腹部臓器の障害

自賠責保険では、腹部臓器の後遺障害について、1腹部臓器、2泌尿器、3生殖器の3つに分類し、等級を定めています。

腹部臓器の障害

さて、腹部の臓器は、実質臓器と管腔臓器の2種類に分類されています。
肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、胆嚢は、中味がシッカリと詰まった実質臓器であり、胃、12指腸、小腸、大腸などの、消化管は管腔臓器と呼ばれています。

交通事故では、腹部が強い衝撃を受ける鈍的外傷により、実質臓器や管腔臓器が損傷しています。
バイクの運転者が転倒・衝突する、車やバイクに歩行者がはねられるものが大多数で、腹部外傷の43%は、交通事故受傷を原因としています。
ナイフや拳銃による鋭的外傷に比較すると、損傷の範囲が大きいのが特徴です。

腹部内臓の外傷では、まず出血しているか? どこで出血しているか? これらの検証が重要です。
中心的役割を果たすのは、腹部超音波検査と造影剤を用いたCT検査です。
腹部超音波検査は、ベッドサイドでできる、器具を当てるだけの検査で、痛みを伴いません。
数十秒の検査時間で、腹腔内に出血があるかないかを調べることができます。
出血しているときは、繰り返し腹部超音波検査を行うことによって、出血が増えてくるかどうかを調べることもできます。しかし、エコー検査では、出血源を探し当てることが困難です。
したがって、出血が増えてくるときは、造影剤を用いたCT検査を追加します。
CT検査であれば、腹部超音波検査と比較して腹部や背部の深部まで観察が可能で、造影剤を用いることによって出血の勢いも描出することができます。

最近のMDCTは、30秒程度の検査時間で、腹部内臓の外傷を詳細に描出することが可能であり、腹部の外傷の診断に大きく貢献しています。
肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、胆嚢は、中味がシッカリと詰まった実質臓器であり、胃、12指腸、小腸、大腸などの、消化管は管腔臓器と呼ばれています。

※MDCT
マルチスライスCTのことで、2000年頃から、CTの検出器の多列化が始まり、1列だったCTが、大きな臓器を短時間で撮影するために 4、8、16、32、64列と検出器の列数が増え、2011年、東芝は320列のCTを開発し、動いている心臓さえも拍動を止めることなくCT撮影できる時代になっています。

(1)肝臓の仕組みと障害

肝臓の仕組みと障害

肝臓は、右上腹部に位置する体内最大の臓器です。
重さは成人で1200~1400gあり、心臓から送り出される血液量の25%に相当する1分間に1000~1800mlの血液が流れ込んでいます。
肝臓は判明しているだけで500種類の働きをしていますが、大きくは4つの機能に要約されています。
①胆汁の生成と分泌、②炭水化物、脂肪、蛋白、ビタミンの代謝・合成・分泌・貯蔵、
③胃、腸管から血液中に侵入した細菌や異物の補足、④生体異物、薬物などの代謝

人間の生命維持活動に重要な機能を果たしているのですが、5分の4を切除しても、やがて元の大きさに戻るという他の臓器にない復元力も備えています。
したがって、交通事故による肝損傷では、ほとんどで、後遺障害を残しません。

交通事故では、バイクの運転者が転倒・衝突する、車やバイクに歩行者がはねられ、腹部を強打することにより肝損傷をきたしています。さらに、肝臓は容積が大きく、被膜が薄いことから強打で損傷を受けやすく、腹腔内臓器の中では、もっとも損傷されることが多い臓器となっています。

肝臓には、肝臓動脈と門脈の2つの大きな血管から血液が流入し、静脈血は2本の肝臓静脈を通じて
下大静脈に流出しています。肝臓は血流が豊かであり、胸部大動脈や下大静脈など、太い血管と接しているところから、損傷レベルによっては、大出血および出血性ショックが予想されます。
深在性損傷の複雑型で、止血ができないときは、死に至るので、後遺障害の議論になりません。

肝臓の仕組みと障害

ウイルス性肝炎の後遺障害

等級 内容
9 ウイルスの持続感染が認められ、かつGOT・GPTが持続的に低値を示す肝硬変
11 ウイルスの持続感染が認められ、かつGOT・GPTが持続的に低値を示す慢性肝炎

これは、医療従事者の針刺し事故などによるウイルス性の慢性肝炎、これに由来する肝硬変や肝癌を想定した労災保険の認定基準であり、輸血によるB、C型肝炎に感染することを予想して掲載したものです。GOTはAST、GPTはALTに、呼び方が変更されています。
AST、ALTのいずれも、基準値は、30IU/L以下です。

※AST、ALT
AST、ALTは、どちらもトランスアミナーゼと呼ばれる酵素で、人体の構成要素であるアミノ酸をつくる働きをしています。トランスアミナーゼは肝細胞中に多く存在しているため、主に肝細胞傷害で血中に逸脱し、酵素活性が上昇します。このため肝機能検査と呼ばれ、広く使用されています。
ASTとALTの違いは由来する臓器の違いです。
ALTは主に肝臓に、ASTは肝臓のみならず心筋や骨格筋、赤血球などにも広く存在しています。
AST、ALTがともに高値、あるいはALTが単独で高値では、肝障害の可能性が高くなります。
ASTが単独で高値では、心筋梗塞や筋疾患、溶血性貧血など肝臓以外の疾患が予想されます。

