3 耳鳴りと耳漏

これらの2つは、いずれも難聴を伴います。
30dB以上の難聴を伴わないものは、後遺障害の対象とはなりません。

耳鳴りとは、どこからも音が聞こえないのに、耳あるいは頭蓋内に音を感じる状況です。
被害者の多くは、昼間はなにも感じないが、夜、布団に入るとジンジン、ザワザワとして眠れない?
このように訴えます。聴覚伝達路やその周辺に何らかの異常があって発症すると考えられていますが、医学的には未だ十分に解明されていない状況です。

オージオグラム検査、ピッチ・マッチ検査とラウドネス・バランス検査、マスキング検査で立証します。
オージオグラム検査で、30dB以上の難聴が認められ、著しい耳鳴りを常時残すことがピッチマッチ、ラウドネスバランス、マスキング検査などの他覚的検査により立証ができたものは12級相当が、高ヘルツの領域で30dB以上の難聴を伴い、常時耳鳴りを残すものは14級相当と認定されます。

中央が耳鳴り測定器
中央が耳鳴り測定器

著しい耳鳴とは、先の検査で耳鳴が存在すると認められるもの、耳鳴が常時存在するとは、昼間は自覚症状がないものの、夜間になると自覚症状を有するものをいいます。

耳漏は、交通事故受傷で鼓膜に穴が開き、外耳道から病的分泌物が流れ出す状況のことで、30dB以上の難聴で、常時耳漏を残すものは12級相当、30dB以上の難聴で、耳漏を残すものは14級相当と認定されます。

耳鳴り、耳漏とも、オージオメーター検査を受け、検査結果のオージオグラムを後遺障害診断書に添付しない限り、等級が認定されることはありません。さらに、事故後、数カ月を経過して耳鼻科を受診したときは、本件事故との因果関係が認められないので、直後から受診しておくことです。

内耳の損傷による平衡機能障害は神経系統の機能の障害で等級が認定されます。
内耳の損傷により平衡機能障害の他に聴力障害が認められるときは、それらを併合して等級が認定されています。事故外傷による外耳道の高度な狭窄で、耳漏を伴わないものは、14級相当となります。

Q1 頚部捻挫で難聴を伴う耳鳴りに、14級や12級相当が認定されていると聞いたのですが?

A 30dB 以上の難聴を伴い、著しい耳鳴りを常時残すことが他覚的検査により立証可能なものは12級相当、 30dB以上の難聴を伴い、常時耳鳴りを残すものは 14 級相当が認定されます。
耳鳴りはHPでも解説していますが、耳に交通事故外傷の存在することが認定要件でした。

ところが、今回、12級相当が認定された3名の傷病名は、いずれも外傷性頚部症候群です?
①事故直後から、難聴と耳鳴りを訴えていたこと、
②整形外科以外にペインクリニックを受診、星状神経節ブロック療法を受けていること、
③医大系病院の耳鼻科で、オージオグラム検査、ピッチマッチ検査、ラウドネス・バランス検査、マスキング検査を受けており、耳鳴りの存在を立証できていること、
以上が3名の共通項です。

頚部交感神経の損傷を原因とするバレ・リュー症候群では、後遺障害が認定されません。
バレ・リュー症候群の代表的な症状は、倦怠感、熱感、不眠、脱力感、眩暈、耳鳴り、難聴、眼精疲労、流涙、視力調節障害、頭痛、動悸、息切れ、四肢冷感、食欲不振、胃重感、悪心、腹痛、下痢、便秘等の自律神経失調症ですが、ペインクリニック=麻酔科における星状神経節ブロックなどの治療で改善が得られるところから、後遺障害の認定がなされないと理解していました。
そのことは承知していたのですが、3名の被害者の主たる症状は、事故直後から耳鳴りです。
受傷から6カ月を経過しても、改善は得られていません。
症状固定時の症状としては、耳鳴りしかないのです。
であれば、念のために耳鼻科で耳鳴りを立証しておくか? それで検査となったのです。
耳鳴りを立証する他覚的検査とは、以下の4つです。

1)純音聴力検査

オージオメーターで聴力の検査を受けます。
結果、30dB以上の難聴が認められるときは、引き続き、②③④の検査を受けることになります。

 2)ピッチマッチ検査

ピッチとは音の高さの感覚、周波数のことで、自分の耳鳴りがどの位の音の高さなのかを検査機械の音と比較して調べるものです。

3)ラウドネス・バランス検査

ピッチマッチテストと組み合わせて耳鳴りの音の高さでどの位の大きさなのかを測る検査、自分の感じている音と装置から出る音を聞き比べて耳鳴りの音の大きさを判断します。

4)マスキング検査

音をだして耳鳴りの音が消えるかどうか、消えるとしたらどの大きさで消えるかを調べるもの、

3人中1名の認定通知書には、「オージオグラム検査で90dB以上の難聴が認められ、ピッチマッチ検査で純音8000Hz、ラウドネス・バランス検査で聴力レベル90dB、マスキング検査で聴力レベル90dB 以上の検査結果から、1耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったものとして14級3号、および著しい耳鳴が常時あるものとして12級相当、これらを併合し12級に相当するものと認められる。」と記載されています。
一旦は、等級の認定を諦めたものが、あろうことか12級相当になってゴールインしたのです。
2012年8月当時は、大変、驚きました。

