(1)労災保険適用のメリット

仕事中や通・退勤途上における交通事故受傷では、被害者は、加害者以外に、勤務先が加入する労災保険に対して治療費や休業給付金の人身損害を請求することができます。
では、労災保険適用のメリットを検証してみます。

メリット1 治療費の全額が、労災保険により支払われる?

健保適用のように、被害者の一部負担はなく、治療費の全額が労災保険から支払われます。
貴方に過失が認められる事案でも、治療費の過失相殺は労働基準監督署の求償請求に対して実施されるので、貴方は、治療費部分の過失をかぶることはありません。

メリット2 休業期間中の休業給付金は、休業4日目から支給される?

※休業給付金の計算式
(事故前3カ月間の総支給額÷3カ月間の総日数×60%×休業日数)

自賠責保険や任意の自動車保険では、1カ月を30日と計算、90日で割っていましたが、労災では暦日通りの計算となり、有給休暇の買い上げはなされません。
この点が、損保とは異なります。

メリット3 上記の休業給付に加えて、休業特別支給金が支給される?

※休業特別支給金の計算式
(事故前3カ月間の総支給額÷3カ月間の総日数×20%×休業日数)

厚生労働省は傘下に労働者健康安全機構を擁し、結婚式場やホテルを全国で運営しています。
この運営利益の中から支給されるものが、特別支給金で、労災保険制度上の恩典です。
損保から100%の休業損害の支払いがなされていても、請求すれば、給与の20%が支給されます。
この場合は、120%を取得できたことになります。

メリット4 自賠責保険と労災保険の両方に、後遺障害の申請ができる?

損保では、自賠責保険を通じて、Giroj調査事務所が後遺障害を認定します。
労災保険は、それとは関係なく、各地の労働基準監督署が独自に認定しています。
Giroj調査事務所が、後遺障害診断書と画像だけを参考に審査、認定するのに対して、労働基準監督署では、顧問医が被害者を直接、診断して等級を認定しています。
類似の認定基準を使用していますが、自賠責保険に比較すると、被災労働者を救済する考え方が貫かれており、被害者に寛容な等級認定となっています。

※Giroj
損害保険料率算出機構 General Insurance Rating Organization of Japan

労災保険は、補償保険であり、慰謝料の概念はなく、被害者に対する慰謝料の支給はありません。
国は、加害者ではありませんよと言っているのです。
労災保険は、後遺障害の支給では、自賠責保険との支給調整が行います。

頚腰部捻挫で14級9号が認定されると、自賠責保険は75万円を被害者の口座に振り込みます。
75万円の内訳は、
①後遺障害慰謝料32万円、
②逸失利益が43万円、

労災保険でも、14級が認定されると給付基礎日額の56日分が支払われることになります。
(事故前3カ月間の総支給額÷事故前3カ月間の総日数)=給付基礎日額

仮に、給付基礎日額が1万円のときは、1万円×56日分=56万円が支払の対象ですが、自賠責保険から振り込まれている75万円の内、逸失利益43万円は差し引かれます。
56万円-43万円=13万円が支払われることになり、これを支給調整といいます。
これ以外には、障害特別支給金として8万円、ボーナス特別支給金が56日分支払われています。
(過去1年間に支払われたボーナスの支給額÷365日)=ボーナス特別支給金
両方を総取りすることはできませんが、両方から支給される事実に変わりはありません。

メリット5 労災保険では、後遺障害等級が7級以上は、障害年金で支給される?

Q 私はH29-10-1、通勤途上、青信号で横断歩道を歩行中に、対向右折車の衝突を受けました。
病院に救急搬送され、右脛・腓骨遠位端骨折、右腓骨神経麻痺の傷病名で2カ月入院し、退院後は4カ月間のリハビリ通院を続け、H0-3-31に症状固定、右下肢について7級相当の認定を受けました。
相手方の損保よりは、6994万4716円の損害賠償を受け、示談が成立しています。

労災保険には、通勤災害の申請で、58万6944円の休業特別支給金が振り込まれています。
先日、後遺障害診断で労働基準監督署に出向いたのですが、後遺障害は、併合7級で、支払いは年金払いとなるが、詳細は書面で通知すると言われました。
私は50歳で、年収は850万円、月収は50万円でボーナスが夏冬で250万円です。
私には、どれ位の年金が支給されるのでしょうか?

