醜状の障害

醜状の障害

2010年、平成22年5月27日、京都地裁は、労災事故で、顔や頚部に大火傷を負った35歳の男性に対して、女性よりも後遺障害等級が低いのは男女平等を定めた憲法に反するとの、違憲判断を示し労災保険の給付処分を取り消しました。
2010年6月10日、厚生労働省は、この違憲判決を受け入れ、控訴しないことを決定、64年ぶりに醜状障害の等級認定基準は見直されることになりました。
自動車損害賠償保障法施行令では、新基準は、2010年、平成22年6月10日以降に発生した自動車の運行による事故について適用すると規定しました。

1外貌と上下肢の露出面

等級 内容 自賠責 喪失率
12:外貌に著しい障害を残すもの 1051 56
9 16:外貌に相当程度の醜状を残すもの 616 35
12 14:外貌に醜状を残すもの 224 14
14 3:上肢の露出面に手の平の大きさの醜いあとを残すもの 75 5
14 4:下肢の露出面に手の平の大きさの醜いあとを残すもの 75 5

(1)著しい醜状 7級12号

外貌の著しい醜状とは、頭部では手のひら大以上の瘢痕、頭蓋骨では、手のひら大以上の欠損を残したときをいいます。手のひら(掌)とは、指の部分を除いた手の面積のことであり、個人により大小の違いがありますが、被害者の手のひらの面積と比較して、醜状の大きさが判断されています。

顔面部では、
①鶏卵大以上の瘢痕、
②5cm以上の線状痕、
③10円硬貨大以上の窪みを残したとき、
7級12号に該当します。

耳殻軟骨部の2分の1以上の欠損、鼻軟骨部の大部分を欠損したときも、著しい醜状に該当します。
しかし、耳殻軟骨部の欠損は、他の軟骨を移植、再建することができるようになっており、再生のレベルで後遺障害等級が認定されることになります。

(2)相当程度の醜状 9級16号

新基準で新たに設定された等級ですが、答申では、「外貌に相当な醜状を残すものには、現在、外貌の著しい醜状として評価されている障害のうち、醜状を相当程度軽減できるとされる長い線状痕が該当する。」 とあり、単なる線状痕が格下げされることになりました。

従来、女性に限っては、3cm以上の線状痕が後遺障害等級の対象であり12級、5cm以上となれば7級が認定されていたのですが、答申では、醜状を相当程度軽減できるとされる長い線状痕は、9級とする方向です。「相当程度軽減できるとされる長い線状痕?」 それにしても、曖昧な表現です。

ドスで切り裂かれたようなケロイド状の線状痕が5cm以上であれば、7級12号ですが、それ以外の線状痕では、9級16号になると覚えてください。

(3)外貌に醜状を残すもの12級14号

1)頭部では鶏卵大以上の瘢痕、または頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損
2)顔面部にあっては10円銅貨以上の瘢痕または3cm以上の線状痕
3)頚部では鶏卵大面積以上の瘢痕で人目につく程度以上のもの

頭蓋骨に鶏卵大の欠損を残すも、欠損部に人工骨がはめ込まれていれば、認定の対象となりません。

4)2個以上の瘢痕や線状痕
交通事故では、顔面に複数の醜状痕を残すことも予想されるのですが、
そんなとき、自賠責保険の運用規定では、「2個以上の瘢痕または線状痕が相隣接し、または相まって1個の瘢痕または線状痕と同程度以上の醜状を呈するときは、それらの面積、長さなどを合算して認定する。」と規定されています。ところが、相隣接する、相まってに関しては、具体的な説明がなされておらず、Giroj調査事務所の判断にもバラツキがあって、トラブルことが多いのです。
こんなときは、NPOジコイチに相談してください。

もう1つ、醜状痕の後遺障害認定は上記の醜状が存在することが前提ですが、さらに他人をして醜いと思わせる程度、人目につく程度以上でなければならないとされています。
この部分は、どうしても、審査するGiroj調査事務所の主観が、入り込むことになります。
男女に関係なく、チョー・イケ面からイケテナイに至るまで、人間の顔は多彩なラインアップで、イケ面なら目立つ線状痕が、あなたに限っては目立たないは、事実としてあるのです。

