本件で取り上げるのは、側頭骨骨折後のめまい・失調・平衡機能障害で、側頭骨骨折後の詳細は、ターゲットCTで立証済みです。
等級 | 内容 | 自賠責 | 喪失率 |
---|---|---|---|
3 | 3:生命の維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが、高度の失調または平衡障害のために、終身、労務に就くことができないもの | 2219 | 100 |
5 | 2:著しい失調または平衡障害のために、労働能力が極めて低下し、一般平均人の4分の1程度しか残されていないもの | 1574 | 79 |
7 | 4:中程度の失調または平衡障害のために、労働能力が一般平均人の2分の1以下程度に明らかに低下しているもの | 1051 | 56 |
9 | 10:一般的な労働能力は残存しているが、めまいの自覚症状が強く、かつ他覚的に眼振その他平衡検査の結果に明らかな異常所見が認められるもの | 616 | 35 |
12 | 13:労働には通常差し支えないが、眼振その他平衡検査の結果に異常所見が認められるもの | 224 | 14 |
14 | 9:めまいの自覚症状はあるが、眼振その他の検査結果に異常所見が認められないもので、単なる故意の誇張でないと医学的に推定されるもの | 75 | 5 |
1)病態
めまいは、通常、内耳、内耳神経、脳幹の前庭、小脳の障害で発症すると考えられています。
人間の身体の平衡機能は、三半規管や耳石の前庭系、視覚系、表在・深部知覚系の3系統から発信された情報を小脳および中枢神経系が統合して左右のバランスを取り、維持されています。
したがって、平衡機能障害を来す部位は上記の3つの系統以外にも脳幹・脊髄・小脳の中枢神経系が考えられるのです。
失調とは運動失調のことですが、平衡機能障害によって複雑な運動ができない状態のことと言われており、深部知覚、前庭、眼、小脳、大脳の障害によって発症すると考えられます。
2)症状
側頭骨骨折、頭蓋骨陥没骨折、頭蓋底骨折など頭部外傷後にめまいを訴える被害者がいます。
頭部の器質的損傷を原因としためまいは、中枢性めまいとして、後遺障害の対象となっています。
大多数は、側頭骨の骨折により、三半規管や耳石の前庭系が損傷されたことで、平衡機能障害を発症しているのですが、耳鼻咽喉科で以下の検査を受けて立しなければなりません。
3)診断と検査
①ロンベルグテスト
両足をそろえて開眼でまず立たせ、ついで閉眼させ身体の動揺を調べる。
②マンテスト
両足を一直線上で前後にそろえて立たせ、開眼と閉眼で検査する。
③片足立ち検査
④斜面台検査
斜面台上に立たせ、前後および左右方向に斜面台を傾け、転倒傾斜角度を測定する。
15°未満での動揺は異常とされています。
⑤重心動揺検査
前後左右への重心の動揺をXY軸レコーダーで記録する。
眼に現れる平衡機能障害は、自覚的にはめまいとなりますが、めまいの検査=偏倚検査には、
①足踏み試験
両腕を前方に伸ばし、閉眼で足踏みを100回行わせる。回転角度が91度以上は異常とされます。
②遮眼書字試験
マーキングペンなどを持ち、手や腕が机に触れないようにして、まず開眼で、ついで遮眼の状態で氏名などを縦書きさせる。
③閉眼歩行検査
閉眼の状態で、8~10歩前進と後退を繰り返させると、一側の前庭障害の被害者では、その歩行の軌跡が星状となります。
④眼球運動検査、自発眼振検査、頭位眼振検査などがあります。
さらに、温度、回転、電気刺激による眼振検査など、迷路刺激眼振検査も行われている。



めまい・平衡機能障害・失調で後遺障害が審査されるのは、深部知覚、前庭、眼、小脳、大脳の障害が立証されることが前提であり、現実的には、頭部外傷を原因としたものに限られています。
外傷性頚部症候群や脳脊髄液減少症などで、めまいを訴えても、相手にはされません。
4)後遺障害のポイント
①めまい・平衡機能障害の原因である側頭骨骨折については、ターゲットCTの撮影で、三半規管や耳石の前庭系が損傷されたことを明らかにしており、後遺障害の立証としては、ほぼ50%を完了しています。
②あとは、耳鼻咽喉科におけるロンベルグなどの検査で、障害のレベルを明らかにすれば完成です。
私は21歳ですが、10/1の深夜、原付に乗っていたところ自動車との交通事故で受傷しました。
医師の診断書には、外傷性くも膜下出血・脳挫傷・背挫傷とありました。
幸い、出血量も少なく、1週間の入院で退院となりました。
先日までは、支障や異常を感じることはなかったのですが、最近、頻繁にめまいが起きます。
1、2分程度でおさまるめまいですが、頻度が高く、横になっているときでも起こります。
やはり、ヤバイめまいでしょうか? 事故からまだ日が浅いので少々心配なところです。
12/12に脳外科への再診が入っていますが、それ以前にでも病院に行くべきでしょうか?
