であれば、疾患と言えない普通の状態であるので、受傷前から腰部脊柱管狭窄が存在していたとしても、交通事故後に発症した症状であれば、交通外傷とは直接関係がないとは言い切れないという結論になります。

事故前に症状はなく、整形外科などの通院歴もないのに、損保から脊柱管狭窄症による素因減額を指摘されたときは、被害者は諦めることなく、コホート研究の論文を示して反論しなければなりません。

①放射線科の専門医に、MRI画像の分析を依頼します。
②主治医からは、やや狭窄気味ではあるが、脊柱管狭窄症ではないとの診断書を取りつけます。
③事故前に症状はなく、整形外科などの通院歴もないことを伝え、コホート研究の論文を添付して、素因減額の対象となる脊柱管狭窄症ではなく、誰にでも認められる年齢変性であると主張するのです。

※参考までに、腰椎の脊柱管の前後径は?
腰椎の椎体後方には、日本人の平均で前後径、約15mmの脊柱管があり、脊髄はこの中を走行しています。基準として前後径が12mm以下となり、症状が出現していれば、脊柱管狭窄症と診断されます。

この意味で、The Wakayama Spine Studyは、被害者にとって、覚えておくべき貴重な論文です。

先にも説明していますが、末梢神経は、神経が剥き出し状態ではなく、さやに包まれて走行しており、18歳から緩やかに始まる年齢変性は、大部分がさやで吸収され、具体的な症状となって現れません。
そこに、日常経験することのない交通事故の衝撃が加わると、どうなるでしょうか?
さやで受け止め切れず、末梢神経そのものが損傷することが予想・推測されるのです。

WADでは、MRIで得られる画像所見は、すべてが年齢に伴う変性、椎間板ヘルニアや骨棘形成です。
したがって、年齢変性であったとしても、自覚症状に一致していれば、他覚的所見となるのです。
これが認められないのであれば、ムチウチの14級9号、12級13号が認定されることはありません。

ただ1つ、困ったことがあります。
「MRI画像では、異常を認めない?」 後遺障害診断書にこの記載がなされていることです。
医師は、外傷性の画像所見を認めないとして記載しているのですが、被害者の年齢が30代以降であれば、ほぼ全員に、年齢変性が認められるのです。
ポイントは、年齢変性の画像所見と自覚症状の整合性です。

治療先同行による医師面談では、先に、ONISによるMRI画像分析の書面を作成して持参します。
矢印で指摘している書面を提出し、
MRIでは、C5/6右側に椎間板ヘルニアによる軽度な圧迫所見が見られるのですが、
これは、被害者の自覚症状に一致しており、その旨の記載をお願いしたいのです。
もちろん、外傷性所見ではありませんので、年齢変性と記載されても一向に構いません。

医師面談では、腰を折り、頭を下げて、こんなお願いをしているのです。
WADでリハビリ治療中のあなたは、知っておくべき情報です。