そこで、Giroj調査事務所は醜状痕の認定申請を行った被害者に対し、2名の担当者が面接調査を行い、色素沈着の程度・部位・形態などの確認を行い最終的な判断をしているのですが、NPOジコイチでは、本件を担当する弁護士に、被害者に同行して面接に立ち合い、具体的に、どんな大きさ、長さであったのかをシッカリ確認することをお願いしています。

例え、どんなに醜い醜状であっても眉毛・頭髪に隠れる部分は、計算対象から除外されます。
また、顎の下にできた醜状で、正面から確認できないものは、これも醜状痕としての後遺障害対象から除外されています。

(4)上・下肢の露出面の醜状 14級3号と4号、12級相当

上肢の露出面とは、上腕部、肩の付け根から指先、下肢の露出面は、大腿、足の付け根から足の背部までをいい、これらの部分に、手のひら大の醜状痕が残ったときは、上肢で14級3号、下肢で14級4号が認定されます。瘢痕の面積が、手のひらの3倍程度以上であれば、著しい醜状と判断され、12級相当が認定されています。

手のひら(掌)大とは、指の部分を除いた面積で、被害者の手のひらの大きさと比較して計測します。

上肢または下肢の露出面に複数の瘢痕や線状痕が存在するときは、それらの面積を合算して評価することになっています。長さではなく、面積の比較であることを覚えてください。
※労災は半袖、自賠責はノースリーブ、裁判ではタンクトップ

※左からそれぞれ労災・自賠責・裁判で着目すべき部分です。

上肢の露出面に醜状痕を残したとき、ピンク色の部分に注目してください。
労災補償障害認定必携の189ページ、(2)露出面の醜状障害では、
ア上肢または下肢の露出面とは、「上肢にあっては、肘関節以下、(手部を含む。)、下肢にあっては、膝関節以下(足背部を含む。)をいう。」 労災は、夏場であっても、仕事は半袖を着てするものと決めつけているのか、半袖からはみ出す部分についてのみ、醜状痕を認定しているのです。
自賠責保険では、「上肢の露出面とは上腕部、肩の付け根から指先、下肢の露出面は大腿、足の付け根から足の背部までをいう。」 自賠は、肩のつけ根から露出している部分、つまりノースリーブまでに範囲を拡げているのですが、ストラップレスドレス、肩紐のないドレスや胸元の開いたドレス、タンクトップまでは想定していません。

裁判では、個別具体的な事情に沿って主張することになり、損保との損害賠償交渉であっても、弁護士が、被害者個別の事情に則って醜状損害を主張するのは当然のことです。
結果、半袖、ノースリーブなどのルールはともかくとして、タンクトップまでが認められているのです。

とは言え、下肢の醜状障害となると、被害者が男性では、損保は、仕事への支障は少なく、労働能力が喪失したとはいえないとして、逸失利益を否定する傾向です。
NPOジコイチが着目するのは、被害者の症状です。
手のひらの3倍を上回る醜状、つまり12級相当の障害を残したときなど、痛みや、つっぱり感、感覚鈍麻の症状を随伴していることがほとんどで、仕事上の支障が0ではないのです。
連携する弁護士は、それらの症状を明らかにすることにより、逸失利益の請求につなげています。
症状が軽度で逸失利益が否定されるときでも、慰謝料の増額交渉を行います。
醜状障害の慰謝料では、通り相場がなく、交渉する弁護士の能力次第で増額できるのです。
過去には、下肢の醜状で12級相当が認められた男性について、裁判基準の290万円から200万円の増額を請求、後遺障害慰謝料490万円を獲得したこともあります。
同じ醜状でも、顔面となると、男性であっても、逸失利益が認められています。

Q 右胸部~右肘にかけて創痕と擦過瘢痕を残す32歳の女性が無料相談会に参加しました。
先の醜状を労災基準で捉えると非該当、自賠責保険基準では14級3号になります。
しかし、右胸部に残る擦過痕までを含めると、手のひらの3倍以上となり、12級相当は確実です。
すでに依頼している弁護士は、自賠基準で認められないから、請求できないと諦めています。
それって、本当でしょうか?

