東京地裁判決H18-6-15 平成17年(ワ)10078号 30:70
商店街の交差点をゆっくりと歩行中の91歳女性と、早足で脇見歩行の男性が衝突、女性が右大腿骨頚部骨折の傷害を負った事案で、女性被害者の過失を30%と認定しています。
本件交差点では、交差する各道路から多くの人が歩行しており、男性には、前方、左右の確認を十分に行い、歩行弱者の存在にも注意を払い、必要に応じて、進路変更、減速、停止等の措置を講じて、接触、衝突を回避すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、右前方の確認を怠って、女性の歩行に気づくことなく漫然と直進、交差点中央付近で、左方に買い物をする店を発見して振り返り、立ち止まったために、両者が衝突、女性が右仰向けに転倒して右大腿骨頚部骨折を負ったもので、民法709条に基づく不法行為責任を負う、一方、女性にも、自己の身体的能力に応じて、前方、左右の確認を行い進路、速度を調整しながら歩行すべき注意義務を負っていたものの、左前方の確認を怠り、男性の存在に気づかないまま直進した過失があると指摘、女性が高齢者であり、歩行のための身体的能力が劣っていたこと、さらに、女性の歩行速度が、ごく、ゆっくりであったことから、30:70の過失割合を認定しています。
この事故こそ、他人事ではありません。
男の子、当方のガキは、どこに出かけても、歩くことなく、走り回るのです。
やんちゃな2怪獣のお父さんである私は、身を乗り出して、この判決の分析を行いました。
この女性は、次女と同居、91歳ですが、事故前は、杖なし歩行で家事全般を担当、次女の経営する1階、洋品店の店番をするほど健康であったのですが、90日間の入院、観血的整復固定術を受け、退院後7カ月間の通院で、後遺障害12級7号が、裁判で認定されています。
事故後は、自宅内の伝い歩きのみで、外出時は、杖、車椅子の使用が必要となりました。
結果、判決は、男性に779万6373円+遅延利息の支払いを求めました。
裁判長の責任原因に対する冒頭の説明です。
「一般に、道路を歩行する者は、他の歩行者の動静を注視し、自己と他の歩行者とが接触、衝突することがないよう注意の上、歩行すべき義務を負っている。とりわけ、健康な成人歩行者は、弱者である幼児、児童、老人、障害者(視覚障害者など)、傷病者、妊婦などと接触、衝突すれば、これらの者は相対的に軽量またはであるため、転倒して負傷するに至る可能性があるから、これらの者の動静を注視しつつ、自己の歩行速度を調整し、あるいはこれらの者との間の十分な間隔を確保したうえ歩行すべき注意義務を負っている。」
NPOジコイチのコメント
被害女性の弁護士は、将来の介護費用1580万2310円、弁護費用300万円を含む3252万7348円の請求を行いましたが、被害者が高齢であっても、後遺障害は12級7号の認定であり、立証不足もあって、介護費用は却下され、弁護士費用も70万円の認容となっています。
訴訟判決では、弁護士費用も加害者、通常は加害者加入の損保が負担します。
これも覚えておくべきです。
個人賠償責任保険であれば、本件事故にも対応できるのですが、日本も訴訟社会に移行しつつあるので、保険金は無制限、示談交渉付きを選択しておかなければなりません。
損害の費目 | 判決認容額判決認容額と計算式 |
治療費 | 20万2910円 |
付添看護料 | 入院付添5000円×90日=45万円、通院付添3000円×38日=11万4000円、 |
入院雑費 | 1500円×90日=13万5000円、将来の雑費2万7976円、 |
通院交通費 | 2万4200円、 |
器具代 | 23万2758円、 |
自宅改造費 | 590万円の支出の内、221万6235円を認容、 |
文書料 | 3150円 |
休業損害 | 306万8600円×0.6×235日=118万2165円、 |
逸失利益 | 306万8600円×0.6×0.14×1.8594=47万9283円 |
慰謝料 | 入通院慰謝料217万円、後遺障害慰謝料290万円 |
過失相殺 | 1013万7677円×0.7=709万6373円 |
弁護士費用 | 70万円 |
判決額 | 779万6373円+H16-8-1を起算点とする年5%の遅延利息 |