10) 車VS人の事故 スーパー駐車場の車両通路に佇立中の被害者に免停中の加害者が衝突

スーパー駐車場の車両通路に佇立中の被害者に免停中の加害者が衝突

京都地裁判決H19-10-9  平成18年(ワ)2513号  0:100
京都郊外の大型スーパーの屋外駐車場で佇立中の8歳男子をオフロード車が轢過、死亡させた事案につき、被害者は見えにくい時刻に、わずかに車両用通路に入って佇立中で全く落ち度がないとは言えないものの、歩行者誘導帯とカート置場近くで車両用通路にわずか入った地点であり、轢過するまで被害者に気付かず、度重なる違反歴で本件事故当時、運転免許停止中であった加害者の過失に対し、被害者に過失相殺減額を行うことは相当でないと判示しました。

直近で変わり果てた被害者の姿を目の当たりにした父母、妹がPTSDに罹患したとする事案について、直接の被害者ではないから損害とみることはできないが、慰謝料算定に斟酌するとしています。

被害者側の懲罰的・制裁的慰謝料の請求につき、最高裁H9-7-11判決に基づき、認めることはできないと判示、斟酌事情から被害者人分2250万円、父母については、それぞれ300万円、妹分として150万円の慰謝料を認定しています。

損保の反論
①被害者には、車両が多数通行する大型駐車場の車両用通路を横断中に、通行車両に対する安全の確認をせずに本件車両用通路に立ち止まり、危険な状態に身をさらしていた過失があること、

②両親には、被害者の手を引くなり、車両用通路に身体を出さないように注意するなど、監督、見守りをして、その安全を図れる立場にあったのに、車両用通路への立ち入り、佇立を容認した過失が認められること、

③刑事事件の控訴審判決は、量刑の事情において、被害者側に全く落ち度がないとはいえないと認定していること、

損保は、例によって被害者側にも過失が認められるとして、過失相殺の主張を展開しています。
しかし、自信がなかったのか、過失割合の表示までは踏み込んでいません。

裁判所は、①加害者には、前方注視義務という運転者にとって最も基本的な注意義務を怠っており、
②被害者が佇立の位置は、車両用通路の中央部分ではなく、歩行者用誘導帯の近くであったこと、
③加害者は、衝突し轢過するまで被害者に気付いておらず、被告の前方不注視の程度が大きいこと、
④加害者は、H11、12年に速度超過、H16年には、整備不良車運転による罰金前科を有していたほか、速度超過、赤信号無視などの交通違反歴も12件あり、過去2回の運転免許停止処分を受け、本件事故当時も3回目で、H16-11から180日間の運転免許停止中であったこと、

これらの事実が認められるところから、被害者とその両親になんらかの過失が認められるとしても、法の基礎をなす衡平の観点からすれば、過失相殺減額を行うことは相当でないと判示しています。

免停中の運転は無免許の扱いとなり、重過失が問われます。
加害者に+20%の加算修正が当然ですから、これは、0:100となります。

NPOジコイチのコメント

被疑者側が請求する懲罰的・制裁的慰謝料について、これは被害者側が実際に被った損害以上の賠償が認められるべきとの主張ですが、

最高裁大法廷判決H5-3-24
不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補填、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的としており、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではなく、加害者に対して損害賠償義務を課することによって、結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても、それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的、副次的な効果にすぎず、加害者に対する制裁および一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。

最高裁第二小法廷判決H9-7-11
不法行為の当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁および一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、上記の不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものと判示されており、懲罰的損害賠償を認めることはできないとして斥けています。

近年では、高次脳機能障害、遷延性意識障害、重度脊髄損傷、死亡事故などでは、虚偽の控訴で解決が長期化したときなど、弁護士の請求により、制裁的慰謝料が認められています。