A 一時金と年金の支払いが競合したときは、年金の支払いを3年間ストップし、4年目から支給することが決められていたのですが、H25-3-29、「都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知」 により、H25-4-1以降の事故については、7年間の待機に改定されています。

したがって、本件では、一時金である障害特別支給金の159万円とボーナス分の特別年金、年額89万7219円は支給されますが、障害補償年金、213万5824円は、7年間支払いがストップされ、8年目から支給されることになります。

貴方は、示談締結により、加害者側の損保から6994万4716円の支払いを受けています。
ストップされた7年間の障害補償年金額は、213万5824円×7年=1495万0768円ですが、そうであっても、8年目からは、毎年213万5824円の障害補償年金が支給されるのです。

7年間をストップすることの根拠法は、労災保険法第12条の4ですが、最高裁H5-3-24大法廷判決が優先され、傷害補償年金額が6994万4716円を超える33年間をストップさせることはできないのです。

※労災保険法第12条の4
1.政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
2.前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる

※最高裁H5-3-24大法廷判決
障害補償年金、遺族補償年金、障害年金、遺族年金などの年金給付については、支給を受けることが確定した年金給付額の限度で損益相殺が認められますが、
未だ支給を受けることが確定していない将来の年金の額については損益相殺を認めることはできない。

1~7級は、障害補償年金
後遺障害等級 障害補償年金(日数) 障害特別支給金(万円) 障害特別年金(日数)
1 313 342 313
2 277 320 277
3 245 300 245
4 213 264 213
5 184 225 184
6 156 192 156
7 131 159 131

 

8~14級は、障害補償一時金
後遺障害等級 障害補償一時金 障害特別支給金 障害特別一時金
8 503 65 503
9 391 50 391
10 302 39 302
11 223 29 223
12 156 20 156
13 101 14 101
14 56 8 56

※障害(補償)年金
後遺障害等級が7級以上で支給され、1級であれば、給付基礎日額×313日分が年金額となります。
※給付基礎日額
(事故前3カ月間の総支給額÷事故前3カ月の暦日の日数)
※障害特別一時金
1~14級の認定等級に応じて一時金で支払われます。
※障害特別年金
これは、ボーナスとして支給されたものが年金に反映されるものです。
(事故前1年間に支給されたボーナスの額÷365日)で日額を求めます。
認定等級が8~14級では、年金ではなく、一時金として支払われます。

メリット6 将来の再発にも対応がなされる?

例えば、股関節の後方脱臼骨折後、変形性股関節症となり、事故受傷から7年を経過した段階で大腿骨頭壊死となり、大腿骨頭置換術が実施されることになったとき、一般的にはその手術を受けた後に、再度、後遺障害診断を受け、自賠責保険に被害者請求を行います。
以前の認定等級が12級で、術後の等級が10級になったときは、この差額が振り込まれます。
しかし、入院、手術の治療費や、休業に伴う休業損害は、被害者のマルマル自己負担です。
労災保険では、主治医から再発申請が提出されたとき、この時点から労災保険の適用がなされます。
治療費はもちろん、入通院で休業中のときは、労災は、休業給付金を支給してくれます。

メリット7 症状固定後の治療費も負担してくれる?

脊髄損傷、頭頚部外傷症候群、尿道狭窄、慢性肝炎、大腿骨頚部骨折および股関節脱臼・脱臼骨折、人工関節・人工骨頭置換、慢性化膿性骨髄炎、外傷による末梢神経損傷、熱傷、精神障害については、アフターケア制度が設けられています。
この制度を利用すれば、症状固定後の治療費も労災保険が負担してくれます。
損保が、症状固定後の治療費を負担することはありません。
5、6、7は、とりわけ大きなメリットになります。

メリット8 被害者は、国に優先して自賠責保険からの支払いを受けられる?

新しい判例の紹介です。

※最高裁H30-9-27判決
従来は、自賠責保険に対する被害者請求と労災保険の求償請求が競合したときは、その金額を按分比例して支払われることになっていたのですが、今回の最高裁判決では、被害者が労災保険給付を受けてもなお塡補されない損害について直接請求権を行使するときは、他方で労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され、被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても、
被害者は、国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で自賠法16条1項に基づき損害賠償額の支払を受けることができるものと解するのが相当であると判示されました。

最新の判例を交え、労災保険適用のメリットを解説してきました。
交通事故であっても、業務中、通勤途上の災害であれば、労災保険を適用することができます。
本来は、絶対に適用すべきなのですが、日本においては、労災保険に対する間違った理解、公務員の不正な誘導などがあり、しばしば、労災適用が阻まれることがあります。
労災保険の正しい適用を促進するために、これらの都市伝説を検証していきます。