8) 車VS人の事故 衝突を避けようと、欄干を飛び越えて転落

衝突を避けようと、欄干を飛び越えて転落

静岡地裁判決H3-7-16  平成2年(ワ)417号  0:100
幅員3.3mの橋の上の狭路で実況見分を行なう警察官の被害者が他車との衝突事故で滑走した加害車を避けようとして、欄干を飛び越えて21m下の川に転落、負傷した事故で、被害者の過失相殺が否認されています。

この事故で、33歳の男性警察官は、脾臓喪失で8級11号、右下肢の1cmの短縮で13級9号、併合7級の後遺障害が認定されたのですが、①事故後、昇給しているが、被害者が希望する刑事、交通畑の仕事に戻ることができないで、署内でデスクワークの仕事に就いていること、②脾臓喪失も、易疲労性などにより、今後、警察官としての勤務、昇進昇給などに少なからぬ影響が生じることが容易に推認されることから、労働能力喪失率25%で32年間の逸失利益が認定されました。

損保の反論
①夜間、降雨中に片側3.3mの狭路で漫然と実況見分を行っていたのではないの?
②勝手に飛び降りて怪我をしたのだから、警察官にも過失があるでしょう?
被害者である警察官は、怒りで震えたことでしょう?

これに対して、裁判長は、もう1人の警察官が赤色灯を携帯し、これを脇に挟んで照らしながら路側帯上で実況見分しており、運転手が前方を注視していれば、警察官の立っていた地点より66m手前で、赤色灯を明瞭に確認できる状況にあり、また加害者はスリップ事故の前に、この赤色灯を確認しているとして、2名の警察官は、実況見分中であることを通行車両の運転手に察知せしめるための一応の措置をとっていたと判断しています。
片側3.3mの狭路の路側帯で実況見分を行うには、進行車両の通行に十分注意しなければならないのですが、警察官は、本件事故当時、夜光テープがつけられた白色ヘルメットおよび白色雨衣上着を着用しており、被害者は、加害車両と対面する向き、東京方面を向いて立っており、車両の通行にも注意しつつ実況見分に当たっていたことが認められると指摘、漫然と実況見分をしていたとの主張を斥けています。被害者が自ら欄干を飛び越えて衝突事故を回避しなくても、加害車両と衝突しなかった可能性は否定できないが、片幅3.3mの狭い道路上で、走行するトラックが真近に迫っている状況に直面した被害者が飛び降りなければ衝突すると直感し、衝突を避けるため欄干を飛び越えようとしたことも無理からぬ心情として十分理解できると指摘、路側帯で佇立したままトラックの通過を待つべきと強いることはできないとして、事後的、客観的に衝突しない可能性があったとの判断を前提としても、被害者が自ら欄干を飛び越えて約21m下の川に落下したことが過失相殺の対象にはならないとして、0:100との判断を示しています。保険屋さんの非常識な主張は全面的に否定され、0:100となったのです。

NPOジコイチのコメント

盲導犬の交通事故死で、名古屋地裁が260万円の損害賠償を命じています。
これは、盲導犬の価値が争われた全国初の判決ですが、裁判官は、盲導犬の価値について、視覚障害者の目の代わりとなり、精神的な支えとなって積極的な社会参加を可能にする点で、杖とは異なる社会的価値があるとの判断を示しています。
客観的な価値については、育成に要した費用を基礎に考えるのが相当とし、中部盲導犬協会が、全盲導犬に対して支出した育成訓練費用の平均が453万円であり、死んだ盲導犬、サフィー6歳の残りの活動年数、死ぬまでに向上した盲導犬の技能を加味して、賠償額を260万円としています。
つまり、盲導犬の死亡事故で、逸失利益が認められたのです。