(26)ガレアッチ骨折

(1)病態

モンテジア骨折は、尺骨の骨幹部骨折に橈骨頭脱臼が伴ったものですが、ガレアッチ骨折は、その逆バージョンで、橈骨の骨幹部骨折に手首側の尺骨頭の脱臼を伴ったものです
交通事故では、転倒し、手をつくときに介達外力が働いて骨折しています。

(2)症状

骨折部に疼痛と腫れを生じ、腕を上げることができない、手首を回すことができなくなります。
骨折により、周囲の血管、神経が損傷すると、出血、しびれの症状が出現します。

(3)治療

モンテジア骨折と同じで、XPで橈骨の骨折を認めても、尺骨頭の脱臼を見逃すことがあります。
XPだけでなく、CTやMRIの横断像で確認されなければなりません。
血管や神経などの軟部組織が損傷していることも多く、神経学的検査、関節鏡検査、筋委縮検査なども必要となります。

治療は、骨折部をプレートで固定し、脱臼部を整復し、その後、ギプスシーネで固定しています。
尺骨頭の脱臼の整復が困難なときは、手術で整復することになります。

ガレアッチ骨折

上記は、ガレアッチ骨折の術後を撮影したXPです。
橈骨の骨幹部骨折は、AOプレートとスクリューで固定されており、脱臼した尺骨頭はピンニングで引き寄せられています。

※ピンニング
骨折や脱臼を固定する方法の1つで、骨のズレを直接整復し、金属のピン、ワイヤー、スクリュー、プレート、ロッドなどを用いて皮下で骨を固定します。
ピンやワイヤーなどに用いられる金属は、ステンレス、高強度金属、チタンです。

(4)後遺障害のポイント

1)橈・尺骨々幹部骨折では、AOプレートとスクリュー固定が一般的であり、開放性の挫滅もしくは粉砕骨折でもない限り、偽関節や変形治癒の後遺障害を残すことはありません。

2)モンテジア骨折、ガレアッチ骨折でも、初診で脱臼が確認されており、骨折がAOプレートとスクリューで固定されたものでは、ほとんどで、後遺障害を残すことなく治癒しています。

3)問題は、脱臼が見逃されてそのまま放置されたものです。
①治療先の診断書に、傷病名として橈骨々幹部骨折のみの記載がなされており、
②ギプス固定の保存的治療がなされていること、
③受傷から6カ月を経過しても、肘の可動域や回内・回外制限などの訴えがなされているとき、
上記の3つが揃えば、ガレアッチ骨折を疑うべきです。

前腕部について2方向からのXP撮影を行って橈骨の骨折部と転位の向きをチェックします。
次ぎに、手関節も、2方向からのXP撮影で遠位橈尺関節の脱臼をチェックします。
健側のXP撮影も行い、比較することで、脱臼は発見しやすくなります。
これでも不明なときは、CTやMRIの横断像、3DCTの撮影を行い、放射線科の専門医の参加で、画像分析を行っています。遠位橈尺関節の脱臼もしくは亜脱臼が確認できたときは、放射線科の専門医に画像鑑定書の作成を依頼して、それを新たな医証として、異議申立を行います。

3)ガレアッチ骨折では、遠位橈尺関節の脱臼に伴ってTFCC損傷を発症し、手関節の可動域制限と運動時の疼痛を残すことがあります。
TFCC損傷は、後段で、詳細を解説しています。

(5)NPOジコイチの経験則

42歳、男性会社員ですが、バイクで通勤の途上、交差点で対向右折の乗用車と出合い頭衝突し、左ガリアッチ骨折と診断されています。術後4週間で、東京の無料相談会に参加されました。

左橈骨の骨折部は、AOプレートとスクリューで固定されており、遠位橈尺関節の脱臼部もピンニングで引き寄せられ、術後1週間でギプスはカットされ、シーネ固定の状態でした。
早速、手関節の計測を行ったところ、背屈30°掌屈25°橈屈と尺屈はいずれも5°で痛みを伴うとのことでした。6カ月の経過で症状固定として後遺障害を申請する必要性を説明し、今後は、チーム110がサポートをすることで合意が成立しました。

5カ月目、背屈45°掌屈55°橈屈は20°尺屈は30°まで改善しています。
尺屈では、まだ、痛みが伴うとのことでした。
6カ月目で症状固定とし、後遺障害診断を受けました。
背屈は55°掌屈は60°尺屈は30°で痛みの改善はありません。
XPでは、尺骨の背側脱臼、尺骨の茎状突起の骨片が大きく、尺屈の痛みは、それが原因で、TFCC損傷は、あっても軽度と診断されました。
XP、3DCT、MRIを添付して被害者請求を行ったところ、12級6号が認定されました。
7、8カ月経過の症状固定であれば、尺屈時の痛みで14級9号がやっとのところでした。