循環器 心臓の仕組み

心臓の仕組み

心臓は、左右に2つの心房と心室の合計4つの部屋に分かれており、還流してきた静脈血は右心房から右心室へ移動、肺を経由して動脈血となり、左房、左室を経由して全身へと送り出されています。
心房は、血液を集めて心室に送り、心室が、血液を血管に送り出しているのです。
心臓の機能は、ポンプで血液を送り出すことです。
心臓の右側部分は、血液中に酸素を取り込み、二酸化炭素を放出する器官である肺へと血液を送り出します。心臓の左側部分は全身に血液を送り出します。
これにより、全身の組織に酸素と栄養分が運搬され、各部で二酸化炭素などの老廃物が血液中に取り込まれ、肺や腎臓などの器官で排出するために運ばれます。

交通事故における心外傷では、ハンドルなどによる強い胸部打撲を原因とするものが想定されます。
2013-10、歌手の桜塚やっくんが、交通事故による心臓破裂で死亡されています。

※弁の仕組み
心臓は、全身に血液と酸素を供給する、ポンプの役割を果たしています。
全身に酸素を届けたあとの血液=静脈血は右心房から右心室へ戻り、肺に送られます。
肺で酸素が供給された血液=動脈血は、左心房から左心室へ送られ、大動脈を通って全身を循環し、酸素を届けます。これらの一連の動きは、途絶えることなく、1日に10万回も繰り返されています。

血液の流れを一定方向に維持するために、心臓内の4つの心室には、弁が設置されています。
①右心房と右心室にあるのが三尖弁、②右心室と肺動脈の間に肺動脈弁、
③左心房と左心室の間に僧帽弁、④左心室と全身をめぐる大動脈の間にあるのが大動脈弁です。
弁の疾患として、よく耳にするのは、心臓弁膜症です。
ここで解説するのは、外傷を原因とした弁の損傷で、代表的なものは、ピストルなどの弾丸、鋭利な刃物による穿通性心臓外傷です。

私は、トラックの荷崩れにより、ロープが掛かっていた鉄製のフックが後方に飛び、後方を走行中の軽トラックの運転手を直撃、大動脈弁を損傷した被害者を担当した経験があります。
金属片が胸部を直撃したような工場内の労災事故であれば、複数例の経験があります。
さすがに、刃物、弾丸の経験はありません。
ネットでは、バイク事故2、自動車事故4、転落1例が紹介されています。

※冠動脈の仕組み

冠動脈の仕組み

心臓は、大部分が心筋という筋肉でできている臓器であり、心臓は、心筋が収縮、拡張を繰り返すことで、1分間に約5リットルもの血液を全身に送り出すポンプの役割を果たしているのです。

当然ですが、心筋も、絶えず酸素が供給されないと、十分な働きをすることができません。
心筋は、その他の筋肉と比較して約3倍の酸素を必要としており、冠動脈により、優先的に新鮮な動脈血が供給されるようになっています。
冠動脈は、大動脈の根元より左右1本ずつ分岐し、心筋の表面を冠のように覆っています。

頻繁に発症するのではありませんが、交通事故や高所からの転落で、胸部に強い衝撃を受けたとき、冠動脈が裂傷することがあります。冠動脈の裂傷により、心筋に十分な血液を送れなくなると胸部痛が出現、この状態を狭心症といい、さらに、心筋に全く血流を送れなくなると、心筋は働けなくなり、壊死します。心筋が壊死した状態を心筋梗塞と言います。

冠動脈の裂傷では、心タンポナーデなど重篤な事態に至ることも予想されますが、縫合やバイパス手術が実施されとときは、冠動脈そのものに障害が残存することはありません。
ただし、冠動脈の狭窄または末梢の閉塞が残存し、心筋虚血を来し、胸痛が生ずることが想定されるときは、狭心症に準じて、障害が審査されています。
また、冠動脈損傷の時点で、心筋への血流が途絶え、心電図、血液生化学検査または画像所見により心筋壊死が認められるときは、心筋梗塞に準じて、障害が審査されています。
ここでは、心外傷を4つに分類し、それぞれを解説していきます。