損保は、神経症状であるとして喪失期間を5年と積算しています。
私は、難聴を伴う耳鳴りを5年で軽快する神経症状と決めつけていいのか?
5年を経過したら元通りに治るのか?
このように考えており、示談交渉は、弁護士にお願いしています。

Q2 難聴の後遺障害の立証ですが、オージオメーター、スピーチオージオメーターでは駄目ですか?

A 昨年10月に赤信号で停車中、トラックに追突されました。
頚椎捻挫、腰椎捻挫、右耳難聴で整形外科と耳鼻咽喉科に通院していましたが、今年の7月、損保からは、「弊社の顧問医がオージオメーター、スピーチオージオメーターの検査結果から、耳10級6号が認定されるとのことです。弊社としても意見書を添付してサポートしますから、症状固定として後遺障害診断を受けてください。」 と言われ、7/14に後遺障害診断書を損保に送りました。

2カ月を経過して、損保から連絡がなされ、「顧問医にチェックを求めたところ、大きな病院の耳鼻科でABR検査を受けるように指示されました。」 とのことです。
ABRは、主に、乳幼児や脳死などに用いられる検査で普通はオージオでいいと聞いたのですが?
身体も辛いので2日も大学病院に行くのは正直、しんどいです。ABR検査はどうしても必要ですか?
損保の顧問医は、因果関係の立証に必要と説明しているそうです。
実は、MRIに過去の小さな脳梗塞の跡があるので、それを理由に非該当にしようとしているのか?
不安になってしまい、適当な損保の担当者も信じられない気持ちです。
いっそ被害者請求に切り替えたほうが良いのでしょうか?

A 「頚部捻挫から生じる難聴であれば、難聴が後遺障害として真正面から議論されることはありません。難聴が後遺障害として議論されるのは、頭蓋底骨折や頭部外傷によるもの、耳そのものの外傷によるものに限られています。」 これが従来のNPOジコイチの公式見解でした。

ところが、2011年頃から、頭部外傷でなくても、実は、複数が認定されているのです。
本件の質問では、損保が、10級6号を持ち出すなど、異例の展開となっています。
検査結果が記載されておらず、本当に10級6号なのかは、藪の中です。

この被害者が指摘するように、一般的には、純音聴力検査(オージオメーター)と語音聴力検査(スピーチオージオメーター)の検査結果で等級の認定がなされています。
注意点は、
①7日間の間隔で3回の検査を受けること、
②純音聴力検査では、2回目と3回目の測定値の平均で認定されること、
③2回目と3回目の測定値に10dB以上の差が認められるときは、さらに、聴力検査を行って、2回目以降の検査で、その差がもっとも小さい(10dB未満)ものの平均により認定されることでした。

ところが、オージオメーター、スピーチオージオメーターの検査は、聞こえる、聞こえないは、被害者の自覚的な応答で検査結果が導出されています。

一方、ABR=聴性脳幹反応、SR=あぶみ骨筋反射検査ですが、ABR は音の刺激で脳が示す電気生理学的な反応を読み取って、波形を記録するシステムです。
中耳のあぶみ骨には耳小骨筋が付いており、大音響が襲ってきたときは、この小骨筋は咄嗟に収縮して内耳を保護するのですが、この収縮作用を利用して聴力を検査するのがSRです。
いずれも、被害者の意思で、検査結果をコントロールすることはできません。
被害者は眠っていても検査を受けることができるのです。

つまり、本件の被害者の検査結果は、顧問医から決定的に疑われているのです。
こうなると、ABR検査を拒否することはできません。
先の検査でゴマカシがなければ、ABR検査でも難聴を立証することができます。

私は、知恵袋のこの質問に回答はしていませんが、
「身体も辛いので2日も大学病院に行くのは正直、しんどい?」
「MRIに過去の小さな脳梗塞の跡があるので、それを理由に非該当にしようとしている?」
「適当な担当も信じられない?」
これらの記述から、ABR検査では、等級が認定されないことを知っているのではないか?
これまでの経験則から、深読みしています。

良寛和尚の句に、「裏を見せ、表を見せて散るもみじ」があります。
やましいところがなければ、堂々とABR検査を受けて立証すればいいのです。
それだけのことで、今さら、ABR検査を拒否して被害者請求はありません。