(2)胆嚢の仕組みと障害

胆嚢の仕組みと障害

胆嚢は肝臓の下にある小さな器官で、肝臓で作られた胆汁の濃縮・貯蔵を行っています。
胆汁は、脂肪分を乳化して消化吸収をサポートする役割を有しており、必要に応じて胆管と呼ばれる管を通って12指腸の中に排出されます。肝臓で作成される胆汁を蓄え、濃縮するのが胆嚢であり、胆嚢と肝臓、12指腸をつないでいるのが胆管です。
多数例ではありませんが、交通事故では、腹部の強打により胆嚢破裂を発症することがあります。

※胆嚢摘出の後遺障害

等級 内容
13 11:胆嚢を失ったもの

胆嚢を摘出しても、胆汁を作るのは肝臓ですから、貯蔵・濃縮する場所はなくなりますが、胆汁は、直接、肝臓から12指腸へ供給されます。
当初は軟便が続くとしても、身体が慣れれば、濃度が薄い胆汁でも問題はないと言われていますが、全てが以前と全く同じという訳ではありません。

(3)膵臓の仕組みと障害

膵臓の仕組みと障害

膵臓はおたまじゃくしのような形で、胃の後ろに位置する長さ15cmの臓器で、消化液を分泌する外分泌機能とホルモンを分泌する内分泌機能の2つの機能を有しています。
膵液は、膵管を通して十二指腸内へ送られ、糖質を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなどの消化酵素、核酸の分解酵素を含んでいます。
また、膵臓のランゲルハンス島細胞からは、ブドウ糖の代謝に必要なインスリン、グルカゴン、ソマトスタチンなどのホルモンが分泌されています。
インスリンは、血液中のブドウ糖によりエネルギーを作るのですが、インスリンの不足、働きが弱くなると肝臓・筋肉・脂肪組織などの臓器でブドウ糖の利用や取り込みが低下し、血中のブドウ糖が増えることになり、血液中の血糖値が高くなります。
逆に、血液中の糖が低下すると、グルカゴンが分泌され、肝臓に糖を作らせて血糖値を上昇させます。
インスリンとグルカゴンによって、血液中のブドウ糖の量が一定になるように調節されているのです。

膵臓は、食物を消化し、ホルモンによって糖をエネルギーに変えるという、2つの働きを調節する役割を果たしています。
膵臓は胃の後面の後腹膜腔に位置しており、前方向からの外力では、損傷されにくい臓器です。
損傷を受けたとしても初期に診断することは難しく、膵臓液が腹腔内に漏れて激しい腹痛を訴えるようになってから膵臓損傷が疑われています。
とはいえ、日本では、交通事故による膵臓の損傷が増加しています。
バイク、ワンボックスの軽四輪では、ダッシュボードやハンドルなどで腹部を強打することにより、損傷しているのです。
事故直後は、おへその上部に、軽度の痛みを訴えるのみですが、時間の経過で、痛みは強くなり、背部痛、吐き気を訴え、実際に嘔吐することもあります。

血液検査により、膵臓の酵素の1つ、アミラーゼの血中濃度がチェックされています。
一度正常化した値が、再び上昇するときには、膵臓損傷が疑われます。
主膵管損傷を伴う膵臓損傷は、造影CTにより診断されています。
所見が明確でないときは、12時間後に再度、造影CTを行うか、内視鏡的逆行性膵胆管造影が実施され、確定診断がなされています。
主膵管損傷を伴う膵臓損傷に対しては、膵臓摘除術が選択されています。

※膵臓損傷の後遺障害

等級 内容
膵臓全摘、糖尿病型でインスリンの継続的投与が必要なもの
9 11:膵臓の切除により、内・外分泌機能の両方に障害が認められるもの
11 10:膵臓の切除により、内分泌機能に障害が認められるもの
10:血液検査で、血清アミラーゼまたは、血清エラスターゼの異常低値を認め、外分泌機能の低下が認められるとき
10:膵臓の部分切除はなされていないが、以下の2つが認められるもの
①CT、MRI画像で、膵臓の損傷が確認できること、
②上腹部痛、脂肪便および頻回の下痢など、外分泌機能の低下に起因する症状が認められ、かつ、PFD試験で70%未満または、糞便中キモトリプシン活性で24U/g未満の異常低値を示していること、
12 13:軽微な膵液瘻を残したことにより、皮膚に疼痛を生じるもの
14 9:疼痛のレベルによっては、14級9号が認定されることもあります。

等級は、残存した後遺障害の労働能力におよぼす支障の程度を総合的に判定することとされており、具体的な認定基準は、定められていませんが、緻密な立証により、別表Ⅰの2級2号、3級4号、5級3号、7級5号のいずれかが認定されています。