ご意見を聞かせてください。
A ヤバイめまいかどうか? 私では分かりません。
やはり、12/12を待たずに、脳外科を受診、めまい症状を訴えてください。
脳外科がめまいを扱っていなければ、眼科もしくは耳鼻咽喉科の専門医が紹介されると考えます。
専門医による赤外線眼球運動検査等を受け、めまい改善の治療を続けることです。
http://memai.jp/sodan-i/list2012.htm
上記は、日本めまい平衡医学会のホームページです。
全国のめまい相談医が掲載されています。
治療先の脳外科の協力が得られないときは、お住まいの地域のめまい相談医を探し出し、受診してください。


ビデオ式眼振計測装置
よく似た傷病名で後遺障害等級を獲得した経験があり、それを説明しておきます。
歩行中、後方から来た自動車の追突を受け、ボンネットに跳ね上げられた被害者の例です。
頭蓋骨骨折、急性硬膜下血腫の傷病名であり、頭部の器質的損傷はCT、MRIで立証されています。
その後、記憶障害、認知障害とともに、めまいが問題となりました。
問題は、専門医の検査を受けるも、めまいの存在を立証する具体的な数値が出てこない点です。
主治医もめまいについては、自覚症状の記載のみで、後遺障害診断書には、職務には問題ないとの所見が記載されています。
職務に問題なしとなれば、めまいは非該当、お土産でも14級9号になってしまいます。
実際問題として、事務作業では耐えられるが、工場内の高所作業は不可能な状態であり、主治医に面談して実状を説明、「事務仕事に限定すれば問題がない。」 記載内容の修正をお願いしました。
さらに、刑事記録を添付し、受傷機転、つまり事故発生状況と骨折の関係性を緻密に表現しました。
具体的には、自動車に後方から跳ね上げられ、ボンネットに乗り上げ、後頭部~頚部をフロントガラスに強打、そして路面に肩部から転倒、
「これだけの衝撃を受けて、頭蓋骨を骨折し、急性硬膜下血腫の傷病を負ったものです。」
相手車のフロントガラスが蜘蛛の巣状に破損している写真もシツコク添付しておきました。
検査上の数値が乏しくても、事故と損傷の因果関係が明確であれば、推定の上、認定されています。
本件では、頭部外傷後の高次脳機能障害の立証が中心でした。
めまいは、高次脳機能障害の周辺症状ですが、手は抜けません。
高次脳機能障害の日常生活状況報告でも、詳しく説明を加えました。
結果的に、これらの努力が実って、高次脳機能障害で7級4号、めまいで12級13号、併合6級が認定されました。
耳には、音を聞く働きの他に、身体のバランスをとる、平衡感覚の役割があります。
耳の平衡感覚を感知する器官としては、耳石器と半規管があります。
耳石器は2つあり、卵形嚢は水平に、球形嚢は垂直に位置していて、この2つの袋の中には、リンパ液と炭酸カルシウムでできている耳石という小さい石が入っています。
耳石器の内部は、薄い膜で覆われており、その奥には有毛細胞という細かい毛の生えた感覚細胞があって、耳石がリンパ液のなかを動くと、この有毛細胞の毛が刺激されて、位置を感知することができるのです。卵形嚢は水平方向の動きを、球形嚢は垂直方向の動きを感知しています。
半規管は、前半規管・後半規管・外側半規管の3つがあり、まとめて三半規管と呼ばれています。
半規管は3つの中空のリングから構成されており、内部は内リンパ液で満たされています。
前庭の近くに膨大部と呼ばれるふくらみがあり、そこには感覚毛をもった有毛細胞があります。
感覚毛の上にはクプラと呼ばれるゼラチン状のものが載っています。
内リンパ液が動くことによって、クプラが押され、感覚毛が曲がり、有毛細胞が興奮します。
頭部が回転すると、内リンパ液はしばらく静止したままなので、感覚毛が逆に曲がります。
この情報と視覚の情報から体が回転したと認識します。
三半規管は、それぞれ別の面にあるので、あらゆる回転方向を認識することができます。
これらの半規管はそれぞれ直角に交わっていてX・Y・Z軸のように3次元空間の回転運動の位置感覚を感知しています。
G難度、E難度をいとも簡単に達成する体操の内村航平さんは、研ぎ澄まされた3次元空間の回転運動の位置感覚を有しているものと思われます。
5)末梢性めまい
中枢性めまいの外にも、末梢性めまいと頚性のめまいがあります。
末梢性めまいは、大多数は内耳の異常によるもので、交通事故では、内耳の外傷となります。
その他の疾患としては、事故との因果関係はありませんが、メニエール病、良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、突発性難聴に伴うめまい、中耳炎や中耳真珠腫に伴うめまいなどがあります。
末梢性めまいは、強い回転性のめまいを起こすことが多く、また、メニエール病のように不定期に反復するときには、日常生活に重大な影響をおよぼし、患者さんの苦痛は決して軽いものではありません。しかし、命に関わる病気ではなく、手術治療なども含めると、最終的には原則として何らかの方法でとめることができます。
6)頚性めまい
これも末梢性めまいのカテゴリーですが、交通事故では、むち打ちで多発しており、1つの項目として取り上げました。頚性めまいは、交感神経性のめまいと捉えられており、自律神経失調症の症状を総称してバレ・リュー症候群と呼ばれています。
バレ・リュー症候群に伴うめまいは、眼前暗黒感、動揺感の訴えが多く、検査を行っても、他覚的所見が得られることは、ほとんどありません。
治療先は、麻酔科医が運営しているペインクリニックで、交感神経ブロック療法を受けます。
2週間に1回の交感神経ブロック療法を真面目に2カ月間続けることで、改善が得られています。
改善するところから、後遺障害の対象ではありません。
頚性めまいには、うつ病、不安神経症、パニック障害など心理的要因が混在しています。
ムチウチで、めまいを訴えても、後遺障害が認定されることはありません。
しかし、耳鳴りは後遺障害の対象となっており、一定の条件で12級13号が認定されています。
この点が不思議でなりません。