(1)循環器 心臓の後遺障害の立証

1)心機能の低下

①心機能の低下による運動耐容能の低下が中等度であるものは、9級11号が認定されています。
おおむね6METsを超える強度の身体活動が制限されるもので、平地を健常人と同じ速度で歩くのは差し支えないが、平地を急いで歩く、健常人と同じ速度で階段を上るという身体活動が制限されるものをいいます。

②心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度であるものは、11級10号が認定されています。
おおむね8METsを超える強度の身体活動が制限されるもので、平地を急いで歩くことや、健常人と同じ速度で階段を上るなどの身体活動に支障はないが、それ以上の激しい運動や急激な身体活動が制限されるものをいいます。

※メッツ、 METs
メッツとは運動や身体活動の強度の単位で、横になったり座って楽にしている状態を1、それと比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示します。
3メッツ⇒歩く・軽い筋トレをする・掃除機をかけるなど、
4メッツ⇒速歩、ゴルフ、自転車に乗る、子どもと屋外で遊ぶ、洗車するなど、
6メッツ⇒軽いジョギング、エアロビクス、階段昇降など、
8メッツ⇒長距離を走る、クロールで泳ぐ、重い荷物を運搬するなど、

2)除細動器またはペースメーカを植え込んだもの

①除細動器を植え込んだものは7級5号が認定されています。
除細動器を植え込んだことによる障害と心筋梗塞後の障害とでは、内容、性質を異にしており、これらの等級は併合されています。
心筋梗塞後に出現した不整脈治療のため除細動器を植え込んだものは、7級5号、
心筋に壊死を残し、心機能=運動耐容能の低下が中程度と認められるものは9級11号、
上記は併合され、併合6級となります。

※除細動器

除細動器

除細動器とは、心室頻拍あるいは心室細動を検出して心室頻拍には低エネルギー通電、心室細動には高エネルギー通電を行う植え込み型のシステムです。

②ペースメーカを植え込んだものは、9級11号が認定されています。
ペースメーカを植え込んだことによる障害と心筋梗塞後の障害とでは、内容、性質を異にしており、これらの等級は併合されています。
心筋梗塞後に出現した不整脈治療のためペースメーカを植え込んだものは、9級11号、
心筋に壊死を残し、心機能=運動耐容能の低下が軽度と認められるものは11級10号、
上記は併合され、併合8級となります。

※ペースメーカ

ペースメーカ

ペースメーカは、人工的に心臓の調律を維持する機器です。
心室細動
心室細動とは個々の心室筋細胞は収縮と弛緩を繰り返しているのですが、心室全体としての収縮や弛緩は消失しており、心臓としてのポンプ機能がほとんど見られない状態を言います。

3)心臓の弁⇒大動脈弁、僧帽弁または三尖弁を置換したもの

機械弁の長所は、優れた耐久性ですが、血栓が形成されやすくなり、脳塞栓や弁の機能不全をきたすことも予想されることから、生涯、抗凝固薬を飲み続けることになり、定期的な受診も必要となります。


※左の画像が「機械弁」、右の画像が「生体弁」です。

代表的な経口抗凝固薬は、エーザイのワーファリンです。
また、抗凝血薬療法では、外傷などで出血すると出血量が大きくなり、出血部位によっては重篤な事態に至る可能性があり、製造業や建設業など、外傷を負いやすい職種は避ける必要があります。
牛の心膜や豚の大動脈弁に置換する生体弁の長所は、血栓ができにくいこと、感染症に強いことですが、短所としては、耐久性が悪く、一般的には、15年で再置換の必要があるといわれています。
①心臓の弁を機械弁に置換したものは、9級11号が認定されています。
生体弁に置換したものでも、抗凝血薬療法が不可欠となるものは、9級11号が認定されています。