A 自賠責保険の認定基準では、14級3号が正しいのです。
したがって、異議申立を行っても上位等級を獲得することはできません。
しかし、基準は基準であって、不特定多数を一応区分している独自のルールに過ぎません。
本件では、実際に存在する醜状から、損害賠償交渉では、12級相当を主張して請求します。
損保の了解が得られないときは、東京地方裁判所で協議することになります。
諦めて14級3号で示談とするか?
12級相当の主張を展開して、大きな損害賠償額を目指すのか?
あなたの選択肢は2つです。

(5)日常露出しない部位

等級 内容 自賠責 喪失率
12 胸腹部または背部臀部の全面積の2分の1以上の瘢痕を残すもの 224 14
14 胸腹部または背部臀部の全面積の4分の1以上の瘢痕を残すもの 75 5

日常露出しない部位とは、上記イラストの塗りつぶした範囲の胸部・腹部・背部・臀部をいいます。
胸部+腹部、背部+臀部の合計面積の4分の1以上の範囲に瘢痕を残すものは14級、2分の1以上の範囲に瘢痕を残すものは12級相当が認定されます。

しかし、セレブの女性はローブ・デコルテなんてドレスをお召しになりますので、私に限っては日常露出しない部分ではないと、きっと主張なさるでしょう。

胸部+腹部、背部+臀部の合計面積の4分の1以上の範囲、または2分の1以上の範囲となると、
相当に大きなもので、女性であれば、水着姿になれない深刻なものです。
露出度は、年々高くなっており、最近の傾向として、運用上は、これ以下の面積であっても、等級は認定されているのです。
他人をして醜いと思わせる程度、つまり、人目につく程度以上のもの?
この規定が適用されることで、救済の道が開けることになり、簡単に諦めるのではなく、申請は行わなければなりません。

(6)申請のタイミング

なにがなんでも、受傷から6カ月を経過した時点で症状固定とし、後遺障害等級を確定させます。
申請は、創面癒着後6カ月と規定されており、縫合したときは、抜糸から180日後となります。
180日を経過すれば、骨折などで治療中であっても、顔面の醜状痕だけは、症状固定とすべきです。

損保は、全部まとめて申請されてはと指導しますが、それは無視してください。
なぜなら、創、切傷は、時間の経過とともに、僅かずつではありますが、収縮を続けていくのです。
すべての傷病の症状固定を待っていれば、5.2cmが、4.7cmになり兼ねないのです。
5㎝以上あったものが、2㎝に、消えてなくなることはあり得ないのですが、大方は、4.7cm、4.5㎝で、見た目は前と変わらないのに、自賠責保険の評価は、1051万円、もしくは616万円から224万円と下がります。いよいよ、2.9㎝に至っては、非該当で金銭的な評価は0円、泣いても、泣ききれないのです。

大半の被害者は、顔面の醜状を気にするあまり、美容形成で形成術を急ぐのですが、治療効果と損得勘定で考えるのであれば、急ぐべきは、6カ月後の症状固定であり、治療は後回しです。

医大系の形成外科における治療は、ほとんどが6~8カ月後、創や醜状の安定を待って、着手されており、つまり、目立たなくする、ベストな治療は、そんなに急いで実施されるものではないのです。

顔面に5㎝以上の線状痕を残すと、等級は7級12号であり、自賠責保険からの振込額は1051万円、
線状痕で9級16号が認定されても、616万円です。
それに対して、肩関節の著しい機能障害では、10級10号で461万円、
1耳の聴力を喪失しても、9級9号で616万円、
男性で片側の睾丸を喪失した男性では、11級10号で331万円です。
ですから、後遺障害を検討する4、5カ月では、この金額の大きさに注目しなければなりません。