②生体弁に置換し、抗凝血薬療法を行わないものは、11級10号が認定されます。

③弁の損傷は認められるが、身体活動に制限はなく、通常の身体活動では疲労、動悸、呼吸困難を生じない、運動耐容能がおおむね8METsを超えるものと医師が認めるものは、運動負荷試験で立証することで、11級10号が認定されています。

4)大動脈に偽腔併存型解離を残すもの

大動脈に偽腔併存型解離を残すもの

大動脈はパイプ状構造ですが、その壁は1枚ではなく、3層構造となっています。
血液に接する内側から、内膜/中膜/外膜と呼ばれています。
内膜は、内皮細胞が敷き詰められた構造となっており、ベッドで言えばベッドパッド、中膜は、血管の壁
が膨張・収縮するのを支える、弾性線維、筋肉であり、ベッドに例えれば、スプリングマットのような構造、そして、外膜は血管壁を外部から守る線維構造となっています。

大動脈解離は、身体の中で一番太い大動脈が裂ける病気で、血管が破裂してショック症状を引き起こし、身体に酸素や栄養が供給されない緊急事態が一瞬のうちに起こります。
病院に到着前に50%の人が死亡すると言われており、致死率の高い、緊急性を要する外傷です。

大動脈解離

大動脈が縦裂きになった状態を大動脈解離と言います。
縦裂きとは具体的には、内膜のどこかに傷ができ、本来、血液が流れるべき血管の内側から内膜の傷を通して内膜の外に血液が流出し、内膜と外膜が中膜のレベルで剥がれ、裂けてしまう状態のことを言い、解離とは剥がれて、裂けることです。
血液が流れるべきでない場所、偽腔または解離腔にも、血液の流れや溜まりが生じます。
内膜にできた穴をエントリーと言います。
剥がれた内膜のヒラヒラはフラップと呼ばれています。

約70%が高血圧を原因としており、その他には、外傷性、血管の病気、妊娠、大動脈2尖弁の先天的異常がありますが、ここでは外傷性について説明します。
高所からの転落や、交通事故のハンドル外傷など、胸部に大きな衝撃が加えられたとき、大動脈に間接的に衝撃が加わって解離を生じると想定されています。
大動脈解離では、真腔と偽腔が交通している偽腔開存型が多いのですが、偽腔に流入した血液が比較的短期間で血栓・器質化し、偽腔に血流のない偽腔閉塞型となることがあります。
偽腔閉塞型では、解離部の線維化が完成すると、解離部は正常な血管壁よりむしろ強靱となり、破裂する危険はなくなると考えられており、後遺障害の認定はありません。

偽腔開存型を残しているものは、11級10号が認定されています。
偽腔併存型とは、中膜が解離して偽腔が生じたもので、ピラピラの偽腔開存型を残しているものは、大動脈径の拡大を避けるという観点から、血圧の急激な上昇をもたらすような重労働は制限されることになり、労務に一定の制限が認められるところから、11級10号が認定されています。
日常生活や通常の労働に制限が生じることはありません。

5)循環器障害が想定される傷病名

心膜損傷、心膜炎、冠動脈の裂傷、心挫傷、心筋挫傷、大動脈弁、僧帽弁または三尖弁の弁尖損傷、腱索または乳頭筋の断裂、外傷性大動脈解離の8つの外傷が想定されます。
これらは、ホームページ、傷病名と後遺障害のキモ 胸腹部臓器で解説しています。

※横隔膜の仕組み

横隔膜の仕組み

ヒトは、生きるために、呼吸を続けなければなりません。
呼吸とは、口・鼻から入った空気を肺に送り込み、空気中の酸素を血液の中に取り込み、燃えカスとなった二酸化炭素を排出することです。
ところが、肺には筋肉がないので、自力で膨らませる、縮ませることができません。
では、どうやって肺呼吸は行われているのか?
肋間筋、頚部や腹部の筋肉もサポートしているのですが、主体的には、横隔膜の筋肉の働きにより、肺呼吸が行われているのです。
横隔膜は、胸骨、肋骨、脊椎からなる胸郭、つまり籠型の骨組みの底面に付着しています。
ドーム状の薄い膜の筋肉で、胸腔と腹部を仕切る蓋の役目を果たしています。
横隔膜が縮んで下がると、胸腔がふくらみ、肺の中に空気が入って息を吸うことができます。
反対に横隔膜が伸びて上がると胸腔はしぼみ、肺の中の空気が排出されるのです。
余談ですが、焼肉のハラミは、牛の横隔膜のことで、最近、塩ハラミにはまっています。

横隔膜の痙攣により、伸び縮みを繰り返すと、シャックリになります。
交通事故では、胸部に対する強い打撃により、横隔膜が破裂することがあります。
重篤な傷害ですが、発見が早ければ、オペで一定の改善が得られます。
もう1つは、横隔神経の切断です。
横隔膜の筋肉は、頚椎、C3=横隔神経により支配されています。
上位頚髄損傷で、横隔神経が切断されると、自力呼吸ができなくなり、人工呼吸器=レスピレーターの装着が余儀なくされます。
上位頚髄損傷では、四肢体幹麻痺を伴い、自力で体動することができません。
常時、介護が必要な状態となり、別表Ⅰの1級1号が認定されますが、循環不全により、長生きは期待できない深刻な外傷です。

※横隔膜の障害が想定される傷病名
1外傷性横隔膜破裂、2横隔膜へルニア、3頚椎の脱臼骨折に伴うC3神経の断裂の3つが予想されるのですが、これらは、ホームページ、傷病名と後遺障害のポイント 胸腹部臓器で解説しています。

※食道の仕組み

食道の仕組み

ヒトは、生きるために食事をしますが、その際、重要な役割を果たしているのが消化管です。
飲食物は口の中で細かく噛み砕かれ、消化管に送り込まれます。
消化管は、口⇒咽頭⇒食道⇒胃⇒十二指腸⇒小腸⇒大腸⇒肛門という順序で食物を通過させているのですが、咽頭~肛門に至る消化管は、日本人の平均で9~10mの長さです。

消化管は、食物を分解・消化し、栄養分を体内に吸収、その残りカスを糞便として体外に排出させているのですが、その中にあって、食道は、約25cmの管であり、口の中で噛み砕かれた飲食物を胃まで送り込む役目を果たしています。なお、食道では、消化や吸収の作業は、行っていません。

咽頭部から食道に入った飲食物は、食道の壁が収縮するぜん動運動で胃まで運ばれており、お茶やジュースなどの飲み物では1秒で、固形食物であれば5~7秒で食道を通過し、胃に到達します。
飲食物は、重力によって、上から下に送り込まれているのではなく、食道が波打つようなぜん動運動によって、胃に運ばれていくのです。
この運動により、寝転がっていても、逆立ちであっても、飲み込んだ飲食物が胃に到達するのです。

食道の上下両端には、安静では閉鎖し、嚥下では緩む括約部=筋肉があります。
咽頭に近い上部括約筋は、食物の食道からの逆流を防止、吸気時には、空気が胃へ流れ込まないように収縮しています。
胃に近い下部食道括約筋は、嚥下では、緩んで食物を胃に送り込みますが、平常は、胃酸を含む胃の内容物が逆流しないように締めつけています。
ヒトは、舌を変形させ、左右の歯で噛めるよう食物の移動を行い、噛むことで、唾液と充分混ぜ合わされ、飲み込みやすい食物の塊を作っています。

口の奥にある咽頭の入り口部分に、食道へ向かう管と、空気を肺へと送る気管との分岐点があります。ここから、胃の入り口までが食道で、体のほぼ中央、脊椎骨の前側に位置しています。
頚部食道は気管に接しており、胸部食道の近くには肺や心臓、心臓からでている大動脈、横隔膜など、生命の維持に重要な臓器があります。