事故が原因の醜状痕に対する形成術は、医大系総合病院の形成外科であり、入院を伴う手術であっても、健康保険の適用ができるので、高額療養費の支給を申請すれば、患者負担分が7万円を超えることなど、ありません。

(7)後遺障害診断書 記載の要領

後遺障害診断書は、見開きのA3サイズですが、⑦醜状障害の記載欄は、右上の隅、4.3×4.5mmと非常に小さく、記載を受けても、大変見にくいのです。

そこで、後遺障害診断に際しては、
①まず、デジカメで醜状の写真撮影を行います。
②町の写真屋さんに持ち込み、A4サイズのプリント画像に加工してもらいます。
③プリント画像に、透明フィルムを貼り付け、醜状の長さや面積を計測して書き込みます。
これを医師に見せて、間違いのないことを確認してもらい、後遺障害診断書に、別紙参照の記載を受けるのです。医師からも、手間が省けるので、大歓迎、喜ばれています。

皆様も、活用されては如何でしょうか?

(8)他の認定基準との比較

1)顔面神経麻痺

顔面神経麻痺は、本来は、神経系統の機能の障害ですが、その結果として現れる口の歪みは、外貌に醜状を残すものとして12級13号が認定されます。

まぶたの運動障害は、顔面や側頭部の強打で、視神経や外眼筋が損傷されたときに発症しています。

①まぶたを閉じる=眼瞼閉鎖
②まぶたを開ける=眼瞼挙上
③瞬き=瞬目運動
まぶたには、上記の3つの運動があり、まぶたに著しい運動障害を残すものとは、
瞼を閉じたときに、角膜を完全に覆えないもので、兎眼と呼ばれています。
同じく、まぶたを開いたときに、瞳孔を覆うもので、これは、眼瞼下垂と呼ばれています。
単眼で12級2号、両眼で11級2号が認定されています。
これらも、上記等級と、外貌の醜状障害による等級の内、いずれか上位の等級が選択されます。

顔面神経麻痺に伴い、口の歪みと眼瞼下垂を残したとき、醜状障害としてなん級になるのか?
口の歪みで12級13号、眼瞼下垂で12級2号、これらを併合し11級?
外貌に著しい醜状を残すものとして、7級12号?
外貌に相当程度の醜状を残すものとして、9級16号?
お顔を拝見しないことには、判断できません。

2)耳介の欠損?

耳介軟骨部の2分の1以上を欠損したときは、耳介の大部分の欠損としては12級4号ですが、醜状障害でとらえると、外貌に著しい醜状を残すものとして7級12号になります。
耳介の一部の欠損では、耳介の欠損としての等級はありませんが、外貌の醜状に該当すれば、12級14号が認定されています。

3)鼻の欠損、斜鼻、鞍鼻?

鼻軟骨部の全部、または大部分の欠損し、鼻呼吸困難、または嗅覚脱失を残したときは、9級5号ですが、醜状障害ととらえたときは、7級12号が認定されます。
上記の等級は併合されることはなく、いずれか上位が選択されます。
鼻軟骨の一部、または鼻翼を欠損したときは、鼻の欠損としての等級認定はありませんが、外貌醜状では、12級13号が認定されています。


斜鼻

鞍鼻

鞍鼻

鼻骨の側面を打撃したことで、鼻骨が横にずれた形となり、斜鼻を残したとき?
打撃が鼻骨の上からの打撃で、鼻骨が脱臼、陥没する鞍鼻を残したとき?
鼻の後遺障害として等級の定めはありませんが、いずれも醜状障害として申請することになります。
程度により、12級14号、9級16号、7級12号が認定されます。
イラスト右端のような鞍鼻であれば、7級12号となります。

耳介や鼻の欠損として後遺障害を申請するのか、それとも、醜状障害として申請するのか?
事前の検証が必要です。